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息を荒くしたまま、ディオンは自室に戻るとベッドに横になった。


甘くて……柔らかった。


いつもなら、触れるだけだった。だが今夜は我慢出来なかった。たまたまリディアの唇が少しだけ開いた。リディアの甘い吐息が洩れ聞こえ、身体が疼いて仕方がなかった。


暫く夢中になり貪る様に口付けた後、我に返りこれ以上は不味いとディオンは急いでリディアの部屋を後にしたのだ。


身体が酷く熱い。ベッドに横になり目を閉じると、先程のリディアの柔らかな感触や甘い吐息が蘇り、堪らない。


このままでは今夜は寝れそうにないと、深いため息を吐いた。











「視察?」


数日後、ディオンはリディアと食事を摂っていた。もはや最近はこれが日常になりつつある。


リュシアンと対峙した日から、ディオンは帰れる日はなるべく早く早く帰宅する様にしていた。少しでもリディアと一緒の時間を過ごす為に。だが、食事の後は執務室で自分は仕事がある。本当はゆっくりと二人で話したりして時間を過ごしたい。故に苦肉の策で、リディアを半ば強引に執務室に連れていき、座らせていた。


妹は不満そうにしていたが、シモンにお茶と菓子を用意させれば大人しくなる。こういう所は、昔から変わらず単純で本当に可愛い。見るからに美味しそうに食べる姿に、ディオンの口元も緩みっぱなしだ。


「以前少し話しただろう」


首を傾げ無防備な表情をするリディアを見ていて、ふとリュシアンと一緒にいた時のリディアが頭を過ぎった。あの男に向ける笑みが頭に焼きついて離れない……思い出す度に、どす黒い感情が止めどなく溢れていくのが自分でも分かる。


あんな男にリディアは渡さない。いや、何処の誰であろうと、もう二度と渡すつもりはない。奥歯を音がする程に噛む。


「グリエット家の管轄する地区にね。馬車で5日も走れば着くから、滞在するのが5日と考えて大体半月と少しあれば行って戻って来れる」


「半月……そんなに」


リディアは目を見張りながらも、少し落胆して見えた。自分が屋敷を留守にする事が寂しいのか……。いや多分願望かも知れない。


「大変ね。気を付けてね」


労う様な言葉に口元はやはり緩むが、それは別の意味も含まれていた。


「何言ってるの。お前も一緒に行くんだよ」


「そうなんだ、私も一緒に……は⁉︎」


食事中にも関わらず、ガタンッと音を立てて勢いよくリディアは立ち上がった。相変わらず落ち着きのない奴だ。


「食事中に、行儀が悪い」


「あ、ごめんなさい……」


リディアは素直にまた、椅子に座り直す。


「ねぇ、何で私も?今までそんな事なかったでしょう」


確かになかった。リディアには家の事は余り関わらせない様にしていた。比較的自由奔放な性格の妹には、重荷は背負わせたくないと考えていたからだ。


だが事情が変わった。


「お前、気にしていただろう?教会の事。今月末に出立するからさ、また菓子でも作れば?随分と子供達喜んでいたって聞いたよ。自分の目で直接見て確かめるのも、いい経験だと思ってね」


その言葉にリディアの顔が、花が咲いた様に綻んだ。


「本当に⁉︎分かったわ」


本当に単純で、純粋で莫迦で愛おしい。お前は変わらないね……幼い頃のリディアと重なって見えた。


ディオンは、無意識に手を伸ばし頭を撫でる。瞬間驚いた顔をするリディアだが、はにかんでくれた。



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