6.付箋を拾う
こんな状況での初顔合わせでなければ、自撮りのスマホに一緒に入ってもらって、もし姿が映っていたら「妖精が我が家にやって来た!」なんてツイートしてしまいそうだが、花への仕打ちの謝罪を求められているのだから、記念撮影なんかしている場合ではない。
「なぜこういうことをするの? 教えて」
「実は、かくかくしかじかでして……」
フルールは、カナ子が花束をゴミ箱にねじ込んだ理由を聞き終えると、肩をすくめて呆れ顔を天井へ向けた。
「事情はどうであれ、物言わぬ花だからって何をしてもいいの?」
「いいえ……」
「反省した?」
「十分反省しました」
フルールは、半眼でカナ子を見下ろして「フーン」と言うと、
「なら、今すぐ、代わりの花を買ってきて、大事に飾りなさい」
花を元通りにしろとかの無理難題を言い渡されるかと思いきや、意外と普通な、罰とも思えない内容にカナ子は安堵する。
「じゃあ、今からコンビニで買ってきます」
カナ子がソファに放り投げた上着を着ていると、フルールがソファの上にちょこんと座って両足をプラプラさせた。
見ていると、仕草が可愛い。妖精なら背中に羽を畳んでいるのかと思って、後ろに回って背中の方を見ようとしたら、睨まれた。
急いで部屋の外に出ると、冷たい風が吹いて感覚が研ぎ澄まされた気分になった。
(あれ? 夢から醒めたのかしら?)
本当に妖精がいたのか戻って確認しようとしたが、睨まれるのが怖いので、とにかくコンビニに走る。
コンビニにはもらった花束よりも少なめの仏花しかなかったので、とにかくそれを買って自宅に戻る。
部屋に戻ると、フルールがソファの上で足をプラプラさせていたので、なぜかホッとした。
カナ子は、キッチンで細長いガラスの花瓶に水を入れて、買ってきた花を挿した。そうして、流しで手を洗ってから花瓶をダイニングテーブルの上へ置きに行くと、フルールの姿が煙のように消えていた。
「フルール、どこ?」
PCのある六畳間には隠れていない。風呂場にもトイレにもいない。
もう一度、ソファに戻り、まさか下に潜り込んでいないかとしゃがんでみる。
すると、フルールが足をプラプラさせていた真下に黄色い付箋が落ちていることに気づいた。
大きさは5センチ角。試しに一番上の1枚をめくってみると、裏の一部に薄く糊が付いている市販品と同じタイプだ。パラパラめくると、10枚ほどある。
「私、付箋買ってないから、フルールの落とし物かしら?」
カナ子は手のひらに載せた付箋に目を落とし、首を傾げた。