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エクトルが訪ねて来てから数日後、今度はマリウスが訪ねて来た。


「マリウス、殿下……」


久々に会った彼は相変わらずニコニコと笑みを浮かべている。その姿に、どこか安心感を感じた。


「リディア嬢、元気そうでなりよりだよ」


確かに体調は悪くはないのだが、元気とは違う。思わず苦笑した。


「君を迎えに来たんだ」


「?」


「彼に会いたいんじゃないかなと思ってね」


唐突で予想外のマリウスの言葉に、リディアは目を見開いた。彼とは、考えるまでもなくディオンの事だろうと瞬時に理解した。


「僕が会わせてあげるよ。だから、行こう」


ディオンに会える……。リディアは喉を鳴らした。


「ですが……マリウス殿下⁉︎」


差し出された手に戸惑っていると、少し強引に手を掴まれた。


「大丈夫だよ。見張りの兵は粗方片付けたから」


物騒な物言いにリディアは、窓の外を確認した。だが、兵等は変わらず見張りをしている。不審そうにマリウスを見遣ると、愉しそうに口を開く。


「ほら、僕剣はからっきしダメだから。買収したんだ」


満面の笑みを浮かべていた。










ハンナやシモン達に見送られ、裏門から外へ出る。


「馬車は流石に目立つから、馬を使うしかなくてね。ごめんね。あぁ、でも乗馬は結構得意だから安心していいよ」


そう言いながらマリウスに抱き上げられ馬の背に乗せられた。リディアを背後から抱き止める様にマリウスも跨る。


彼が馬の手綱を力強く打つと、勢いよく駆け出した。何処へ向かっているのかは分からない。暫く走り続けた。

街を抜け、森を抜けると、以前来た見張り台が見えた。あの時の事が頭に過り少し気分が悪くなる。だがその場所はあっという間に過ぎ去り、更に馬は駆けて行く。どうやら近距離ではなさそうだ。


「実は、買収したのは君の屋敷前の兵士等と見張り台の兵等のみでね。此処から先は見つからない様に、迂回しながら向かうから、少し時間が掛かるよ」


そう説明をされた時には、既に日は沈み掛けていた。


マリウスは森に入り暫くすると歩みを止めた。馬から下りると馬を木に繋ぎ、リディアを抱き上げ下ろしてくれる。


「少し待っててね」


肩から下げていた鞄から大きめなハンカチを取り出すと、地面に敷く。


「此処に座ってて」


何処からか集めて来た枝や木の葉に火をつける。意外にも手慣れているのに驚きながらも、感心して眺めていた。

夜になるとやはり冷えるので、暖かくて心地いい。マリウスから鞄の中から取り出された干し肉やパンを、手渡される。


「こんな物しかなくて、ごめんね。食べれるかな」


「大丈夫です、ありがとうございます」


正直お腹が空いていたので、嬉しかった。干し肉をまじまじと眺めた後齧り付いた。初めて口にしたそれは固い……だが、意外と美味しい。


「美味しい」


「そう、良かった。固いから、ゆっくり噛んで食べるんだよ。あぁ、後これはデザートね」


ハンカチを開き乾燥した果物を見せる。


「デザートまであるんですね」


思わず笑みが溢れる。

食事を終えると、後は寝るだけだ。ただやはり地面で寝るのは抵抗がある。暫し戸惑っていると、マリウスに声を掛けられる。


「リディア嬢、おいで」


マリウスは木を背に預け座りながら両手を広げた。


恥ずかし過ぎると思った。だが背に腹はかえられない。おずおずとマリウスの腕の中に収まる。すると彼は外套を広げスッポリとリディアの身体を包み込んだ。


「痛くない様に、僕がクッションになるから……ゆっくりお休み」


以前にもこんな事があった気がする。だが思い出せない。酷く懐かしく切ない気持ちになりながらも、瞼を閉じた。





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