13.盗難に遭った
土曜日にカナ子は、付箋に小さい文字で42個の数字を書き込んだ。これで、書かなかった数字が当選するはずだ。
さっそく宝くじ売り場へ行くと、老若男女が長蛇の列だ。40億円ともなると人々の関心も相当高い。未成年も並んでいるのではないかと心配になる。
(みんな、当たる気になっているけど、フフフッ、当選番号はここに書いていない数字よ♪)
そう思いながら自分が当たる気になっているカナ子は、札束に埋もれる姿を想像しながら購入したばかりのくじ券を長財布に入れて、高級店がひしめく街へスキップしながら繰り出した。
貴金属店や高級ブティック店を梯子して、何を買うかをもう品定めする。
大金が手に入ったことを思うと、百万円が安っぽく見えるのだから不思議である。
そんな彼女が、スリに遭った。
何度か街中で長財布を取り出して、くじ券をチラッと見てはニヤけていたのだが、ジッパーを開けたままのショルダーバッグに長財布を戻した途端、後ろから誰かに体当たりされた。
顔を上げてすぐ、後ろからぶつかったのが誰かと振り向いた。しかし、後ろは男が数人背を向けていて、誰がぶつかったのかわからない。
(何よ、失礼な! ぶつかっておいて! 謝んなさいよ!)
町中で声を上げるのも恥ずかしいので、心の中で文句を言う。
そうして、なにげにショルダーバッグに手を入れて長財布を探すと、ない。ぶつかったショックで道に落としたかと思って足下を見たが、そこにもない。
思い返すと、顔を上げたとき、前に帽子を目深に被った男がいた。後からぶつかって振り向いたときに前にいたその男が長財布を抜き取ったのかも知れない。
絶望の淵に追いやられた彼女は、「外れろ! 外れろ!」と呪うように言葉を吐く。犯罪者に40億円が当たってはたまらない。
それは私のくじ券だとどう証明しようか、この不思議な付箋のことを暴露しようかなどと、あれこれ考えながら日曜日の抽選日を迎えた。
結果は、一つの数字も当たらなかった。付箋に書いた42個の数字の中に1等が入っていたのだ。
今回も、1等の当選者はいなかった。彼女は、賊の手に当選金が渡らなかったことを安堵するも、今度こそ当たる自信があっただけに、買うと当たらない現実を呪った。




