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32

シルヴィは何度目か分からないため息を吐いた。


折角リディアが戻って毎日が愉しくて仕方がなかったのに……。


「半月以上もリディアちゃんと会えないなんて‼︎こんな酷い話ってある⁉︎」


朝っぱらから、バンっとテーブルを叩き大きな声を上げる。


「……お前は贅沢だな。半月会えないくらいで朝から騒ぐな」


「……兄さん」


「私なんて、振られて……いや、そもそも眼中にすら無かったんだ……。リディアの言ってくれた好きは、お前なんて眼中にないわ!の意味だったんだ……私は一生、リディアには振り向いて貰えない……」


朝から暗っ!


「そんな意味の、好きってないと思うけど……」


最早何を言っているのか、シルヴィには理解出来ない。

シルヴィは、軽く咳払いをして静かに座り直す。


「兄さん、気持ちは分かるけど……確りして頂戴。エクトル様も随分心配なさってるわ」


あれから連日エクトルは、リュシアンに付き添い帰宅してくれていた。何時も兄を支えてくれいる。やはり優しい方だと、改めて感嘆する。


「あんなに意気込んでいたのに、一回振られただけでだらしないわよ。リディアちゃんは、超絶鈍感なんだから、良い意味で。だがら兄さんを振った自覚すらないの。ならまだまだこれからよ!諦めるには早いわ。それに折角、婚約破棄になったんだから……もしかしたら運命かも知れない……これは試練よ!兄さん」


シルヴィは立ち上がると、リュシアンの両肩を掴むと激しく揺すり気合いを入れる。


「シ、シルヴィ……ありがとう。頑張るよ」


儚く笑うリュシアンを見ながらシルヴィは思った。私も人の事言えない……頑張ろう……。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


馬車は街を抜けて、森へと差し掛かり揺れが大きくなった。





ガリっと音を立てて、ディオンは黒い塊を噛み砕く。


これはまた、苦いな……。


出立の前日、リディアはまたブノアと共に菓子作りに勤しんでいた。今度はマカロンなるものを作ると言っていたが……。

ブノアが作った分は綺麗な焼き色だったが、その隣に置かれていたリディア作のマカロンは予想通り黒焦げだった。


「ねぇ……無理して食べなくていいけど」


正面に座っていたリディアは、拗ねた様な表情を浮かべている。


「勿体ないだろう、こんなにあるんだから」


少し大きめの麻袋を持ち上げて見せる。負けず嫌いの妹は、綺麗に出来るまで頑張ったらしく、気付けばこんな量になっていたそうだ。だが、結局一つも上手くいかなかった……本当に莫迦な奴だとディオンは口元が緩む。


「流石に、作り過ぎだよ。下手くその癖にさ」


本来は軽い食感らしいが、これはガリガリとして硬い。最早食べ物と呼ぶのには躊躇われる……。


「一言余計だから!……そう言えばブノアがマカロンにクリーム挟むともっと美味しくなるって教えてくれたの。だから、向こうに着いたら材料を調達したいんだけど」


成る程。確かにブノアの作ったマカロンにクリームを挟めばいい感じになりそうだ。反して今ディオンが食べている黒い塊に挟んだ所で、逆に味が複雑になり不味くなりそうだ。


「ふ~ん。まあ、いいんじゃない?でもさ、材料を調達出来たとして、一体誰がそのクリームを作るんだよ」


「……」


「俺ならいいよ?腹壊してもさ。でも、子供達には変な物食べさせてくれるなよ」


リディアは、暫し固まり黙り込んだ。やはり、深く考えていなかった様だ。


「はぁ……クリームは諦めなよ。用意出来ないだろう」


そう言うと見るからに落ち込む。その姿にディオンはため息を吐いた。


「じゃあさ、代わりにジャムでも挟めば?ジャムなら日持ちもするしさ、良いんじゃない」


昔から、ディオンは妹に対して本当に甘いし、弱い。


「ジャム……それいいかも!じゃあ、着いたらジャム買いに行こう!私アプリコットがいいなぁ」


「おい、お前が食べるんじゃないだろう」


呆れた顔で言えば、リディアは頬を染めて笑った。


「確かに」


半月と少し、リディアとずっと一緒にいられる。ディオンはこの穏やかな時間を噛み締めていた。


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