6/脱兎の如く
いつもビクビクしている事その5。
キャライメージって大事だな、と(抽象的)
文面で細かく説明してもいいけど、
当然ながら挿絵はないからカタイ文面になる。
キャラの容姿や雰囲気は読者の妄想、もとい想像で、
補完をお願いします。
●エリコの自宅マンション(夜)
「んじゃ、また明日」
「なんか今日はありがとね。突然優しくなって気持ち悪いけど……」
ひでぇ、と返すシュン。
半ば首を突っ込んでしまっている反面、表情がこわばる。
「まぁ気まぐれだよ、気まぐれ。うん」
「……変なシュン……」
その後、軽く話し別れの挨拶を交わす。
おやすみ、と手のひらを振るエリコ。
×××× ×××× ××××
シュンは人の気配が薄い、マンションの敷地内を歩く。
その先、曲がった通路でシュンの足が止まる。
ここなら万が一、何かあってもエリコに見られる事はないだろう。
「――何かいいたい事があるならはっきりいいなよ」
「…………」
言葉はない。
闇夜から裂けるように、黒のパーカーを着た男が現れる。
パーカーのフードで顔は隠している。
だが、意味はない。
顔はわれているのだから。
「バイト先の副店長さん、だろ?」
反応はない。
しかし、口元から零れ落ちていく独り言が妙に耳障りだ。
「……んで…………な……で……」
副店長、改め海藤マサキは、ゆっくりと身体を揺らす。
そして、1歩。
踏みしめた重心を存分に使って、片方の足を浮かす。
さらに、もう1歩。
「なんで……んで、お前なんだよ! 菊池シュン!?」
――刹那、2人は月光を浴びる。
「なんでッ! なんでッ!? なんでお前なんかがオレのエリコとぉ!!」
海藤の着ている服の黒、色白の肌。
そして、反射する銀。血走った眼光。
「あー確定だ、こりゃ」
右手に握っているのは、白銀のナイフ。
刃渡りは10センチもないが、鋭利な先が見て取れる。
荒い呼吸音が、シュンの耳まで届く。
相当、興奮しているようだ。
「お前がいなけりゃオレがエリコを幸せにできるんだぁ!!」
と、両手で柄を握りしめる。
力みすぎなのか。
恐怖で震えているのか。
ナイフの切っ先は、終始、シュンに向いていた。
どこからどう見ても、危ない人だろう。
「……あのさ、そんな物騒な物は下ろそうよ。ね?」
知らず知らず、火に油を注いでしまったようだ。
眼前の海藤は、震えて立ちすくむ。
肩で息をし、眼球が落ち着かない。
――今日は様子見で済ませるつもりだったけど、失敗したな。
挑発に加えて、殺傷行為まで発展したこの状況。
小ぶりとはいえ、あれに刺されると痛いだろう。
刺されるヘマはしたくない。
荒事は叔父からの紹介されている依頼で慣れているとはいえ。
痛いものは嫌だ。
本当に嫌だ。
「生憎、怪我すると枕元でずっと泣きわめく身内がいるもんでね。あまりそういう喧嘩沙汰にしたくないんだけど……」
『もしかして、それって私の事? ねぇシュンちゃん?』
と、明かりが落ちている1階の窓ガラスにムラサキが映りこむ。
ガラスだからか、鏡と同じようには鮮明に映らない。
波立つ水面のように、彼女の立ち姿はおぼろげだ。
姉へ律儀に返事をしようとした瞬間。
「お前なんかいなくなれぇ!!」
海藤が先手を打つ。
いや、しびれを切らしたという方が正解か。
ナイフの切っ先を押し込むように、シュンへと走ってくる。
「うぇ!? わ、悪いけど本当に真正面からとか無理なんだってッ!?」
シュンは、迫る海藤と真逆の道へ逃げ出す。
脱兎の如く、茂みや歩道をかいくぐる。
文字通り、全速力。
足の速さで優っていれば、問題はない。
こちらには後ろにも、目となるムラサキがいる。
追手の位置など、遠く離れてもムラサキが察知してくれる。
「きーッくーッちーッ!!」
個人的な意見だが、人の名前をこんな団地で叫ぶのは止めてほしい。
と、お願いをしても聞いてくれる精神状態ではないだろう。
それだけは明白だ。
『面倒になっちゃったわね。嫉妬して逆ギレとか』
「いわないでよ!? めっちゃ後悔してるんだからさ!?」
『あらあら、ごめんなさい』
薄暗い隘路へ滑り込もうとした時、ムラサキの助言に手に入る。
『そっちは行き止まり、まだまっすぐに進みなさい』
左へ向いていた両足が、向きを変えた。
「ッ、あいつ追ってきてる!?」
『――待って、シュンちゃん。あのストーカー男、どこかへ……』
と、バックパックから静止の声。
ムラサキの探知では、どうやら海藤はその場を立ち去ったようだ。
シュンを見失ったからか。
諦めたからか。
はたまた感情の矛先を変えたか。
荒ぶったそれが、エリコに向くと厄介だ。
『んー、なんか帰っていくみたい。方向もエリコちゃんのマンションと反対方向だし……?』
良かった、と安堵するシュン。
藪の蛇をつついてしまったが、ひとまず落ち着きそうだ。
数分後。
偵察してきたムラサキいわく。
足取りもゆっくりながら、どこかへ向かっているらしい。
「……姉さん、あと追える?」
『ストーカー男をストーキングしろって?』
運が良ければ、このまま海藤の自宅がわかるかもしれない。
と、シュンはそう思ったのだ。
読了、ありがとうございます。
設定が先走った内容になりますが、今作は簡単にまとめていきたいと思います。
生暖かく見守っていてください。