10.またしても1等だった。買っていないけれど
カナ子は椅子から立ち上がると、頭を抱えてベッドの上へ仰向けに倒れ、右に左に激しく転がった。万一当たったら超悔しいという彼女の言葉を、今実践している。
冗談のつもりで1分ほどで書いた数字だが、本当にこれでロト8を買っていれば、一生遊んで暮らせる大金が手に入ったのだ。
枕を両手で鷲づかみにして顔に押さえつける。
「うううううっ! なんてこった!」
カナ子は急に枕を持ち上げた。
「これはもう、降りてきたとしか思えない!」
彼女は、記入済みの付箋に次の予想を追記しようとした。
ところが、なぜか書き込めない。
ならば、消そうと思って消しゴムでゴシゴシやったが、鉛筆なのに文字が消えない。カッターナイフで文字を削ることも出来ない。
しからばマジックインキで、とチャレンジしたが、あえなく玉砕する。何をやっても追記できないのだ。
「そっか、一度書いたら追記も消すことも出来ないという付箋紙なんだ。聞いたことないけど。……なら、このまま証拠として残そう」
普通ならこの段階でおかしいと気づくのだが、興奮状態なので自分で納得する理由をこじつけて、次の真新しい付箋を1枚剥がし、また鉛筆で書き込んだ。
3, 13, 23, 33, 43, 46, 47, 48
ロトのテクニックとして、下1桁を同じ数字にする場合がある。今回は下一桁が3の数字を全部選んで、43に3を足して46からは連番を考えた。3ずつ足すと50を越えるからだ。
鼻息が荒いカナ子は、一度冷静になった。
「これも、あまりに規則的すぎて当たると思えないけど、これで万が一、億が一、兆が一、当たってしまったら……」
自分に「降りてきた」のが本当なのか、次の日曜日を心待ちにする。
すると、あまりに規則的すぎるこの数字が、また1等に当たってしまったのだ。
またまた当選者なし。当選予想額は25億円。もし買っていれば、いきなり大富豪だ。
カナ子は、笑って泣いてを繰り返し、頭を掻きむしった。
「二度あることは三度ある! 今度は予想した数字を買う!」
彼女は3枚目の付箋に予想数字を書いて、宝くじ売り場に走った。
次の日曜日、震える両手でくじ券を持って心臓のドキドキが収まらない中、PCで抽選結果を見た彼女は、白目を剥いて仰け反った。
どういうわけか、予想した8つの数字は、何一つ当たらなかったのだ。しかも、かすりもしなかった。