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03 聖女の魔法(10)~ゼノヴィオスの興味

2000PV達成してました!評価も嬉しいです!読んでいただき、ありがとうございます◎

 さてお金を置いて孤児を引き取って帰ろうかという段になって、ゼノヴィオスがぼそりと呟いた。


「……身体強化、か……?初めて見る技術だな……」

「……?」


 聞きなれない言葉がして、ゼノヴィオスを見上げる。思案気に黙っていたが、ちらりと私を確認するとクレースへと視線を向けた。


「魔法は使えないんでしたよね?」

「……ああ」

「では体内を魔質が高速で循環しているのは、無意識で?」

「!?」


 ゼノヴィオスは、鋭くなった視線でクレースを射抜く。


 魔質の……高速循環……?


「!?なぜそれを……!?」

「ああ、意識されてのことでしたか。安心いたしました」


 驚き目を諫めるクレースとは対照的に、ゼノヴィオスは一転して落ち着いた様子でにこやかに返答する。


「ゼノヴィオス、わたくしにも分かるように話してくださいませ」

「いえ、あの男……クレース、でしたか……、通常は身体に満ちているだけの魔質が、体内で循環しているのですよ。……まるで血液のように」

「……それって……」


 私が前に怒られたアレじゃない……!?なんで破裂してないの!??


 ゼノヴィオスと視線を合わせると、私の予想を肯定するかのように頷かれた。

 驚くままにクレースを見る。特に出血している様子もなければ、痛みを感じている様子もない。なんなら肌がボコボコ破裂しそうに膨らんでもいない。


「不思議ですね……。過去の検証が不十分だったのか……もしくは魔穴が開いていないことが重要だったのでしょうか?」

「だが、魔法が使えるわけではない。あんたたちに何か関係があるか?」

「魔法……とは違うんでしょうが、魔質を循環させることで、何か影響があるのでは?……具体的には身体能力の強化、とか」


 先ほどの威圧や、最初に急に現れたのもその恩恵でしょうか、などとぶつぶつ言っている。

 孤児の話をつけたときに一瞬垣間見えた崩れた雰囲気は立ち消え、クレースは改めて警戒するように口を閉じた。


「……」

「あ、そんな警戒されなくてもよろしいですよ。単なる興味ですので」


 ……それで警戒を解いてくれる人がいるの?


 訝しみながらクレースを見るが、案の定警戒を解いた様子はない。果たしてこれで、孤児を連れて帰るのを許してもらえるのだろうか。


「……ゼノヴィオス、その話、長くなります?個人的な興味でしたら後日にしていただければと思うのですが」

「おや、お嬢様はご興味がないですか?」


 ゼノヴィオスのことだ、わかっていて言っているに違いない。

 身体強化なんて能力欲しいに決まっている。自分で使ってもいいし、護衛の強化をしたっていい。

 自衛手段に欠ける五歳児の私には、喉から手が出るほど欲しい能力だ。


 ……ああ、でもそれなら……これを対価にできる、か……?


「そうですわね……興味がない、と言ったら嘘になりますわ。とても素晴らしい技能だと思います」

「!」


 会話の終着点を探るようにこちらを見ているクレースに向き直ると、きっぱりと言い放った。警戒を強めるクレースに対し、更に言葉を続ける。


「ただクレースにとって、とても大事な技能でもあるのでしょう。それを無暗矢鱈と奪うのは本意ではありませんわ」

「……どうする気だ。これは俺たちの命綱だ」


 俺たち……ということは、クレース特有の技能ではなく、他の者も使えると考えて差し支えないだろう。


 ……三十年前に差し伸べられなかった手を、今、差し伸べては遅いだろうか。


「……わたくしに、雇われませんこと?住む場所は提供いたしますし、当面は食料も援助を約束しましょう。必要であればお仕着せも用意できるかと」


 意識して笑みを深め、首を傾げる。


「……は?」

「給与面については要相談ですね……何せ一気に複数人を雇用するとなると、お父様にもご相談させていただかないと。あ、クレースのご家族や一緒に住まわれているお仲間、皆様をお引き受けいたしますわよ。もちろん身体強化を使えない方がいらっしゃってもかまいません。その方への給与はまた考えさせていただくことになりますが。

