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mRNAワクチン

作者: 烏木

筆者は自身が分かる範囲で情報を集めて科学的に正しいと思った事を書いていますが、筆者は専門家ではなく、この文も専門家の監修は受けていません。


ですので、内容に誤りがある可能性があります。

もし誤りがあったら感想でもメッセージでも構いませんのでお知らせください。

誠実に可能な限り対処いたします。


調べるきっかけとなった某日のかかりつけ医との会話


「烏木さんは新型コロナワクチンの話、何か聞いてる?」

「mRNAワクチンがどうたらこうたらとかなら。ファイザーでしたっけ。mRNAで抗原タンパクを作らせるというのは言われれば分からなくもないんですが、どうやってワクチンにするのか訳が分からないんですよね」

「ほう、そこまで分かるんだ」

「生化学をちょろっと齧ったことがあるだけなんで、mRNAが何かぐらいしか分かんないですけど」

「ファイザーとモデルナがmRNAワクチンだね。mRNAを使うって発想自体は昔からあってずっと研究はされてたんだよ。モデルナはその為に作ったって感じの会社だし。アメリカ政府からかなり資金投入されて完成したって感じかな? 論文読んだけど、モデルナのワクチンは良いみたいだよ。日本に入ってくる数が少ないから打てるかどうかはあれだけど」

「そうなんですか」

「うん。あっ、そうそう、烏木さんは優先接種だから案内きたら受けてね」

「え? 優先接種ですか? 何が引っかかったんですか?」

「BMI30以上は優先接種になるから」

「……デブは基礎疾患扱いになるんすか」

「重症化リスクが高いから。ええっと、烏木さんの今のBMIは●●(ピー)だから……後(ピー)キロ痩せても優先接種だから減量も頑張ってね」

「……はい」


新型コロナワクチンの接種の優先順位

第一優先

医療関係者


第二優先

65歳以上の高齢者


第三優先

基礎疾患がある人(重症化リスクが高い人)

高齢者施設などの従事者

60~64歳の人


これは2009年の新型インフルエンザのときのワクチンの接種順位と同じです。

当時、自治会の係りをやっていて保健師さんから講習を受けてました。



2021年2月17日にやっとこさ日本で医療関係者の一部に接種が始まった新型コロナワクチンですが、このワクチンはこれまでのワクチンと異なり、mRNA(メッセンジャー・アールエヌエー)そのものを使っています。


今回日本で特例承認(=緊急使用の承認)されたファイザー社の新型コロナワクチンと今後日本で特例承認されるであろうモデルナ社の新型コロナワクチンはmRNAそのものを使ったmRNAワクチンに分類されるニュータイプのワクチンです。


■■■


★mRNAって何?

RNAと似た言葉のDNAはDNA鑑定とか聞いた事があると思いますが、RNAはそうそう聞かないと思います。

RNAの一種であるmRNAはDNAの情報を転写してリボソームに伝令するRNAの事ですが、生化学などを学んだ人でなければ“何それ?”ってなると思います。


さて、DNAは遺伝子だと聞いた事があるとは思いますが、実はDNAにはタンパク質の設計図が入っています。

人間のDNAというのは、人間が必要とする全てのタンパク質の設計図が書かれている本だと思ってください。


しかし、とあるタンパク質を作るときに“全ての種類が載っている本を持ってきて作りたいタンパク質の設計図があるページを探して”とやるのは非効率なので、本の中の必要なページだけをコピーしたペラ紙を作ってタンパク質製造工場に持って行って必要なタンパク質を作ります。


このコピーしたペラ紙は、タンパク質製造工場への製造命令でもあるので、このペラ紙を伝令(メッセンジャー)RNAと呼びます。


そしてタンパク質製造工場(リボソーム)はmRNAに記載されている通りのタンパク質を作ります。


――

この『DNAからRNAに転写(コピー)された情報に従ってタンパク質を作る』という流れを分子生物学では『セントラルドグマ』と呼びます。

――


★なぜmRNAがワクチンになるの?

