4/大峰エリコの秘密【修正版】
いつもビクビクしている事その3。
調子がいい時は、手が止まらない。
でも頭の整理がついていない時ほど、手が止まる。
手が止まらないように学習や刺激を与えてみるけど、
そうするたびに字面の印象が変わる。
私だけですかね?(笑)
●大学/講義室
「おはよう、大峰」
「え、あ、うん。おはよ」
と、鳩が豆鉄砲を食った表情を浮かべる。
シュンから、先に挨拶されるとは思っていなかったようだ。
訝しげに眉をひそめながら、席につくエリコ。
「……シュン、なんか変なモンでも食べた?」
「失礼なヤツだな」
と、頬杖をついたまま。
目線は隣に座るエリコを見据えている。
「だってさ……」
何がいいたげなエリコ。
だが、シュンの言葉がそれを遮る。
「大峰。昨日は放課後どこかいったのか?」
「うん、まぁね。あの後、バイト先から電話かかってきてヘルプで出てくれって」
「何時まで?」
「えっと昨日は確か11時過ぎだったかな」
夜11時。
まだ姉のムラサキが帰宅していない時間帯だ。
加えて、彼女のバイト先は最寄り駅や繁華街から近い。
信憑性が高まり、ムラサキの話に深みが出る。
「その後、どうしたの?」
「普通に夜ごはん買って帰ったけど……なんか問題あるの?」
「いや、問題なんかないよ。ただ気になっただけ」
気になっただけ。
つい言葉で出てしまったとはいえ、片腹痛い。
他人の秘密など百害あって一利なしだ。
あまり詮索するものでもない。
しかし、どうにも昨夜の会話が頭から離れなかった。
●回想/自宅(夜)
「なんかエリコちゃん、ひと回りくらい年上の男にいい寄られてたわよ。『デート』とか『最高級のバッグ』って。あんまり穏やかな感じじゃなかったけど?」
――ムラサキの見た顛末はこうだ。
叔父との会食後、送迎車に乗っている中。
見知った人影、大峰エリコを見たようだ。
そこで面白がって、エリコの後をストーキングした様子。
エリコはまっすぐ繁華街に向かい、ある喫茶店に入った。
数分後、ひと回り年齢も体格もある男性が現れた。
野暮ったい長髪、私服もシワだらけでだらしない。
そんな男と面と向かうエリコ、ブランドのロゴが入った紙袋をテーブルに置く。
『副店長、このバッグはお返しします。ご心配なく、まだ使ってませんので』
『返す? 最高級の女性物バッグだよ? 持っていなよ』
『いいえ、お返しします。趣味じゃないので』
『ああ、動物が好きだもんね。んじゃ今度はそういう系の物をプレゼントするよ』
『いいえ、いりません。もらっても迷惑です』
『迷惑? なんで?』
『好きでもない人にこんな高い物、もらえません。しかもバイト先の上司……副店長からなんて……』
『プレゼントがダメなら、今度デートでも行こうか? 好きなところに連れてってあげるよ』
『デートも結構です。私、好きな人いますから』
『好きな人? ああ、この間告白して振ってきたフザケタ男ね』
『……なんで知ってるんですか?』
『君の事ならなんでも知ってるよ。バイト仲間のチエちゃんに恋愛相談している事も、まだその男にアタックしている事も』
『ッ、ストーカーじゃないですか』
『あはは、違うよ。ただ君を好きなだけ。好きな君が考えている事とかしている事を知りたいだけだよ』
『それをストーカーっていうんでしょっ!』
『え? 帰っちゃうの? まぁいいけど……ここはボクが奢るよ。年上男性の甲斐性ってやつかな』
『ッ、アンタ頭おかしいんじゃないのッ!』
『あ、エリコ!!』
――やはり、他人の秘密なんて百害あって一利なしに違いない。
聞いてしまった後悔。
煮え切って冷え固まったベッコウ飴の感情。
沸いてしまったそれらをどう処理していけばいいのか。
シュン、その日の夜はずっと頭を抱える羽目になった。
読了、ありがとうございます。
設定が先走った内容になりますが、今作は簡単にまとめていきたいと思います。
生暖かく見守っていてください。