3.可愛い顔をした侵入者
カナ子は両手で両方の太ももをパンと叩き、弾みを付けて腰を上げると、わずかにふらつきながら六畳間へ向かう。
まだまだアルコールが抜けていないと実感する。当たり前だ。1時間前は主賓なのに無視されて手酌で飲んでいたのだから。
ドアを開けて壁のスイッチを押すと、蛍光灯の眩しい光の下に不思議と心が落ち着く乱雑な光景が出迎えた。
整理整頓されていると落ち着かないという矛盾。だが、それが事実。
ヨレヨレのカーテンが閉まっていることを確認し、物盗りにでも入られたと思えるほど散乱している着替えを跨ぎ、雑誌に足をぶつけ、31.5型ワイドのモニター画面に自分の影をかぶせ、回転椅子へ「ヨイショ」と腰を下ろす。ギシッと音を立てる椅子は、そろそろ買い換えを訴えているが、彼女は聞く耳を持たない。
「やっぱ、酔ったかしら……」
あれだけ飲んでいて何を今更な発言ではあるが、机に肘を突いた腕で額を押さえ、あくびをしてアルコール混じりの息を吐く。この色気も何もないアラサーに呆れて自己嫌悪するが、両手で頭を掻きむしってそんな気持ちを横へ放り投げる。
一呼吸置いて、PCの電源オン。
ブーンという空冷ファンの聞き慣れた音が耳に飛び込む。
英語だらけのBIOSメッセージを目で追いながら、「さて、何をプレイしようかしら……」とつぶやいたその時――、
「あなた。花を粗末にしないの」
背後から聞こえてきた高い声に、カナ子は短い悲鳴を上げて振り返った。そして、二度目の悲鳴を上げた。
無理もない。背後でドアノブに手をかけた可愛い顔をした幼女が、眉間に皺を寄せて立っていたのだから。