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05 聖女と王子様(3)~魔術具作成

評価、ブクマ、ありがとうございます!おかげさまで一万PVです。

お読みくださる皆様のおかげで頑張れています、本当に!

 お忙しいのか、昼食にはお母様しか現れなかった。二人で楽しく食事を終え、午後になる。

 明日のお兄様の出立に合わせるには、今日中に時間をもらう必要がある。ゼノヴィオスはちゃんと来てくれるかと少し不安になったけれど、珍しくそう遅れずにやってきた。

 ほっとしながらゼノヴィオスを出迎える。


「本来ならご自分のお時間のところ、申し訳ございません。ありがとうございます」

「いえいえ。お嬢様から学習時間外に教えてほしい、というのは初めてでしたからね。……何を知りたいんです?」


 若様がいる場所じゃあ聞きにくかったんでしょう?と促してくれる。


「お心遣いありがとうございます。実はあの、お兄様に手作りの魔術具を贈りたいんですの」

「……魔術具を?」


 実はまだ、魔術具を作ったことはない。魔術式は教えてもらっているが、魔術具を作成するのに必要な特別な素材、というものは教えてもらっていないのだ。ゼノヴィオスからOKが出た魔術式をゼノヴィオスが描き込み、私の代わりに具現化してくれている。

 顎に手をあて、考える様子を見せる。


「若様に……ということは、明日の朝までに完成させたいのですよね?」

「ええ、できれば……」

「わざわざ手作りの、とつけるということは、私が用意したものではなく……ご自分で用意されたいということでしょうか」

「先生が、まだ無理だと判断されているのなら……諦めますわ。でも、上院首席卒業の実力をわたくしが持っているのでしたら、自分で用意できるのではないか、と思っていますの」


 ゼノヴィオスが難しい顔をして、唸っている。そんなに難しいのだろうか……それともやはり、私では実力不足なのだろうか。

 そんな私の心中を察したのか、私の気持ちを確認するかのようにちらりと見てから目を伏せ、まあお嬢様なら大丈夫でしょう、と軽く頷いた。


「魔術具を作るには、一般的には二種類の方法があります。

 一つは時間がかかりますが殆どの人がやっている方法で、魔石を使います。魔石を自分の支配下に置き、それを魔術陣を描く素材の一部とするのです。

 魔石を砕いて液体に混ぜ、それで刺繍糸を染色したり、筆記具に用いたりする方法がよく取られていますね。

 一点物を作られるのであれば、技術は必要になりますが、そのままの魔石に魔術陣を刻み込んでもよいでしょう」


 魔石を砕かずそのまま使った方が効果も高いです、とのことだ。

 封都の魔術具店で見た魔術具は、この系統のものだろう。魔石に刻み込むのは流石に今の私にできるとは思えないけれど、魔石さえ用意できれば、支配下に置くのはできそうな気がする。

 聞くだけだと、そう難しいように思えない。魔術陣さえ組めれば、私でも作れるのではないだろうか。

 こてん、と首を傾げてゼノヴィオスを見上げる。


「この場合の問題点は、魔石を自分の支配下に置くのに時間がかかることがあるのです。かなりの個人差、魔石差があります。

 透明魔石は比較的馴染みやすいとは言われていますが……、人間の魔質と違って、魔石には属性があります。刻み込む魔術陣に合った魔石を使うことが、魔術陣の効率性をより高めてくれます。馴染みやすいかもしれないからと透明魔石を選んでしまうのは、おすすめできません」


 ちなみに透明魔石は無属性です、と続いた。

 なるほど……お兄様にどんな魔術具を作るかきちんと決めないと、魔石も用意できないわね。そして用意した魔石が私に馴染むかどうかは運次第、と……。


「魔石は……すぐに用意できるものなのでしょうか?」

「ものによりますね。高品質な魔石は難しいでしょうが、品質にこだわらなければ、お金を出せば買うことは難しくありません」

「低品質でも、値段はそれなりにするのですね……。一般的な方法の、もう一つを教えていただけますか?」


 お金を出せない、出したくないというわけではない。けれどお兄様の出立に間に合わない可能性があるのならば、もう一つの方法を聞いてから魔石の購入を検討したい。魔術陣にもよるだろうけれど、魔石の購入はその後でも遅くはないだろう。


