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ロトの当選数字は付箋の上(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
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1.アラサー、ニートになる

 3月31日の21時30分。


 都内の中堅企業に事務員として勤めていたカナ子は、停車した客車からたくさんのサラリーマンやOLに混じっている酔客の一人として吐き出された。


 今日は自分の送別会。主賓が不参加という訳にはいかないから不本意ながら出席した。


 世話になった人の顔よりも、退社を決意させたパワハラ上司の顔が脳裏から離れない。


 満員電車でもみくちゃにされながらも、帰りに贈られた小さな花束だけは体を張って守っていた。お世話になった人が渡してくれたから。


 バス停から夜道を千鳥足で帰るのも危険なのでタクシーに乗る。


 タクシーの中で同僚から「後で読んで」と渡されたメッセージカードを開く。楽しみにしていたカナ子は口元がほころぶのの束の間、たちまちにして青ざめた。


 そのメッセージカードは、パワハラ上司の詫び状。しかも、お詫びに花を贈ると。


 自宅マンションの前に横付けされたタクシーから「おつりは要らない」と紙幣を渡して飛び降り、3階の301号室に駆け込む。


 靴を脱ぎ捨てて短い廊下を走り、台所のゴミ箱の前に立つと、それまで左手で下向きに持っていた小さな花束を、その向きのままゴミ箱へ勢いよくねじ込み、メッセージカードを細かくちぎってその上から散らした。


 台所で手をよく洗った後、鍵をし忘れたことに気づいて、施錠に戻ったついでに靴を揃えるが、「もうしばらく履くことはないか」と下駄箱にしまい込む。


 着ていたスーツの上着を脱いでソファへ投げ出し、気持ちを落ち着かせるためにソファに体を沈め、万歳の格好で「うー」と言いながら仰け反る。


 思いっきり筋肉を伸ばした後、一気に力を抜いて「ふー」と長めに息を吐く。ダランと下がった両腕がソファを叩いた後、「さて」と言って天井を見上げた。


 そして、口端を軽く吊り上げてつぶやき始める。


「仕事を辞めたアラサー、ニートになる……か」



 また似たような上司に当たると最悪だ。そう思うと、再就職する気にもなれない。自宅に引きこもっていた方が気が楽である。


 正面を向いて腕組みをしたカナ子は半眼になりながら、これからの自分を考え始めたが、すぐに2時間ほど前の居酒屋での出来事が脳裏に蘇ってきた。


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