第壹部 第貳章 二番手
うおおおおお一年ぶりに更新!
ついに世界観の詳しい情報を展開できたので、嬉しい。
続きもまだまだ近日中にアップしたい!
『トントン、パン、パンッ!ピシャピシャ』
燃え盛る松明、大勢に囲む人の群れ、そして騒ぎ。
事情を知らない人はそれを何らかの祭典とでも間違えるであろう。この悲鳴さえ無ければ。
次々とぶっ飛んで倒れていくパクリグラマーの中心に、二人はいる。
フェイタリティと饒舌人、素手と竹竿。
一団となって襲いかかる雑魚どもを相手に、二人は背中合わせて円を描くように向きを変えながら戦っている。敵が距離を把握できないように、近接と中距離攻撃を転換する。フェイタリティに仕掛けようと思ったら急に横から打撃されて、竿に注意力がいくと今度は真っ正面から拳を喰らう、そんな繰り返し。
後退して戦況を観察していたオールバックの男は、そこでようやく気付く。このままじゃ二人が疲れ果てるより、手下が全滅するのが先だ。それに、さっき自分の腎臓を突いたその男が使う拳法、詠春に近いが、詠春ではない。少なくとも正統な詠春拳とは言えない、もっと違う何かだ。構えもろくになく、攻撃の力量も無造作な覇気を感じる。
だから彼は考える。自分は強いだけでなく、その上に賢い。でなければ今の地位まで登り詰めて来れないわけだ。その二人に勝つ方法を、ひたすら考える。武術において、「一寸長ければ一寸強い」。つまり武器を持った相手はリーチなだけ強くなるわけだ。例え自分の拳法であの詠春使いに勝てるとしても、それは素手の場合に限る。今武器を持ったそいつには届きもしないだろう。
それなら、あの割り込んできた男からやるのか?見知らぬ拳法なのに、今の自分に勝ち目はあるのか?
「屌!」
オールバックは罵る。今日は新人たちを連れて、訓練の一環として久しぶりの外回りなんだ。抵抗者達に焼きを入れる方法、そのお手本を見せるだけのつもりだったが、手ぶらで来たのが仇になった。クソ、飛び道具さえ持ってくれたら勝てるっていうのに!と、彼があることないこと考えているうちにも、手下たちはバタバタと倒されていく。
そこでついに、彼は考えることをやめた。何らかの努力はするが意外と詰めが甘い、彼が会長になれなかったのも、そこが原因かもしれない。
「えいっ!使えない使えない!テメェらはもういい!」
オールバックの男は動いた。あの二人を囲んでる手下たちを掻き分けて、自分が前に出た。
「一騎打ちだ!」
その怒鳴りを聴いて、戦ってる両方の動きは同時に停まった。
「一騎打ちを申し込む!お前とな!」
男はフェイタリティの方に指さす。やはりここは素手で挑める相手がよさそうと判断したのだ。
「まったく恩知らずどもが!今日はお前らを説得しに来ただけだから、何も武器も持たなかったというのに。あんたらと来たら、まんまとやりおって。
とにかく、これ以上の損害は御免だ!」
こんな事で労災はおりるかどうかの問題も後で考えよう、と内々思う。
「同意。」フェイタリティは淡々と応じる。
「あんたの使ってる拳法はなんなんだ!見たことがないな。」
「……」
「はぁ…」男は嘆く。質問を無言で返されたのはこれで二度目だ。今日はどうやら相手がちゃんと返事をしてくれない日らしい。
「まぁいい。どんな拳法でも、俺の龍形拳に及ぶまい!」一喝して気を取り直し、男は膝を曲げ、姿勢を低めた。それがまさに龍形拳の構え。
功夫の中に、動物の行動を模した流派は雑多。有名な少林寺五形拳を始め、形意拳、虎豹拳など、主に龍蛇鶴豹虎の型を幾つか取り入れて成した拳法、もしくは細分化された単一な動物の型、例えば猴拳、蛇拳、豹拳、狗法、蟷螂拳、金獅拳。それらの由来や派生はバラバラ、各地にも違う伝承がある。それらの歴史を整理と帰納するのは難しく、いつからか総じて『象形拳』と呼ばれるようになった。ここの『象』は『象る』の『象』である。つまり『動物の形を象る拳』。
そんな中で、このオールバックが使う『龍形拳』の歴史はまだ浅い方、少林寺拳法の派生に属する。この拳法の特徴はその名の通り、守る時は龍が柱に蟠るような構えと、一転して攻める時に現れる猛烈な力。
説明を終えて話を戻そう。
一騎打ちの了承を得たならば、饒舌人も渋々身を引いた。パクリグラマー共も包囲を解け、場を開ける。
「……ニーハオ。」
前章の招呼は、ここでようやく応じられた。やや失礼にはなるが、好漢としての顔は保たれる。
拱手をするオールバック。「我は亢金龍。」
「やっぱり!」「?!」
その名を聞いて思わず声を出したラップマンと、それ声を理解できないフェイタリティではあったが、何がどうであれ、合図は完成された。戦闘は免れない!