「一般的に知られている方法ではありますが……使うものはほとんどいません。素材となるものの中に、血液や唾液、あるいは髪の毛などを混ぜ込むのです」


 げっ、と顔を思わず顰めてしまった。ゼノヴィオスも気持ちよくは思っていないようで、微妙な顔のまま解説を続ける。


「これは簡単ではありますが、人気はありませんね。また持続時間も短いです。使用されるのは、緊急時ぐらいでしょうか」


 私もいやだ、と思わず頷いてしまった。その上、効果時間も短いのであれば、これを選ぶ理由などない。


「まあ先に挙げた二つのように……魔術陣を刻むには、魔術陣を刻む人の魔質と魔術陣に込められている魔質が、一致している必要があるのです」


 確かに期限と用途を考えると、現状ではどちらも難しい気はする。

 しかし、そこでふと疑問に思った。なぜ、ゼノヴィオスは今まで黙っていたのだろうか。

 二つ目の方法はともかく、一つ目の方法は、そこまで秘密にしなくてはならないような内容だとは思えない。


「……現状では難しそうだというのは理解しましたわ。でも先生は……どうして今まで魔術具の作り方を教えてくださらなかったのでしょう?」


 そう思うよね、とでも言うように頷かれる。


「……魔術具は、魔術式を正しく構築できてさえいれば、ほとんどの人が使用可能になります。だからこそ、魔術具を作成するには魔術の充分な知識と、良識と、身を守る力が必要なのです」

「?」


 皆が使える魔術具を作れるのは、良いことだと思う。だって世の中は便利になるだろうし、魔法が苦手な人の不便も減るだろう。そう思って、農業用魔術の研究施設も作ったはずだ。


「間違った魔術式を構築してしまったとして、それが意図しない作用を齎したら困ることもあるでしょう。魔術式自体が発動不可能なものであればいいですが、例えばデイジーの作った布袋……温度設定が抜け、熱くなるように、としか指定していなければ、火傷してしまうでしょう?もしかしたら発火してしまうこともあるかもしれません」


 なるほど、と頷く。確かに魔術陣を構築できるだけの知識と、それを漏れなく構築できるだけの論理的思考力がなければ、相当に危険な魔術具になってしまう可能性がある。


「また意図的に悪意ある魔術式を組んで魔術具を作られるのも、非常に危険なのです。大量破壊兵器を作り出せてしまったり、誰でも使える殺傷能力の高い武器を大量生産できてしまうかもしれません。安易に魔術具やその作り方を広めては、普通の民がそのようなことをできるようになる可能性があります」


 そこまでは考えていなかった。私はそんなことをするつもりは到底ないけれど、魔術具の作り方を誰かに教えるのは、思っていたよりも危険が付きまとうのかもしれない。


「そして高度な魔術式を組める人間は、悪意ある人間に狙われます。自分が作りたくないと思っていても、脅されて、やむを得ず作らなくてはならなくなるかもしれません。知識を奪われることもあるでしょう。それを避けるためにも、ある程度自衛ができる力を持っている必要があります」


 ゼノヴィオスにまさか大量破壊兵器を作ると疑われているとは思っていない。今までの授業の進め方からして、おそらく引っ掛かっていたのは。


「わたくしに不足しているのは……知識と自衛手段でしょうか?」

「……そうです。そう考えて、今までお伝えしていませんでした。

 一番心配していたのは自衛でしたが、午前中に若様と久しぶりに訓練して……お嬢様の実力は既にその域には至っていると、考えを改めました。

 魔法については、お嬢様に私が言えることはほとんどありません。

 ただし、魔術陣は魔法以上に、とても繊細なものです。魔術陣もほぼ問題なく構築できるようにはなっていらっしゃいますが、しばらくは、私がいないところでは使ってはなりません」