リボソームはmRNAが来たら指定されたタンパク質が何であるかには関知せずmRNAに書かれている通りのタンパク質を作ります。


もしも、mRNAに新型コロナウイルスのタンパク質の設計図が書かれていたらどうなるでしょうか。

そうです。新型コロナウイルスのタンパク質を作ってしまうのです。

これがウイルスに感染した細胞の中で行われていることです。


それでは、新型コロナウイルスのたくさんあるタンパク質の設計図の中から病原性の無いタンパク質の設計図(mRNA)を作って人間の細胞に取り込ませればどうなるでしょうか。

はい。その細胞は新型コロナウイルスの病原性のないタンパク質を作成します。


そして、幾ら病原性が無いとはいっても人体からすると異物ですので、人体はそのタンパク質(抗原タンパク質)に対する抗体を作ってやっつけます。


そして抗体がある状態で新型コロナウイルスが侵入してきたらその抗体が新型コロナウイルスのタンパク質に反応して新型コロナウイルスをやっつけます。


これがmRNAワクチンの仕組みです。


ファイザー社のmRNAワクチンのmRNAには新型コロナウイルスが人間の細胞に取り付く部分のタンパク質の設計図が書かれています。


人間の細胞に取り付く部分というのは、泥棒(新型コロナウイルス)が家(細胞)の玄関の鍵を開けるためのピッキング道具です。

ピッキング道具それ自体は悪さはしません。

悪さをするのは鍵を開けて侵入してくる泥棒(新型コロナウイルス)です。


このワクチンで抗体ができると、抗体が泥棒(新型コロナウイルス)のピッキング道具を壊してしまうので、泥棒(新型コロナウイルス)は家(細胞)に侵入できなくなります。


★mRNAワクチンの何が素晴らしいの?

①従来のワクチンに比べて高い効果が期待できる。

従来のワクチンは抗原となる物質そのものを接種していましたが、mRNAはそれよりも遥かに小さい設計図ですので何倍もの抗原が接種された様なものなので十分な量の抗体が作られる可能性が非常に高い。


②開発スピードが速い。

この仕組みの素晴らしい点は、新型コロナウイルスに限らず、抗原タンパク質が判明すればそのタンパク質の設計図を書くだけで完成するのです。


従来のワクチン開発だと「あそこがゴールだ」と分かってからも「さあ、どうやってあそこに行くか」という試行錯誤をするのですが、mRNAワクチンはゴールが分かればコールにワープできるような感じです。


従来のワクチン開発は何年もの時間を要していたので、パンデミックから一年かからずにこれほど効果が見込めるワクチンができたのには驚きました。


またこれは、従来のやり方ではワクチンの作成が難しかった感染症に対するワクチンを作れる可能性が高いという事でもあります。


――――――――――――――――


人類は感染症に対する聖剣を手に入れたと言っても良いとさえ思えます。


――――――――――――――――


③開発から量産までのスピードも速い

従来のワクチンは病原体(細菌やウイルスなど)を増殖させる必要があったのですが、mRNAワクチンは配列さえ分かれば(十全な施設と純度の高い原料は必要ですが)工業的に合成できます。


★そんなに素晴らしいならどうして今までなかったの?

幾つもの壁があるのです。


①mRNAは不安定な物質なので分解しやすく、分解したらタンパク質の設計図ではなくなり、ワクチンにならないのです。


どうやって人体に悪影響をもたらさない方法で製造から接種までの時間で分解しにくくできるのかについて長年研究されてきました。


そして、mRNAを構成している物質の一部を人体内に豊富にある別の物質に置き換えることで設計図の内容は変えずに接種まで分解されずに残るmRNAの数を確保する目処が立ったのです。


しかし、それでも常温だと分解が進んでしまうため、氷点下75℃という超低温で分解を遅らせないと駄目というのが現在の人類の到達点です。


②細胞の中に入り込めないと効果が無い。

既存のワクチンは抗原そのものを接種していたので細胞内に入り込む必要は無かったのですが、mRNAはそれ自体は抗原ではなく細胞内に入って細胞に抗原タンパク質を作らせて初めてワクチンの意味を持ちます。


mRNA単体では細胞膜を通過できないので、細胞膜を通過できるカプセルを作ってその中にmRNAを入れ、細胞膜を通過して細胞内に入ったカプセルは中身のmRNAを放出するという方法が考えられました。


