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※3/30に、文章が長いので2の部分を分割しました。こちらはそれでも。長いかも。
2の方は修正無しで純粋に文章を分割しただけです。
ノクターヌのお父様お母様はすごくアリスティールを愛してくれているのが分かる。日本にいた時の両親とは、一人っ子というのを差し引いても全然違う。
日本では体調が悪くても一人で布団にくるまっていたし、痴漢にあった話をしても、「そうなんだ」程度でただ聞いてくれただけ、怒ったり心配も何もなかった。ここでは二人が交代で24時間いて、目を開けると水を飲ませたり、果物ジュースをくれた。メイドがやってくれる時もあったが、ほとんどは父か母だった。自分がそうやって、世話をされる事が気持ち悪いくらい慣れなかった。自分はアリスティールじゃない、偽物なのに、優しくされる価値なんてないのに
「こんな私なのに、そんな価値もないのに、ごめんなさい」
ぼーっとする意識の中で、つい口にしてしまい、母に
「馬鹿なこと言わないで、貴女は大事な娘なのよ」
と抱きしめられ、その温かさにより罪悪感に苛まれることになった。
アリスティールの体調は本気で悪かった。4日たつと徐々に自分で起き上がれるようになり、食事もスープくらいはとれるようになった。最初はスプーンすら持てない程力が入らなかった。
さすがに、風邪というには変だし、重い病だったんだろうか?みんな平気で、部屋の出入りはしていたので、感染症ではないようだが・・・。
メイドや医者等に聞いても、黙ってしまうか、「旦那様や奥様にお聞きください」と、自分で答えるのを避けてくる。
やっともう死なないんだね的に悲壮感から解放されつつある両親が揃っている時に、「私何の病気だったんでしょうか?」と父母に聞いた。その質問にお父様は空を仰ぎ、お母様は固まった。聞かれると思ってなかったので、答えを用意していなかったのだろう。
少し考えてお父様がまず説明をし、お母様がそれに合わせて続ける。
「王宮の非公式な茶会で食べたものが悪かったらしい」
「古かったからお腹壊したのかもね。もう大丈夫だからアリスティールは気にしなくていいのよ」
O157くらい強烈な食中毒を想像してしまった。
そういえば、意識を失う前にどこかの綺麗な庭園で、同じくらいや少し下の女の子たちと、敷物の上で綺麗な箱に入れたクッキーや焼き菓子の皿、鮮やかな果物ジュースのグラスを並べて食べていた気がする。お母さんや綺麗なご婦人たちは少し離れた四阿のテーブルを囲んでお茶を飲み、男の子たちは別で集まり、棒切れで騎士ごっこをやっていた。すごくアットホームな集まりだった。
あれが王宮だったとしたら、そんな古い食べ物が出るのだろうか?私は意識不明にまで陥ったほどのもの。あの子たちは大丈夫だったのだろうか?
どちらも聞いてはいけない気がして、無意識に相づちを打っていた。
「そうなんですね・・・」
お茶会の事を頑張って思い出していたため、自分の返答にお母様が怪訝な顔をしたのに私気づくことはなかった。
私の疑問はベッドから出て動けるようになった時に、訪れた見舞い客によって答えを得ることになる。
ギース=アリアスト6歳、一つ年上の男の子だ。両親同士が友人で、治める領地もお隣、都に構える館も隣という、ベタなまでの幼なじみ設定だなと言いたくなるくらいの、アリアスト子爵家の三男である。
領地でも都でも行き来も頻繁だったらしく、転生前の記憶と混乱ぎみでも、ギースと聞くとパッと顔が浮かぶくらいである。見舞いに来てくれる話を聞いて、記憶から出てきたのは金髪くせ毛で暗め緑の目が綺麗なかっこいい王子みたいな男の子、
実際に来たギースは
「良かった~アリス!元気になって!なんか泡吹いて倒れてたから、死んじゃうかと思って心配したんだぜ~!」
「こら!ギース!」
開口一番爆弾落として、子爵に怒られる男の子。顔はまぁいいが金髪くせ毛のそばかすのやんちゃそうなくそガキであった。まぁ、5歳の少女から見た6歳の少年と、25歳+5歳から見る6歳では全く印象が違うのは仕方がないが。
かっこいい王子レベルまで高いギースの印象からすると、アリスティールから見てのギースの好感度はすごく高かったのだろう。
あれ?アリスティールはもしかしてギースの事好きだった?
