9/空っぽのコーヒー
いつもワクワクしている事その3。
あ、このアイディアいけんじゃね?
――って時の高揚感が半端ないですよね(笑)
無敵感というか、無邪気というか。
面白すぎて、早くメモをとりたくなる瞬間。
ですが、肉づけしていくと本筋がズレていくぅ……(泣)
●大学前/喫茶店
姉のムラサキの助言通り。
放課後、菊池シュンは大峰エリコをお茶に誘った。
訝しげに眉をひそめていたエリコ。
ともあれ、大学前に佇む喫茶店で落ち合う約束をした。
客席はそれほど埋まってはいない。
好都合といえば、好都合である。
2人、他の客と距離を置くように隅の2人席に座る。
飲み物を注文をしてからも、取りとめない談笑に耽った。
「シュン、ちゃんと食べてる? なんか少し痩せた気がするんだけど……?」
「食べてるよ。ほとんどコンビニ弁当だけど」
「そっちも実家出て1人暮らしでしょ? お金足りてるの?」
「人並みには」
叔父の依頼斡旋により、ある程度の蓄えはある。
現状には不満はないが、家賃や食費などを差し引いても余りが出る。
逆に無駄使いの方法を教えてほしいくらいだ。
「一生懸命バイトしているようにも見えないんだけど……」
「よくいわれる。でも、まぁ大丈夫」
気にしてくれてありがとう、とお礼をするシュン。
自然と他人に気遣うエリコには頭が下がる。
「ふーん。と、いいつつ私の自炊も胸張れるものじゃないしお相子ね」
照れ隠しだろうか。
目をそらしながら、アイスコーヒーをストローで啜る。
なんだかんだ、エリコとの会話に退屈はしない。
話の引き出しがさることながら、偽りなく話す素振りに心が落ち着くからだ。
「――で、そろそろ本題に入ったら? 何かあって呼び出したんでしょ」
「そう、だな……うん」
と、今度はシュンがアイスカフェオレを口に流し込む。
大きく咽喉を鳴らし、空の口を開いた。
「最近、困った事とかないか? 大学とか1人暮らしとか、バイトとかで……」
「は?」
「いや、だからさ……勉強についていけてないとか、周りの人間関係に疲れてないとか……」
「アンタは、私の父親か」
肩透かしを食らったのか。
エリコ、乗り出していた上半身を戻し、深く背もたれに寄りかかる。
「ったくもう、深刻そうな顔で誘ってくるから何かあったのかと思ったじゃない」
実際には、ある。
昨日のストーカー男、海藤マサキの件だ。
しかし彼女自身、その事実を隠している。
やはり変な勘ぐりをしないで単刀直入に聞いた方がよさそうだ。
シュン、深呼吸をする。
「オレの友達から聞いたけど、変な年上の男に付きまとわれてるだろ」
「………………」
「繁華街の方で執拗に絡まれているのを見たって」
「………………」
「オレ、それ聞いて心配になっちゃってさ」
「………………」
「……? 大峰?」
「……シュン、ちゃんと友達いたんだ……」
×××× ×××× ××××
事の顛末は以下の通り。
大峰エリコがアルバイトとして働く、ファーストフード店。
そこに、仲の良い友人がいた。
その友人は、ストーカー男に悩まされていた。
その男こそ、海藤マサキ。
そのファーストフード店の副店長である。
酷い求愛行動の末、引っ越してしまった友人。
エリコは無力な自分を悔やみ、海藤マサキに感情をぶつけたそうだ。
だが、それがいけなかった。
粘着質で、幼稚で、純粋な海藤マサキの愛情は矛先を変えたのだ。
キッカケは、とりとめない事。
海藤マサキは自分を眼中に入れてくれる人に惚れやすかっただけ。
無思考、無個性の頼りない自分を。
ただただ、無条件で受け止めてくれる人を探していたのだ。
当然ながら、エリコの注意に反省の色はなかった。
残念な事に、友人の次は自分へと標的を変える結果となった。
「それからずっと、逐一ブランド物をプレゼントしてきたり、デートに誘ってきたり……」
始めは言葉を渋っていたエリコ。
だが、日頃の不満が決壊し始めた。
「シフト被った日は最悪よ。アイツ、勝手に時間調整だっていって私と同じくらいに終わるのよ? 何度も家までストーキングされたわ」
竹を割ったような、サッパリとしたエリコの性格。
それが今回は、誤った方向に進んでしまったようだ。
「流石に、家に戻ると何もしてこないけど……ホント気味が悪くて……こっちが鬱になるわよ」
何もしてこないわけではない。
何も、する必要がないだけだ。
海藤マサキの部屋から、エリコの生活は覗かれているのだから。
ひとしきりに愚痴を濁流のように吐いた後。
エリコ、コップの縁に口をつけてコーヒーを胃に流し込んだ。
読了、ありがとうございます。
設定が先走った内容になりますが、今作は簡単にまとめていきたいと思います。
生暖かく見守っていてください。