おにぎりとはらぺこドラゴン 2
前編のようなもの→ https://ncode.syosetu.com/n4915gq/
(読まなくても問題はありません)
とある暖かい春の日のこと。少女は、1人で山を彷徨っていた。
『少女よ、そこで何をしておる』
数十分も歩いていると、やがて開けた場所にたどり着いた。そこには、大きな竜がいた。
「別に。迷ってただけ」
『……真か?』
「今、嘘吐く必要なんてないでしょう。いいから、どいてよ」
だがしかし、竜は動かない。怪訝に思った少女が竜を見上げると、『グゥ〜』という大きな音が辺りに響いた。
「……腹減ってんの?」
『……煩い』
少女は、呆れながら鞄をまさぐった。取り出したのは、ひとつの小さなおにぎり。
「あげる」
『ぬ、これは……なんだ、おにぎりか』
銀紙に包まれたそれを最初は認識できなかったらしい竜は、銀紙ごと半分に割った片方を、少女へ差し出した。
「お腹空いてるんじゃないの」
『誰かと共に食べる方が美味かろう』
「一瞬で食べ終わるくせに」
クスッと笑った少女は、丁寧に銀紙を剥いて食べ始めた。その横で竜は、銀紙を剥くこともせず、少女の言った通り一瞬で平らげた。
『……懐かしいな』
「何が?」
未だ食べている少女の横で、竜は遠くを見つめていた。
『十数年前、お主と同じように幼子が迷い込んで来たことがあってな。こうして共におにぎりを食べたものだ』
「……そう」
『それから暫く、月に何回かはおにぎりを持ってきてくれていたが、一年もするとパタリと来なくなってしまった。今はどうしているのかも分からぬ』
寂しそうに呟く竜を、少女はただじっと見ていた。
おにぎりを食べ終えた少女は、立ち上がって鞄を手に取った。去るつもりなのだろうと感じ取った竜は、そんな彼女に声をかけた。
『待て』
今まさに木々の中へ消えようとしていた少女は、ピタリと足を止めた。
『迷っているのだろう。麓まで送り届けてやろう』
「別に……」
『おにぎりの礼だ。有難く受け取れ』
そう言う竜に、少女は少し迷った後「じゃあ、よろしく」と言った。竜は頷き、彼女を抱えると翼を大きく広げ、飛び立った。
「ありがとね。……あの時も、今も」
風にかき消されそうなほど小さな声で少女が言ったのを、竜は聞き逃さなかった。