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1-2 あがり症女子の転生

見ていただきありがとうございます。


4/12 1-1、1-2として部分を分割しました。なろうに不慣れで申し訳ありません。

また、スマホ執筆のため、スマホで見やすくに改行しているものを、パソコンでも見やすいレベルも同時に目指して、順次見直し修正をかけたりしています。よろしくお願いいたします。


自分の部屋?


と考えて、おかしいと考える。日本の私の部屋の天井はこんなに高くないし、こんなに綺麗な花を模したデザインでもない。だが、その天井はよく知っている、自分の部屋だともう一人の自分が感じていた。


「アリスティール様が目を開けられました!!」


布団だかベッドの近くで、誰か女性が叫んでいた。その声には安堵と喜びの響きがこもる。誰かが自分を覗きこむ。泣きそうな男女の顔だ。


「お父様、お母様」


と反射的に呟きながら、うちのお父さんお母さんはこんな西洋風美形じゃないと心の中で突っ込みが入る。日本人のお父さんは薄毛だし、お母さんはもっと太っていて、そして二人とも黒髪だ。


「神様ありがとう!」


と、両手を合わせる男性の髪は栗色だった。


「アリスティール気がついて良かった、もう目が覚めないかと」


と涙を浮かべるくすんだ金髪女性の顔は、選んだ栗色の娘の面影があった。自分の顔を見てみたい、本当に私はあの栗色の娘なのか。そう思いつつまた深い眠りの沼に意識は落ちて行った。





再び目覚めたのは、それから2日後のことだった。


自分は「アリスティール=ノクターヌ」5歳。


栗色の髪を持つ少女が、持ってきてもらった手鏡の中に写っていた。子供らしいというのか、くっきりしているが前後が整理されていない四年の記憶はしっかり残っていた。印象が強いのは美味しいお菓子に、優しいノクターヌ伯爵のお父さん、今も綺麗な元侯爵令嬢のお母さん、お気に入りの人形。拾い読みを始めた絵本。文字は今まで知っていた日本語とも英語とも違うが、5年のなんとなくの知識で読める。


「本当に誰も知らないところに来ちゃった・・・」


ここは日本ではない、そして知っている場所でもない。悪魔の契約なんて信じるもんじゃなかった。誰も知らないところに行きたいって言ったからって、普通日本のどこかで再出発とかでしょうが。言葉も知らない外国に放り出されるよりはましなのかもだけど。不意討ちで、異世界転生ってことは、飛行機に乗ろうが何しようが、日本にも帰れないし家族にも会えないのだ。


自分水越綾は三人兄妹の三番目だった。両親には三人目だけに関心が薄く適当な扱いだったし、兄姉には力で押さえられてた記憶ばかり浮かぶ。そんな家族でも二度と会えないと思うと、会いたくなるのは何故だろう。


まぁ、飛行機はないか・・・この世界は・・・。


五歳のアリスティールの知識からすると、ここはファンタジックな剣と魔法の世界にあたる。細かくは分からないが、子供の自分ですら、魔法がこめられた水晶球を光らせ、夜の明かりにして生活に活用している。


また、この辺りの一番メジャーな宗教であるライトレイア神の加護がある場所では見ないが、境界線である辺境を越えた魔境では飛行機はないが、ドラゴンは飛んでいると、子供向けの絵本に書いてあった。ちなみに魔境のドラゴンや生物は人を食べるので、人の少ない怖いところには行かないようにしましょう、怪しい角生えた人について行ってはいけません、というライトレイア教ご推奨の教育的な絵本には書いてあった。


ちなみに、この国リンドアリア国は、10数ヶ国あるライトレイア教圏としては比較的人種的差異に寛容な国である。屋敷では見ないが頭に小さめの角や動物の耳が頭に生えている人も、市井ではよくいるらしい。だから、この本の通りのことを町で言うと、かえってトラブルを呼ぶと家庭教師の先生が言っていた。ただ、五歳児相手なので、細かい理由とかトラブルとかの内容は「大きくなってからね」と割愛されてよくわかっていない。


