3 美少女戦隊と屋根の葺き替え
ノクターヌ領は蛇行する川が中心を流れているので、湿地が多い。同時に建物に使う建材である大きな木のある森が少ない。そのため、一般のうちでは屋根を湿地に生えている萱草でふき、屋根を補強する事が多かった。
萱草は川沿いに広がる湿地に生えている。イネ科で大きく固い雑草だ。そのため、乾かすと水に強い性質を持つ。
子供の背丈を超えるほどの萱草を前に、アリスティールは茫然としていた。
「まかせて、風魔法を覚えたのよ、一気にカットしてみせるわ!」
クーが自分の背より高い草に負けず、胸をはるのを老人が止めた。
「待ちなさい、魔法を使える貴族は、すぐ短絡的に結果を出そうとする。それではちゃんとしたものができない。萱草以外も入るとそれを分別しないと使えなくなる。さらに、この湿地に住む鴨たちの大量虐殺にもつながるし、血で濡れた萱草は生臭く腐りやすくなるから、屋根には使えない。だから、これを使いなさい」
鎌を渡された。手抜きせず、自分の手で刈れと暗に言われたのだ。手袋はまっ白いのが衣装の付属として既に着ていた。
「急がば回れ、人助けは一日にしてならずじゃ」
萱草を初めとした湿地の草は硬い。一日にして、かわいい衣装は草でひっかけてぼろぼろになった。
一日目にボロボロになった衣装と足を見て、練習用に安い布で作ったものを赤と黄色のリボン等で飾り、作業用の衣装をクーは徹夜突貫で作った。あと、ドレスではむき出しになる足を保護するために。同じ布でズボンを作成した。腰と足首をゴムですぼめただけの簡単なものだ。それでも足首の部分は、少し生地を出した状態で袋にした部分にゴムを入れてフリルにようにして、その絞り部分をリボンで飾る。クーはどこまでもかわいさを追求するらしい。
手袋までは作成できなかったので、帰りに街で作業用の軍手のようなものを買って、それも小さな同色のリボンをつけた。
あくまでスカートつきのかわいさを残した作業服に身を包み、クーとアリスティールは2日目の草刈りを頑張った。
結局二日かけて萱草を手で刈った。レッドが炎魔法で促成で乾かそうとして、一部燃やしてしまい、二人はさらにもう1日萱草刈りをすることになった。
そして一週間干した。その間も乾きやすくなるよう、上下を入れ換えたり、ちょうどいい大きさにカットして束ねる作業があった。前日には屋根の上から古い萱草を降ろし、傷んでいるところをお爺さんが板をうちつけて補強する。そして、合計一週間、萱草を屋根に葺く日が来た。
屋根に飛び上がったアリスティールと、梯子で登ったお爺さんが上に二人。クーは萱草の束を屋根に投げ上げる役だ。それをアリスティールが受け取り、お爺さんが前もって屋根の表面、横に張った凧糸に上手にひっかけ、くぐらせ固定していく。
茅葺き屋根は日本の白川郷のようなものではなく、欧風のフランス辺りにありそうな建物の屋根に、日本のものより薄く萱を葺いていく。
アリスティールは高い所が得意ではないから、最初は下だった。だが、投げ上げるのにコントロールがなかったのだ。変に腕輪等で筋力強化してあるため、一度は屋根の上にいるお爺さんの頭直撃して、落下寸前になる『萱草屋根葺き替え殺人事件』を引き起こしかけたのだ。
クーはクーで完成時に、屋根の上でポーズをとって高笑いしたかったらしいのだが。諦めて下から投げ上げる役をやってくれた。
午後だけとはいえ、合計8日間かけて、屋根の葺き替えは終わった。三人で分担したから早かったが、これは確かにお爺さん一人では大変な作業だったろう。
「ありがとう、お嬢さんたち。これで無事に雨期を迎えられるよ。」
お礼を言われて、アリスティールもクーも満足だった。初仕事が何故か、屋根の葺き替えだったが、地道な一歩だ。困っていたかわいそうな老人を、美少女戦隊の力で救う事が出来たのだ。お爺さんも屋根の仕上がりに満足気だった。
仕事は信用第一、地道な一歩から。これで遠巻きに見ていた人たちにも、少しは信用されるかもしれない。アリスティールは思った。まぁ、依頼はなくてもいいから、また街に立つ前に休暇をとろうと、クーに言うつもりだった。
しかし、その目論見はお爺さんの一言で、残念ながらひっくり返された。お爺さんはおごそかに二人に言う。
「美少女戦隊とやらの本気は分かった。では、次は本当に大事な仕事を与えよう」
ゴクリ。私たちは試されていたということなのかもしれない。次の仕事は本当に魔物退治とかかもしれない、アリスティールは震えた。もったいをつけるお爺さんが重々しく、依頼を告げる。
「次は夏小麦の麦刈りじゃ」
小麦が終わったら、近所の家の修繕のため木の切り出しと仕事が続いた。小さい子供に力仕事の労働は厳しい。アリスティール筋力強化の腕輪足輪を、午後ずっと使う日々がつづいた。
特に木の切り出しは、子供の細腕に大きな斧は扱い切れなかったため、クーの魔法を小刻みに当てて木を切った。余計な小さな枝を、アリスティールが手斧で落とし薪にできるようにまとめ運ぶ。
初日の後は疲れも筋肉もピークに達した。アリスティールは体の痛みに耐えきれず、床にひざまずき手を前に組んだ。
「通販サイト様、筋肉痛解消のため、回復魔法のアクセサリーをください」
また、アクセサリーが現れたらいいなと、アリスティールは祈った。
最後に乾かした麦の脱穀も頼まれ、仕事は合計三週間続いたのだった。
仕事終了後、お爺さんから忠告された。
街で立つのはうさんくさいから、手紙を受け取れるようにしておいてくれれば、そこに依頼を入れるよう街や近所の村の世話役に言っておいてくれると。確かにならず者が喧嘩を売ってきたように、街に子供が目立つ格好で立つのはよくないかもしれない。
お爺さんの忠告を受けクーのいる森の、街に面した外周にポールの上に箱のあるポストを作った。こんなところに依頼は来ないと思っていた。そんなアリスティールの期待を裏切り、ちらほらと依頼文が来るようになった。雑多な生活のお手伝いが多かったが、美少女戦隊は確かな一歩(?)を踏み出したのだった。
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