突然、【異世界サンドイッチ許せねぇ教】の開祖になってしまった件
◯ ことの発端
それは、2020年7月15日の朝のこと。仕事前にTwitterのタイムラインを眺めていると『小説家になろう』の書き手さんが、「異世界なんだから割り切って楽しんでほしい」という趣旨のツイートを投稿していた。
経緯としては、その書き手さんの感想欄に読者の方から「チート」「アーメン」「お陀仏」等の宗教やゲーム由来の言葉を、そのままファンタジー作品の中で用いることへのツッコミが書かれたらしい。それに対する心情を吐露したものが上のツイートである。
私はこれを見たとき「作者さん大変だなぁ」という感想を抱いた。ただその一方で、ファンタジーを長年読んできた経験から、ツッコミ自体は野暮だと思いつつ読者の人たちの心情もある程度理解はできたこと、自分はうまく折り合えてこられたことを表明すべく、以下のようなコメントをリツイートした。
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これ作者さんの言いたいことすごく分かるけど、読んでいると引っかかるのも事実なので悩ましい。
自分は異世界に「サンドイッチ」が登場すると毎回そこで引っかかる。
「落ち着け、これはラノベだ。読者に馴染みの単語を選んで表現しているだけだ」て自分に言い聞かせてから、読書を再開する。
```
ご覧の通り上記の主旨は変わらず、ただ私の場合は宗教やゲーム由来の言葉の代わりにサンドイッチで引っかかりを覚えた経験が何度かあり、その上で(校閲とは無縁の)個人が自由に多様な作品を発表する『小説家になろう』という場に投稿された作品であることを思い返して折り合いをつけている、というように具体的なエピソードも加えた。
ちなみに余談であるが、「これはなろうだ」と書くと、『小説家になろう』に対する世間的なイメージからネガティブに取られるリスクを鑑み、ラノベだと言う言葉に置き換えるという小細工もしている。
◯ 驚くべき反響
上記ツイートを行った当初、それなりに共感を得て2桁程度のリアクションはあるかもと予想していた。案の定最初は20程度のリツート数で「思ったより反響があったな」と感じたのであるが、1時間ほど放置している間に、その数は10倍に増え「Twitterのバグかな?」と疑い、さらに時間が経過すると今まで経験したことのない数字になり、これは「バズってやつか」とようやく理解した。
リツートが400を超えたあたりで、急いで自身が運営する『なろうファンDB』の宣伝ツイートをツリーにぶら下げたものの、メンションの数が多すぎること、午後も仕事があったことから、あとは夜まで放置した。
○ リプ・引用リツートする人たちの恐るべき反応
バズったことに対して、私は「皆さん、結構共感してくださったんだなぁ」と思っていた。しかし現実はそんな楽観を吹き飛ばすかのように厳しかった。すでに書いた通り、私のツイートの主旨は「作者さん大変だ。ただ自分も気になることあるけど、自身で折り合いつけてるよ」である。
ところがリプや引用リツートでは、「サンドイッチごときで文句言うのはおかしい」だの「そんなこと言い出すなら、まず日本語であることを気にしろよwww」だの「サンドイッチがダメならパンもダメでは?」だの、たった140字のツイートの主旨すら理解してもらえていないことを示す反応が結構多かった。
「読者に馴染みの単語を選んで表現しているだけ」と私は理解を示しているのに、なぜ明後日の方向を向いた反論が返ってくるのか。いずれにせよ無視するのもどうかと思ったので、できる限りリプやファボをしつつ400件を超えるコメントに目を通していった。
「なぜサンドイッチに引っかかるのか?」に関心を示した反応に対しては、自分自身を振り返って以下のように回答した。
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サンドイッチが気になるのは、地球にしか居ない人物の名前に由来している上に、構造自体は単純なので異世界にも同様の食べ物があってもおかしくないという前提ですね。
例えば一神教に類する異世界の宗教を、キリスト教て呼んでたら違和感凄くないです?
という程度の話です。
```
今読んでみると若干言葉が足りていないのだが、地球の人名等の固有名詞そのままの料理の存在は、私が無意識に設定しているファンタジーのリアリティラインを超えてしまっているという感覚である。要は「サンドイッチ」という言葉を目にすると一瞬「異世界」という舞台から弾き出されるのである。
同様の例として『ロスト=ストーリーは斯く綴れり』というなろうの名作ファンタジーを読んでいる時には、現実のサッカースタジアムの名前を「聖地」の名前として採用していたことで引っかかりを覚えた。もちろん自身で折り合いをつけた訳であるが。
なお、その作品の感想欄では同様の気持ちになった読者からツッコミが入っていたが、個人的には微笑ましさを感じた。ツッコミも気遣い1つで作者さんの励みになる例と言えるかもしれない。
いずれにせよ、さまざまな誤解を生みながら1日目が過ぎていった。
◯ 異世界サンドイッチ許せねぇ教の開祖になってしまう
人の関心にはピークがある。私のツイートに対するリツイートも、2日目の昼頃にはピークを打ち徐々に落ち着いていった。夜ともなるとまだ通知は来るものの、精神的にはかなり穏やかであった。
そこで、引用リツイートの中に「異世界サンドイッチ問題」みたいな言い方をする人たちの存在に気づいて、検索をかけることにしてみた。
すると。
びっくりするぐらいの頻度で「異世界サンドイッチ問題」に言及するツイートが出てきた。もちろん発端は私のツイートのようである。しかも「異世界サンドイッチが許せない人」「異世界サンドイッチに文句をつける人」「例のあの人」みたいな言い方まで見かけた。
いったいどういう伝言ゲームになったのかはわからないが、「異世界サンドイッチひっかかるけど折り合えている人」であるはずの私は、「異世界サンドイッチ許せねぇ人」になっているようなのであった。
その理不尽さをツイートで嘆いたところ、どうやら私のツイートのサンドイッチの部分を切り取った上で、そういったものが登場するファンタジーを「作り込みが甘い」作品として批判する人たちが一定存在したことを教えてもらった。
「お前らの主張のために、私を利用しないでくれよな」
そう思った。
とはいえ覆水盆に返らず。幸い私は、実名でTwitterをやっている訳でもなく仕事に支障が出る訳でもない。なので、自分が発端だけど「なんか祭りになってるなぁ」ぐらいの感覚で眺めることができた。
フォローしてくださっている方々から温かい言葉をいただいたことも、そういう気持ちでいられた要因かもしれない。
◯ 祭りのあと
このほか、Togetterでまとめられたり、読み速にまとめられたり、はてブで350件ほどの数値を叩き出したり、noteやブログでコラムが書かれたり、さまざまな反響を生みつつ、祭りは徐々に終息していった。私にとってはなかなか迷惑なことではあったが、得たものもある。
運営する「なろうファンDB」には、連日twitterから数百人単位の流入があり(広告を掲載していないので実利はゼロだけど)、フォロワーさんの数も900の状態から一気に1000を超えた。例のツイートのインプレッション数は140万近い数字である。twitter広告でそれを達成しようとすれば数万円の費用はかかったと思う。
また、書き手の方が異世界をどう表現するか悩みながら意思決定している様子を垣間見ることができたのも、読者としては興味深かった。
そう考えると、今回の件も存外メリットの多いイベントだったかもしれない。
「もう1度バズりたいか?」と尋ねられると、うーんと唸ってしまうが。
読んでいただきありがとうございました!本文中に出てくる『なろうファンDB』て何?と気になった方は、下にスクロールしていただけばリンクがあります。