……………………。
…………。
「……」
「……」
とは言ったものの、それから約30秒間、二人はただ睨み合っていただけだった。
誰も攻めようとはしない。
大勢に見られて流石に気まずくなったか、亢金龍は自分から前へを踏み出す。
トンッ!カカッ、パン!
龍形拳の基本姿勢は低い。攻撃時ですら、いつでも守備に転換できるように、両手は胸の前で交錯し、武術ではこのような構え方を『護心』と呼ぶ。そして至近距離での戦闘に長けるこの拳法は、脚からの力を腰に経由し、僅かな転向を加え手の威力を増す。拳を出す時は拳、掌、爪三つの手の型を交互に使い、相手に防ぎようのない攻撃をお見舞いする。
だが、そんな拳でも、最初に思いっきり撃ち出した三発はまったく当たらなかった。
一発目、右手の拳は横からの払いによってずらされた。その勢いに乗じて体を一回転し、振るって繰り出す二発目の拳は途中でフェイタリティの前腕に防がれ、届かなかった。そこで更に左手の掌でフェイタリティの顎を狙い、彼を押し飛ばすつもりだったが、それも巧妙に躱され、逆にそのまま手腕を掴まれ、上半身の動きが封じられた。
「?!ぐう…」
確かに見知らぬ拳法ではあったが、まさかそこまでやれるとは、亢金龍は思いもしかなったのだろう。慌てて手を引き戻そうとしたが、どうしてもうまく引っこ抜けなかった。今の場面、自分はまるで首根っこを掴まれた鵝鳥みたいだ、足掻きにすらなっていない。
「ハァアア!」
ならば、追撃を加えるしかない。
亢金龍は左足で地面を蹴り、掴まれた手を支点に宙に浮く。右と左、すかさず目前の敵の腹部を狙って膝蹴りを二発入れた。フェイタリティは手の拘束を解きその二発とも防ぐが、続いて飛んでくる掌撃は仕方なく喰らう。
何とか回転して衝撃を軽減、加えて一歩後ずさり体勢を立て直そうとしたが、亢金龍はこの隙を見逃すはずがない。
ブンブン、ブンブン。風圧を纏った拳は顔面に襲ってくる。下から斜めに飛んでくるこの攻撃は、屈んだ亢金龍が一歩進むに連れて交互に撃ち出している。左足を踏み出す時は右手を、右足を踏み出す時は左手を、一歩に一発、下から上へ打ち上げる。龍が天を目掛けて飛ぶ意味を象ったこの技は『迫歩三通』!龍形拳の基本歩法『迫歩』の一つの運用である。
体勢を崩されたフェイタリティにこの技をすべて躱すことはできない。彼は後退しながら、首をできるだけ拳の力の向く方に回転させ、その打撃を弱める。だけど、そんなことしても長くはもたない。それを誰よりも分かっているフェイタリティは、無理にでも反撃を仕掛けた。
彼は拳を引っ込み、両肘を亢金龍の前腕にぶつけて、一瞬だけその攻勢を無理矢理止めた。驚く亢金龍が反応する前に彼の交差する両腕を内側から、自分の手を潜らせてその構えをこじ開ける!
これで守りは崩され、至近の更に至近距離まで近づくことができた!
フェイタリティは自分の両腕でこじ開けたその手を脇に挟んで固めたまま、頭突きを喰らわせた!