 必ず私の許可を得て、私の目がある状態で作ってください、と言われたけれど、十分だ。

 これで魔術具が作れるようになる、と思ってぱああああ、と顔が明るくなり、そして、一つのことに気が付いてしょんぼりしてしまう。


「ありがとうございます。先生に認めていただけて嬉しいですわ。……でも、お兄様の魔術具づくりには間に合いませんわね」


 そう落ち込んで言うと、にやり、と含みのある笑いを返された。


「お嬢様……私は先ほど、なんと言いましたか?」

「?魔術具づくりには、魔石が必要と……」

「おや、私はそんな言い方をしましたか?」


 片眉をあげ、からかうような笑顔を浮かべられる。ムッとしながらも、先生の言葉を思い出す。でも一言一句など覚えていない。大体だ。


「……いえ、正確には一般的な方法の一つとして、魔石が必要と。……ですが、効果時間の短い魔術具は、私の欲するものではございませんわ」


 わかっている、とでも言うように頷かれ、それからそこじゃないんだよな、とでも言いたげに私を見た。


「……そうです、先ほどお教えしたのは……一般的な方法です。

 よく思い出してください、私はこうも言いました。『魔術陣を刻むには、魔術陣を刻む人の魔質と魔術陣に込められている魔質が、一致している必要がある』と」

「……確かに、そう仰られましたわ。その為に、魔石や血液などの媒体が必要なのでしょう?」

「……魔法に属性は?」

「?ありませんわ」


 それが今なんの関係が、と思ったが、はあー、と大きくため息を吐かれた。口には出していないけれど、そこまで繋がっていてなんでわからないかな?と表情に書いてある。


「お嬢様、私がお教えしたのは、あくまで一般的な方法です。一般的ではない方法……本来なら上院でも教わることのない方法が、一つ、あるのです」


 上院でも教わることのない方法。ごくり、と唾をのみ込む。

 一番悩んだのはこれを教えるかどうかだったのですが、という言葉に続けて、ゼノヴィウスが何もない手のひらを私に見せた。


「魔法に属性がないということは……エイドスの調整次第で、割と複雑なエネルゲイヤも生成できるんです」


 そう言って、ゼノヴィオスは手のひらを握りこんだ。そして開かれた掌の上には、透明度の高い硝子玉が乗っていた。


「!つまり……、エネルゲイヤで魔術具を作るということ?」


 ゼノヴィオスがこくり、と静かに頷く。

 どうやら私が考えていた以上に、魔法は自由度が高かったらしい。そういえば、ぬいぐるみを直せていたではないか。あの時は無意識だったけれど、それはつまり……エイドスの調整さえうまくいけば、布製品や木工製品の生成も可能だということではないだろうか。


「ただし、まだお嬢様が習得されていない技術が一つ必要になります」


 そう言われて、心当たりが一つだけある。あとは練習すればできるようになるから、と放置されている技術だ。


「わたくしが習得できていない技術……。先生が最初に見せてくださった、自在に動く魔法……プリマ・マテリアを支配下に置いたまま、エイドスの調整をし続ける技術ですね」

「その通りです。……ですがお話しに聞く限り、お嬢様は治癒魔法で似たようなことをなさっているのではないでしょうか」


 ハッとして、ゼノヴィオスを見ながら何度か瞬きをする。


 ああ、また無意識だった。というか……つながっていなかった!


「その通りでございます」

「では恐らく……治癒魔法以外でもできるでしょう。エネルゲイヤとして完成させる前、デュミナスの状態を維持して……形を整え、魔術陣を刻み込むのです。材料は何もいりません」


 そしてゼノヴィウスは、必要なのは魔術具を作りきれるだけの魔力総量だけです、とにっこり笑って言った。

短編「優秀な婚約者の秘密」を投稿しました!

異世界の王女殿下から見た、婚約者(転生者)についてのお話しです。

糖分高め(※当社比)に仕上がっております…自分で書いてる短編なのに、少し恥ずかしかったです…///笑

もしよろしければお願いします。

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