自分が25歳まで生きた日本での記憶と、5歳まで生きたリンドアリアでの記憶は並立している。ただ、人格的には五倍の時間を過ごした水越綾としての記憶が、アリスティールとしての思考と行動を圧倒しているようだ。


何故ここにいるか。すごくつまらない理由だ。


上がり症で孤立ぎみながらも、生きるために仕事をしていた。


その場で優しくしてくれた異性を好きになった。だが自分に自信がなく、上がり症な性質は思いっきり発揮されてしまった。


好きになればなるほどあがってしまって、仕事の連絡ですらしゃべればどもるし、何もない時に近くにくれば固まってしまって、何話していいかわからなくて無視したような形になる。


「お疲れ様です。」

「お、お、お疲れ・・・・です。」


最後は消え入りそうな声で挨拶を返し、カチンコチンに固まってすれ違った後、好きな人が独り言を言ったのを聞いてしまった。


「変な奴、こっちが何したって言うんだよ」


吐き捨てるような言葉。職場のこととはいえ、聞こえてもいいと思われたのだろう。もし、何か咎められても、独り言を言っただけですと言い訳が可能な音量。


自分が悪い、それはわかってる。


でも、あがり症は簡単には自分でも制御できないのだ、対人恐怖症に近い緊張で固まったりどもったりするのは。相手からしたら、こちらが相手を嫌っているようにも見えることも理解はしている。自分で理解していても、好きな人に嫌われるのはつらかった。


もう、会社なんて行きたくない。死にたくて消えたくて、帰りにお酒を買って、自分が消える方法を考えた。会社から、この町から、この世から、エスカレートついでに段々自棄になってきた。自分が死ぬのもめんどくさいから、それは好きだった相手がこの世から消えたら解決じゃない?という結論になったのはアルコールのせいもあると思う。


とはいえ、直接手を下して、酔いが覚めたら警察の檻の中ってのも馬鹿馬鹿しいよね。


昔中学生の時に古本屋で見つけた本、紺の布貼りの表紙に金色で、不思議な魔方陣めいたものが、装釘されていて中二病的インテリアに昔使っていたものを取り出した。中にも様々な魔方陣めいたものが書いてあったが、英語ではなかったため内容は分からなかった。幾何学的な図形も多かったので、数学の本かもと思ったこともある。


床の物をどけ、賃貸住宅のビニールクロスの床に、マジックで魔方陣を描く。雰囲気を出すために、ラベンダーやセージと言ったアロマ用のお香を大量に焚いた。焚きすぎて煙が凄かったので、火事と間違えられないように火災報知器を切り、窓や扉の隙間にはガムテープで目張りをした。そして、本の内容を唱えた。


すりガラスのような、お香の煙で白濁する夜中の室内、怪しげな円に記号を組み合わせた上にモーニングを着た、うやうやしくお辞儀をする。髪は濡れ羽色の黒、つややかで美しい赤い唇、暗さや煙で見えにくいはずなのに彼は妙に全身はっきり見えた。


すんごい適当にやったのに、悪魔の召還に成功したのだ。そして、自分を嫌った相手に消えてもらうつもりが、結局土壇場で


「誰も知らないところで、人生やり直したい」


と、黒髪の男に訴えることとなった。そこまで、思い出して気づいてしまった。ここで人生やり直してるとしたら、元の世界の自分は死んでるってことに。


そして、その死因にも。


目張りした中で、物燃やして、謎の呪文もどきを延々言ってたなら、


「一酸化炭素中毒・・・だよね・・・多分・・・」


あの時見た悪魔は、酸素不足の脳が見せた幻覚なのか、転生なんかじゃなく、今もまだ幻覚の続きを見てるのかもしれないが。なんか、すごい馬鹿馬鹿しい理由で、ここに来てしまったような脱力感は否めなかった。

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