「トンッ!」
重くて鈍い音がする。亢金龍の両目は5秒くらい焦点が合わなくなっていた。
「ッカ!ガ、ァ…アア」
目が泳いでるこの5秒間、亢金龍は周りの景色を不鮮明だが見た。
今までこんなことがあったのだろうか。敵も味方も大勢いる中で頭突きされて無様な姿を晒すことが。またどうでもいいことが彼の脳裡に過ぎる。自分はただ新人の訓練に来ただけなのに、よく言わば研修だ。量産できるパクリグラマーだとは言え、手下は手下。会社に属している以上、労災は問題だし、何しろ明日の業務に支障を来たす。それより、今回の件はこれからどんな噂になって会社の中で流れていくのだろう、考えたくもないが、どうしてもそんな些細な問題は湧いてくる。
この一撃、怪我にはなってないものの、侮辱の方の意味が大きい。
今日はやっぱりついてない日だ、と、亢金龍は改めて思う。それに腰の方もまだ痛いし、やる気は出なくなった。
暫く経って攻撃の意向を感じなくなったのか、フェイタリティも手を離す。
亢金龍は失意した顔のまま、後ろへ倒れ込んだ。
「うぅ…あぁぁぁぁ…」
どうも起きたくない模様。
だがどれほどのことがあっても、身体に支障がなければ明日は出勤しなきゃならない。それこそ会社員の最大の弱みである。例え自分の様な肩書でも。
「あああ、ふぅ…チッ!」
嫌嫌立ちあがる亢金龍は、溜息の後に舌を鳴らす。そして悔しさを混じった面倒くさそうな口ぶりで宣言する。
「お前らなぁ…今日はこれで帰るが、今後どうするか社内で協議する。
……いずれにせよ、また来るよ。逃げれると思うな…特にそこのお前な。」
声は大きくなかったが、ちゃんとこの場にいる人の耳に入った。
「チッ!」加えて今日二度目の舌打ち。
………………
そしてゆっくりと、手下たちを連れて引き上げた。
その去り行く群れを見て、饒舌人はフェイタリティの元へ歩き寄る。
「大したものだ…」
「………………」
遠のくパクリグラマー達を眺めているフェイタリティは、暫く黙り込んでいた。
そして何かを思い出したように、饒舌人の方を見る。
「あいつらは誰だ。
それに、さっきあんたはあいつの名前を聞いて、何か思い当たったみたいだが、なんかあったのか?あいつと。」
「さっきも言ったろ、あいつらは馬龍会だ。この深圳で名だたる大企業だ。
まぁ、この期に及んで君の素性は聞くまい。だけどその企業を聞いたことがないのは不思議だな。この地だけじゃない、大元国内でも数少ないトップの企業組織だぞ。実質、この深圳の命脈はそいつらの手中にあると言っても過言じゃない。」
「『会』の付く企業とは、あまり聞いたことがない。
それと、何であいつらはあんたたちと揉めているんだ?」
「ああ……」ラップマンは暫く黙り込んだ、何かを思索しているらしい。
すると可夫がやってきた。住人たちの避難の手伝いがひと段落終わったらしい。
「kov、皆に伝えてくれ、今夜でシンセンを出る。もうここはダメだ。さきに行ってくれ、こっちは話が長くなるから。」
この二人を見て何かを察した可夫は、軽く「了解」のジェスチャーを見せた。するとすぐに引き返して、住民たちの元へ戻って行った。
「最初から話そう。」ラップマンは話題を戻す。
「ここ、深圳の地は遙か昔、守護者がいた。二十八人が結成する一つの組織。その具体的な由来はもう歴史の中で埋もれたが、どうやらずっとこの地を戦乱と紛争から守っていたらしい。
二十八宿、知ってるか?」
「天上にある二十八の星宿のことだよな?確か≪山海経≫にも記されてた。具体な名称は把握してないが…」
「そう。その組織は二十八宿に因んで、星の名を自分たちに付けた。
『月火水木金土日』七つの支、『東西南北』四つの方の象徴と言われている『蒼龍』『白虎』『朱雀』『玄武』四つの象、それで成す二十八の星、亢金龍はその中の一つ。東の天を司る蒼龍、その中の亢宿。」
「…つまり、古くからこの地を守っていた守護者の一人が、怪しげな会社に入ってあんたらを迫害してる、という…」
「いや、そうじゃない。……
あの組織は当然、人間が作ったもの。人数こそ創立初期から変わってないものの、当然構成員は変わる。後継者などを見つけて、称号を継承させているだけだ。ただ、何を標準に人を選んでいるのか、外部の人は知らない。
そして、