何分5歳なので、恋愛感情があったとしても無自覚な年齢。ちょっと年上のお兄ちゃんに対するあこがれ、いわゆる初恋という感じだろうか。その微笑ましい想像は私=アリスティールのギースへの対応を、無意識で限定してしまう結果となる。
大人同士の話があると、部屋から出された二人。ギースは笑って言った。
「元気になったんなら、カエル取りに行こうぜ!」
「え?」
・・・・カエル?
25歳の女性としてはカエルとりはあり得ない。だが、アリスティールの初恋相手のデートの誘いに、剣もほろろに断ってもいいんだろうか?
25年彼氏無しの経験は、異性とのお出かけはデートという短絡的な結論にして、「あ、あ、あ、え、え」とあがり症発揮で変な音声を出させる状態に。
まぁ、そこは相手は子供。全然気にせず「庭に行こうぜ」と声をかけたまま走って行った。アリスティールには断る暇も無く、見舞い客を放置もできないだろうと、後を追う羽目になった。
その後カエルを鼻に乗せられたアリスティール、少女の悲鳴が館の庭に響き渡ることになる。そして、アリスティールびっくりしすぎて、悲鳴を聞いて走ってきたお母様に抱きついてしまった。
この事件により、私の中のギースの呼び名は「カエル王子」となる。
初日のギースの訪問は、「病み上がりの女の子に何するんだ!」と、アリアスト子爵の拳骨で終わった。
だが、お隣なもんで次の日からギースは、一人で遊びに来た。貧乏子爵家と貧乏伯爵家は使用人も少なく、壁もセキュリティも低い。ギースは子爵からのお見舞いの品がある時は表から来るが、あとは壁を越えてくるのか、アリスティールの部屋の窓に来る。
「あーそーぼーぜー」
前からやっていたのだろう、馴れたものである。以前前世の記憶がない頃は家庭教師が来ていたり、子供らしく気分で断っていたのだが。
同年代の子供同士ならいざしらず、中身が30歳くらいかつ対人スキル低めになると、子供の誘いやお願いは断りにくい。体調が戻っていず、家庭教師はお休み中なこともあり、理由を考えているうちに遊びが始まっている。気づいたら木登りだの、虫とりだの、木の枝を剣に見立てた戦いごっこ等遊びをさせられていた。1歳の差は大きく、かけっこ戦いごっこその他ギースの全勝、カエル王子は得意満面である。
また、以前ならギースと遊んだ内容は「淑女がするものじゃない」と止められていた気もする。死にかけたせいだろうか、木登りで高いところに行こうとした以外は、止められることもなかった。
特にお母様は、苦笑に似た生暖かい目で見る事が多くなった。元気になったことを喜んでくれているのかもしれない。
ギースと何したかをお話すると、お母様は目を細めて喜んでくれるので、それがうれしくて成果報告が日課になった。ただ、掴めるようになった虫を見せに行った時は「きゃあ!」と後ずさられた。お母様と精神的実年齢は同年代なので、綺麗な女性が虫を見てプルプル怯えてるのはちょっと可愛く見えたのは内緒だ。
ギースやお父様お母様に対しては、幼児アリスティールの五年分の経験値や信頼があるのか、変に意識しなければあがることなく、普通に会話することができた。ただ、中身30歳に普通の5歳の女の子らしくふるまうというのはかなり難しく、変に堅苦しい言動になったり素直に笑うことが出来なくなる。たまにお父様お母様が変な顔をしているのも、気づいていて無理矢理子供らしくを意識するとどもってしまい、うまく行かなかった。
ただ、ギースが木登りに失敗して気絶し泣きながら助けを求めたり、一緒に池に落ちたりして怒られるうちに、以前とは違うが遠慮が減りお互いが自然に慣れていくことができた。
