2.思い出したくないことほど思い出す
お世話になった人は2人しか出席してくれなかった。それ以外はほとんど口を利いたことがない人ばかり。しかも、一番遠い席にパワハラ上司がいた。
他にお世話になった人は参加してくれなかった。優しい言葉は嘘だったのかと疑念が湧いてくる。
主賓のカナ子が赤面しながら挨拶した後に「次はどこへ行くの?」とか「結婚するの?」とか話を振られた。
それをはぐらかしていると、遅れてやってきた部長がドカッと座ってビールをつがれている最中に「来る奴は歓迎する。出て行く奴は知らん」と冷たく笑う。
カナ子が部長に不愉快な顔を返した途端、宴会の最後まで蚊帳の外に置かれてしまった。
誰も話を向けてくれないので、うつむいたままビールをあおり、なくなったら手酌をする。
もう関わることがない仕事の話で盛り上がる場に無言で座り続けるという苦痛。
「……みんな、送別会を口実に、自分が飲みたかっただけよ」
ソファの上でそう言ってみると、そんな気がしてくるから不思議だ。しかも、だんだんそちらに気持ちが傾き、結論となる。
すると、自分が蚊帳の外の送別会が腹立たしくなってきた。
「フン。騒々しい居酒屋で赤の他人に囲まれて、お一人様の食事をしていたと思えばいい」
吹っ切れた顔になって再度天井を見上げ、それから角時計に視線を移す。
もう22時を回った。送別会の主賓は無料をいいことに結構お腹に入れたので、夜食を食べる気分ではない。
部長と上司とアルハラとマリハラの先輩とお局の顔が浮かんでくるから、忘れるために一杯やろうかと思ったけれど、あいにく缶ビールもワインも昨晩でなくなっていることを思い出し、舌打ちをする。
「気晴らしに、ネトゲでもやりましょうかねぇ」