表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/58

3-3 来訪者

見ていただきありがとうございます。


※3の部分を3/29分割修正いたしました、




アリスティールは臨戦態勢と言う名のコチコチで、来客を待った。とりあえず、誰かは知らないが先制攻撃として顔を見ずに挨拶だけすれば、礼を失したことにはなるまい。そのため何度も「ごきげんよう、アリスティールと申します」とぶつぶつリハーサルを続ける。


扉がカチャリと音をたて開いた。


「ご、ご、ごきげ、イタッ」


挨拶しようとして、舌を噛んだ。それでつい入ってきた相手を見てしまった。見て思わず息を飲んで、挨拶が止まってしまった。


青みがかった灰色の髪の従者が扉を開けている、従者は非常な美少年でどこかの貴公子と言っても差し支えない。だが、貴公子の横に主人とおぼしき銀髪の少年が、入り口の真ん中に立っていた。


そちらが主人なのは一目瞭然だ。学生服のような作りの紺色の服に、金ボタンが肩から斜めに並んでいるこじゃれたデザインで、明らかに貴公子より、銀髪の少年の服の質がいい事が分かる。


服と立ち位置で判断できた銀髪の来客は


「挨拶はいい」


と、尊大に言って部屋に入ってくる。とりあえず、アリスティールは慌ててスカートをつまみ一礼して、手でソファーを勧めた。


来客の見た目上、立たせているべきではないと感じたからだ。銀髪の少年は歩いて来れたことが、驚きな状態だった。


「お茶も菓子もいらない」


来客の少年はメイドの持ってきたお茶セットを手で制する。とりあえず、困った顔のメイドにもう下がっていいと、身振りで指示する。メイドは下がったが、執事は部屋の隅に控えている。ただ、来客が誰かを聞くタイミングをまた失ってしまった。


「アリスティール嬢だったか、子爵がご不在の折に来てしまい失礼した。僕は今朝話を聞いて、とるものもとりあえず来てしまった。」


「はぁ」


何の話かわからないので、間抜けな相槌になる。相手は気づかず真摯な調子で続ける。声には聞き覚えがあった、確かに銀髪と青い瞳の少年だった。少年の身分と見るからに分かる不調が、執事に6歳の娘にお伺いをたてるしかない気持ちにさせたのだろう。


「期待させて申し訳なかったが、父から行った今回の話はなかったことにして欲しい。どのみち実らない話だ。」

「何の話でしょう?」

「婚約の話だ」


アリスティールの目が点になった。


「・・・誰と誰の?」

「貴女と僕の」

「初耳です・・・」

「・・・・・」

「私は何も聞いてませんし、どのみち6歳の子供の私に言う話ではないかと思います。」


アリスティールは子供らしくない口調丸出しで答えた。いきなり来てこの少年は私を振りに来たらしい。


「一週間経たないうちに、母が領地より帰って参ります。その時にお話いただけますでしょうか?」


できれば、自分にではなく、大人の誰かに言って欲しかった。一週間後にもう一度来て欲しかった。


「それでは間に合わない」


少年はかぶりをふった。


「何故でしょうか?」


答えが予想できていたが聞いてみた。


「私が死ぬからだ」


予想通りだった。目は落ち窪み、誰でも死を感じてぎょっとする程の容姿。


「来週に死なないまでも、動けない可能性が高いんだ。」


あまりに不吉な話に、相槌をうつ事もためらわれたので、動きを止めて相手を見た。銀髪に晴れた空のような青い瞳、同じものを半年くらい前に見た記憶があった。


その時は非常に綺麗な少年だった、大きくなればさぞかし女性が騒いだだろう少しウェーブのある男の子にしたら長めのおかっぱに近い髪に、青い瞳の怜悧な美貌はまだ少女のようだった。


だが、今は違う。


道にいる貧民の子供でも、今目の前にいる少年よりもう少し肉がある。肌もパサパサで変色している。まさに骨に皮をつけたに等しい少年がソファーにもたれて、苦しそうな息をしていた。


「何故、泣いている?」


気づかず自分は泣いていたらしい。


こんな小さい子どもが死にかけていると考えるだけで、胸が詰まる。


「シグリート=リンドバウム様ですよね。お茶会以来お久しぶりです。何故何故、こんな姿に?毒ですか?あの時の毒ですか?それとも誰かにこんな姿になるまでひどい目に合わされたのですか?」


シグリート=リンドバウムは現在の第二王子だ。現在のとつくのは何人も亡くなった王子がいて繰り上がった結果だからだ。


そして今また第二王子が代わろうとしている。


「僕はあの時の毒は飲んでいない。医師や魔術師でも理由がわからないんだ。治療魔法も何度もかけたんだ、神官や巫女にもたよった。だけど、呪いや魔術でもない、ただ死に向かっているとだけ」


少し間を置いて、シグリートが言う。


「もちろん、母にも僕にも原因がわからない。何を食べても吐いてしまう。食べなきゃいけないとは思うんだ、思うんだけど入っていかないんだ。」


シグリートは原因を知っている、そんな気がふとした。


まだ、少年なのに、深い苦しみに生きることを諦めているように見える。


「死んだ妹たち、クローディアたちが呼んでいるのかもしれない。」


亡くなった二人の幼い姫たち。会話には死の匂いしかせず、重く部屋の中に立ち込める。部屋にいる人たちは動きを止めた。





そんな時に、太陽みたいな泥まみれの日常(バカ)が飛び込んできた。


「アリスティール、ここにいたの!いいもの見つけたよ~♪」


ギースのいいものは、大抵セミの脱け殻レベルの「少年の宝物」だ。決して一般受けするものではなく、女の子や貴族の子に喜ばれるものではない。


「あ、お客様かぁ、はじめまして」


ギースは天使のようにニコッと笑う。はじめまして、と言われたシグリートは少し悲しげに目を細めた。彼はアリスティールには面識程度だが、ギースとは遊んだことのある仲だった。


「ちょうど良かった~♪」


いたずらっ子の上機嫌は大抵危険だ。後ろ手に何か持っているのか手の先が背中で見えない。それがいいものなんだろう。


しかし、手は見えないのに、何かが背中後ろで動くのが見えた。服の布地に当たるバタバタとした音もする。


「ちょっと、それ待って、待って、ギース」


ちょうど良かったの意味にアリスティールは焦った。


ギースが後ろの手を前に回した時、片手で掴んでいる今までにない大物がくねるのが見えた。


「お近づきの印に、はい、プレゼント」


そばかす少年が手を突きだした先は、シグリートの鼻先。


子どもの片腕くらいの長さの蛇が、くねってシグリートの顔に当たる。反射的に銀髪の王子はソファーから、立ち上がり逃げようとして、そのままその場に糸が切れたように崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