9.いきなり1等が当たってしまった。予想でだけど
ロトに気持ちが傾いたとはいえ、まだカナ子は宝くじ売り場に買いに走るまでには至らなかった。
そこはまだ慎重な彼女。「買ってみようかしら?」と思う一方で、「当たる確率はゼロではないけれど、限りなくゼロに近い」という現実論が購買意欲を押さえ込むからだ。
(そんな簡単に当たるわけがないわよ。そのことを、買ったつもりになって実証してみよう。万が一、当たったら超悔しいけど、そんときは運がなかったと思えばいい)
彼女は実証のため、少し前に始まった新しい宝くじの『ロト8』を選んだ。
これは、1から50までの数字の中から8つを選ぶという超むずいもの。しかも、賞金の上限は50億円という破格の金額。抽選日は他のロトとは違って毎週日曜日。
ロト7でも難しいのに、発売開始以来未だに1等が出ないのでキャリーオーバーが積み上がり、もし1等が一人なら23億円が手に入ると予想されていた。当選金の上限は50億円だが、早晩50億円に達成するかも知れないと噂が高い。
ソファにもたれかかっていたカナ子は周囲をキョロキョロと見渡して予想を書く紙を探したが、ちょうどダイニングテーブルの上に誰かさんの忘れ物である黄色の付箋があったので、それを1枚剥がし、次の数字を鉛筆で書いた。
1, 5, 6, 11, 17, 28, 45, 50
左端の2つは、前回の当選番号の「1, 5」の2つ。そこから右は、左にある2つの数字の和である。例えば、6=1+5、11=5+6という具合に。最後は73になるはずだが、50までしかないので50。
「こんな、出来すぎた規則的数字を含むものなんか、当たるわけない」
カナ子は、付箋をPCのモニターの右端にペタッと貼ってPCを立ち上げた。
次の日曜日の夜、「当たるわけがない」と思いながらロト8の抽選の結果をPCで調べた彼女は、ブラウザの画面とモニターの右端にある付箋との間を視線が何往復かした後、椅子から転げ落ちるほど驚いた。
当選番号は『1, 5, 6, 11, 17, 28, 45, 50』。
「ええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」
悲鳴が部屋中に響き渡り、慌てて口を手で押さえる。
「や、8つとも合っているじゃない!! ってことは、これ買っていたら1等だったってこと!?」
今回も1等の該当なし。ということは、もし買っていれば、23億円を独り占めできたのだ。