こちらも人体に害をなさないカプセルの研究が長年されていて、ようやくできたという事です。


③上記二つは非常に高い壁ですが、他にも病原性は無いがウイルスにとって破壊されると致命的なタンパク質の特定とか、そのタンパク質の組成の解明とか色々壁があります。


★二回接種するのはなぜ?

ワクチン接種(予防接種)には一回で済む物と二回接種する事が推奨される物があります。


一回で済むワクチンは基本的には『生ワクチン』といって生きている(活性のある)病原体を接種するものがほとんどです。


生きている(活性がある)ので接種されたら病原体は人体内で増殖します。

するとたくさんの抗原が継続的にできるので予防効果があるレベルの抗体が長期間継続するので一回でいいのです。


しかし、幾ら病原性を抑えてもその病気に掛かってしまう可能性はあります。

特に昔は弱毒化が不十分なワクチンで発症してしまったり、感染源になってしまった例もありました。


そこで『不活化ワクチン』といって病原体を殺して(活性をなくして)接種するワクチンが開発されました。


病原体は死んでいる(不活化している)ので発症する可能性は非常に低いのですが、接種された量の抗原しかないので一回では十分な量の抗体が作られなかったり、時間とともに抗体値が低下してしまうことが多いのです。


そこで、まだ抗体がある状態で二回目を接種すると『こいつまたきた。こいつ危ない』と反応して抗体が強化され予防効果があるレベルの抗体が継続することが期待できます。

この抗体が強化されることをブースター効果といいます。


つまり『生ワクチン』でなければ一回だと効きが悪かったり時間とともに効果が落ちる可能性があるので、適切な期間をあけて二回目を接種することで効果をより確実にするのです。


二回接種しないと意味が無いのではなく、より高い効果をできるだけ長く維持するために二回接種することが推奨されるのです。


一回接種でも全く接種しないのと比べれば雲泥の差があります。

特に蔓延している伝染病だと一回目の接種の後に本物の病原体がやってきてブースター効果が発揮されることも十分考えられます。


そしてmRNAワクチンは生ワクチンではないので二回接種が推奨されています。


★★★★★★


ワクチン(予防接種)全般について


ワクチン(予防接種)は接種を受けた本人の感染を防いだり症状を緩和するものでありますが、多くの人が接種して集団免疫を構成し、伝染病の蔓延を防ぎ社会を守るという役割もあります。


インフルエンザワクチンの小中学生への集団接種は1977年から開始されましたが、1988年から保護者の同意が要件になり、1994年に定期接種から任意接種になったことで接種率はとても低くなりました。


集団接種を始めてからインフルエンザの流行期の超過死亡率(特定の母集団の死亡率が本来想定される死亡率を超過した割合のこと。多くは伝染病の流行、天変地異、飢餓、戦争などで引き起こされる)が低くなったのですが、接種率が下がるのと反比例してインフルエンザの流行期の超過死亡率が高くなってしまいました。


集団接種の有無と高齢者の超過死亡率には特に有意な相関関係がみられ、小中学生への集団接種がインフルエンザの蔓延を阻害して間接的に高齢者を守っていたと思われます。


■■■


副反応というデメリットは見えやすいのですが、メリットは『何も起きない』ですので分かり難いというのがワクチン(予防接種)です。


しかし、自分の為でもあり、身近な人達の為でもあり、社会の為でもあるのがワクチンです。


今あるワクチンは罹患すると命を落としたり重篤な後遺症が残ったりする可能性が高い感染症ばかりです。

これまで人類がワクチンなしで制圧できた伝染病を私は知りません。


ワクチンは死病に立ち向かい続けた偉大なる先達たちの輝かしい成果であり、多くの命と健康そして社会を守っているのです。


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