組織の人間が会社に入ったのじゃない、
組織そのものが『馬龍会』になったんだ。」
「一気に?!二十八人も?!」
「あの会社ができたのは今から約二十年前だ。まぁ深圳で我が物顔で好き放題やり始めたのはここ十年のことだけどな。
何かが起こったのかな。でもそんなことがなくても、組織ってのは変わるものだ。先代が守ると決めても、後のの者がそれに従うことは保証できない。むしろこれは遅い方だよ、何せ二十八宿の伝説は何百年間言われ続けてきたものか…
ともかく、馬龍会はここ十年、この深圳のほぼすべての産業を懐に収めた。そして8年前、自分の会社が作った『馬幣』という仮想貨幣を流通させた。最初は会社内部の表彰や評価に使ったが、段々傘下の会社にもそれを普及した、更に自社の銭局で、この『馬幣』と官製の紙幣『交鈔』の為替を始めた。」
「……仮想の貨幣?!大分 裂 が起きてからそんな高度な電子技術はもう応用不可能なはずじゃ?」
「それ自体が局部網に基づく物だったんだ。本来なら大型の記録処理装置とそれに似合う接続手段を必要とするが、それを小型化した端末を全部住人に持たせれば、予想よりだいぶ簡単にできちゃうんだ。しかも端末も金になるし。」
「売るのか?!無理矢理?そんなの誰が買うか!」
「皆買わせられるんだよ。これ程の規模な会社なら簡単にそれができちゃう。〔購入しないと弊社の服務が使えませ~ん〕とか言われたら、この地方で暮らす人はどうしようもなくなる。製造医療教育、すべての産業を握られているからな。」
「そんなこと、朝廷が見過ごしたのか?国庫にとって大損害だろうよ。」
「国土が広ければ、地方での統制力が弱くなる。馬龍会がこの二十年来ずっと裏でこっそりこの地を蝕んできた、反応しようもない。ここは京の大都みたいな天子の足元じゃないし、『山が高ければ皇帝も遠し』だ。それに何せよ、この会社の納税は馬鹿にならない程あるからな、権力と金銭の交渉や考量とかもあっただろう。とにかく、捨てられたんだ、ここの人は。」
「さっきあいつが言ってたことから考えると、あんたらはその服務を使わないから…」
「そう、目を付けられたんだ。元々この村のようなそれを拒む人は少なくないが、皆住む場所を奪われて追われているんだ。だから、流民と言っても過言じゃない。」
敵を追っ払ったのに、話題が重くて気分がよくならない。フェイタリティは何とかしてこの空気を換えたくて思考を重ねる。
「……だが心外だ。どう考えても『二十八宿』より『馬龍会』の方がよっぽどダサいのに。」
「ハッ!そこは同感だが、守護者としての『二十八宿』はあくまでこの地の伝承。表に出るにはもっといい組織形態と名称が必要だったのだろう。
…ところで君、これからどうするんだ?俺たちと一緒に逃げる?ここまでやったら、多分馬龍会は見過ごさないだろう。ここにいる人も、君も。」
「あんたらはこれからどうする?」
「西へ行こうと思ってんだ、広西ならここより人目に付かない。」
「……ならば同行はできない。」
「そうか…君の目的地は?」
「故郷、上海。」
「北か…まぁともあれ、ここを一刻も早く離れることが望ましい。」
「追手が来れば厄介なのか?」
「さっきも言ったんだろ?二十八宿は伝承を残すような組織だ、全員好漢なんだよ。
それに、亢金龍は馬龍会の実質二番手なんだ。その上にいるのは会長の『星日馬』だけ。君はとんでもない人物の目を引いたんだよ。」
「なるほど、どおりで『馬龍会』だ。
…だが二番手にしちゃ、撤退するのは早すぎないか?」
「ありゃ器が小さい。根に持つ人間で、加えて何もかも打算してから結論を出す。
次に出くわす時、今日みたいに簡単に片づけられると思わないことだな。三十六計逃げるに如かず。」
「ふぅん…なるほど、意見は頂こう。
それに、あいつが使った拳法…」
「龍形拳だな、二十八宿はどれも象形拳の高手だと聞く。
それはそうと、さっき君が使った拳法の方がよっぽど気になる。あれは詠春の技が入ってるが、詠春と呼ぶには程遠いな。あの拳法は何なんだ?」
「こっちの人が知らないのも無理はない。それに、実は実戦で使ったのも今回が初めてなんだ。」
「ハァ?!」
「これは、截拳道。」
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