カエル王子さまさまである。
メイドやコック等に関わる部分は、服屋や飲食店の店員さんだと、自己暗示をかけることで、他人行儀ではあるが淑女ぼく接することができるようになっていた。
その他一緒に遊ぶうちに、この世界のことや、王宮の食中毒事件がどうなったかも、子供同士の気安さでギースに聞くことで知ることができた。
アリスティールが倒れた、食中毒は後宮の中庭で起こったらしい。
茶会の主催は第5妃リステル、アリスティールの母やギースの母と同級生だったため、身分は子爵婦人と低かったものの、友人の子供枠で参加したらしい。第1妃エリザベートは来ず、後宮では第3妃ヒルダだけが参加。
ただ、他の妃の王子様たちや姫たちが楽しそうな声につられて集まってしまい、それに付き従う侍女もついてきて、子供が沢山の会になっていた。子供たちは来客の子供もいたし、第7妃までいる関係で1歳~10歳くらいまでの14、5人の子供が集まっていた。
同じところにいたとはいっても、ギースはすぐ上の次兄と共に、王子様を初めとした男の子集団で遊んでいた。姫たちはアリスティールたちとおままごとをしていたが、年長の姫がリアリティーを求めて、茶会のテーブルからクッキーの皿を持ってきたり、部屋から持ってきた自分のお菓子を並べたりを始めた。敷物の上でピクニックのように料理代りの菓子を、色々盛って遊びだしたのだそうだ。もちろん、食べながら。
楽しい会は侍女たちの悲鳴で、一変した。
姫たちが敷物の上で、苦しみ出したのだ。ひたすら吐く子、七転八倒して意識を失う子。泡を吹いて倒れる子。
「あれは毒だと思う。実際その前提で何人も捕まったんだ」
大人たちが食中毒と濁した言い方をしたのに、子供のギースはあっさり真実を口にした。
うちは僕と兄の男の子しかいなかったし、女の子の遊びに一切混ざっていなかったから、嫌疑はすぐ晴れた。アリスのところは娘が死にかけてるので、そちらも早く晴れた。身体検査で何も出なかったし、お菓子とかも持って行ってないしね。さすがに王宮だけに、毒殺警戒で持ち込みは厳しいのだという。飲み物や吐瀉物もあるし、混乱でぐちゃぐちゃに踏み荒らされた現場で、何が毒だったのかは結局わからなかった。誰が犯人かももちろんわからない。
「だけど、何もわかりませんで、すむ状態じゃなかったんだ」
第2妃スルーズの下の姫がその時亡くなって、ずっとそれから寝付いてた第4妃の姫が3ヶ月後に亡くなったのだという。第4妃はその後を追い自害したのだ。
死者が出るほどの状況で、状況不明のまま誰にも責任を取らせないと言うのは示しがつかなかった。王宮は食中毒のためとし、取り調べで拘束していた料理人を処刑、主催だった第5妃リステルは責任をとり修道院に入ることになった、事実上の後宮追放の上の幽閉である。第5妃リステルの1歳の王子は第3妃ヒルダが引き取ることで決着がついた。
「って、話を母上と父上がしてたんだよね、こっそり聞いたし、内緒らしいから誰にも言っちゃダメだよ」
子供のギースから、ここまでの話が聞けると思ってなかったアリスティールはびっくりした。
そういえば、関係あるかわからないけど、ちょうど、3ヶ月頃のその時期に両親が深刻な顔で話しているのをよく見かけた。その後急に忙しくなったらしく、父バイエルトは領地と都を頻繁に行ったり来たりするようになった。
聞いて何ができるわけではないが、ギースから聞いた食中毒の詳細は、子供の自分がそんな事件に巻き込まれたことに、ここは日本とは違うのだと改めて痛感したのだった。