7/海藤マサキ
いつもワクワクしている事その1。
風呂場の妄想タイム。
やっぱりぼ~っとリラックスしている時が脳内牧場が盛んですね。
子供の頃は、寝る前とか至るトコで妄想爆発してたけど、
どんだけ自然体だったんだよと気づいた最近……
でも、妄想は楽しい(真理)
●住宅街/海藤マサキの自宅(夜)
エリコが住む地域は、住宅街の一角。
一軒家が軒を連ねる地区やマンション、アパ―ト立ち並ぶそれがある。
中でもこの地区はマンション街とも呼ばれている。
エリコの自宅がある高層マンション。
どんぐりの背比べのように、数棟の高層マンションが生えている。
そこから少し歩くと、団地マンションがある。
駐車場が大きく幅をきかせた、大規模なマンション。
そろそろ日を跨ぐ時間だというのに、その明かりが絶える事はない。
海藤マサキ、その団地マンションの1棟に吸い込まれていく。
ヒビが目立つ階段を上がり、自宅へ向かう。
部屋番号は608号室。
軋むドアを開けて、重い両足を進ませる。
『ただいま』などいうつもりはない。
1人暮らしの男の部屋。
それも散らかった寂しい部屋になぜそんな事をいわないといけないのか。
――よく、わからない。
――いや深く考えたくない、というのが正解だろうか。
5年前、就職で上京。
それからというものの、ここと職場との往復が続く毎日。
仕事には別に不満はない。
生活するための金は必要だ。
稼ぐ事にイヤとか辛いとか、感情を挟むつもりはない。
上京してからの友人はほとんどいないせいか。
休日はずっと家で暇をつぶしていたり、パチンコを打ったりするくらい。
そうした代り映えのない、刺激のない毎日。
次第に考える事が億劫になっていく。
考える事も、悩む事も面倒になったのだ。
だから、海藤マサキはいつも一緒の行動をする。
まず部屋に入ったら、擦り切れた黒のパーカーを放る。
通勤でしか使わない服だ。
4日前からずっと着ているが、気にしない。
部屋では基本的にパンツ1丁。
理由は、洗濯物を増やしたくないからだ。
やっと、そこで窓際に置いてある望遠鏡をのぞき込む。
どう見ても不釣り合いなそれ。
望遠鏡の先も、月夜ではなく床と平行。
そしてその先に、エリコの住む高層マンションがそびえている。
それは星々を観るための道具ではない。
「やぁただいま、エリコ。今、帰ったよ」
――愛して止まない、大峰エリコの”全て”を観る魔法の道具なのだ。
海藤マサキの右目に、はっきりと映る。
机に向かうエリコの姿。
「くそっ、エリコに群がるハエを追っ払ってたせいで今日の着替えシーンが観れなかったじゃないか!」
と、大きく舌打ち。
「ムシャクシャするッ! え、ああごめんごめん。エリコは気にしなくていいんだよ!? 悪いのはアイツ! 菊池シュンだから!?」
遠く離れた、エリコとの距離。
だが、望遠鏡を覗く事で彼女を身近に感じる。
会話が成立しなくとも、脳内の彼女はそう答えてくれる。
「エリコは優しいなぁ~。うん、今日1日の疲れが吹き飛んじゃったよ」
生憎と触れ合う事はできないが、心の中で愛しさが消える事はない。
むしろ膨れ上がる一方だ。
ここで必ず、海藤マサキは自慰をする。
さきほどの感情の高ぶりも相まって、エリコへの愛しさが止まらない。
幸福感に浸りながら、シャワーを浴びて食事。
備蓄しているカップラーメン片手に望遠鏡の前で食事をとる。
その後、レンズ越しのエリコが就寝するまで彼女を愛でるのだ。
生活に必要な行動は最低限。
制服や私服の選択は週に1度。
食事もインターネットでケース買い。
仕事を除き、自ら出かける事は極力減らしている。
なぜなら、大峰エリコをずっと見ていたいから。
考える事などない。
海藤マサキの願いは、ただエリコと一緒に時間を共有できればそれでいい。
彼女以外、本当に何もいらないのだ。
「…………?」
海藤マサキ、視界の端に違和感を覚える。
顔を上げ、汚くて狭い居間を見渡す。
「……気のせいか?」
ベランダへ通じる窓、そこへうっすらと映りこむ。
三脚の望遠鏡。
パンツ姿の海藤マサキ。
そして、その背後には着物の女性が立っていた――気がした。
読了、ありがとうございます。
設定が先走った内容になりますが、今作は簡単にまとめていきたいと思います。
生暖かく見守っていてください。