 ところで全部で何人ぐらいいらっしゃいます?お父様に先触れを出させてくださいませ」

「……」

「?皆様、どうかなさいまして?」


 沈黙が痛い。が、その沈黙を破るようにクレースが発言した。心なしか雰囲気が和らいだように思う。うまく乗せられたのなら重畳だ。


「……仕事内容は?それが一番重要だろう」

「それも要相談、とさせていただきたいですが……意に沿わない仕事を押し付けるようなことは致しません。当面はゼノヴィオスの興味に付き合っていただければ十分でございます。それだけで少なくとも一人当たり月10シリーは保証いたしましょう」


 どうでしょう?とにこやかに営業する。どうせ思い付きなのだ。勢いで押し切るしかない。

 後ろでゼノヴィオスが満足気に頷いている気がするが、まったくもってゼノヴィオスの為ではないので勘違いしないでほしい。


「はっ……それは高給取りになれそうだ。他の奴らと相談してくる」


 孤児の奴らも連れてくる、と言って奥へと入っていった。開いた扉から孤児がちらりと見えたが、護衛達にびびったのかこちらに出てくることはなかった。

 まあ特に酷い扱いをされていないようで良かったとでも思っておこう。


「お嬢様、よろしいのですか……?」

「元々孤児を引き取るつもりはあったのだし、大丈夫よ。むしろ芽吹き式を受けていない大人がいなかった理由がわかって、すっきりしたわ。孤児たちも、子どもだけで行くより安心なんじゃないかしら?」


 そうでしょうか、とリリーは不安そうだが、私は本当になんとかなると思っている。意に沿わない仕事は押し付けないと言ったが、性格を見て合うようであれば、護衛に引き立てられないかと考えてもいる。

 ただ芽吹き式を受けたいと言われたりしたら困るのだけれど。


 魔穴の数って実りの儀で固定しないと、年齢とともにどんどん減っていくんだったよね?芽吹き式も受けていない場合はどうなるんだろう……?


 ふと疑問が浮かんだが、今は置いておく。

 人数がわかったらお父様に先触れを出してもらうためにも、今のうちに一度護衛たちに話を通しておこう。広く開いた間口から話は漏れ聞こえていたのだろう、内心はともかくとして、一度お父様に話を通すならば、ということで納得した。というわけで、孤児たちとの帰宅の先触れを出す前に、小隊長の駿足な部下がひとっ走りしてくれるそうだ。


 時間にして十五分ほどだろうか。思ったより短い時間でクレースが戻ってきた。


「待たせた。孤児を除いて、三十二人だ」

「それで全員ですの?」

「……いや。ただ、あまり表に出たがらない奴らもいる。そういう奴らはこのまま下で生きていくそうだ」


 ……それ、嫌な予感しかしないんですけれど。

 犯罪を犯したことがあるから後ろめたいってこと?これからも犯罪を犯しちゃうかもってこと?


「あまり悪いことをされると……困ってしまうのですけれど」

「俺がここに残ろう」

「……クレースにはぜひ来ていただきたかったんですが」


 ……過去の犯罪は追及しないように明言する?元からそのつもりではあったけれど……。

 いえ、それでは不十分だわ。それぐらいは察しているはず。

 悪いことに愉悦を覚えちゃうタイプなのかしら……スリルがないと生きていけない、みたいな……。

 それとも生活が変わる事への恐怖?私への不信感?

 ……いくら考えてもだめね、わかるわけがないわ。

 資金援助だけでもする?……いや、そんな危ない橋は渡れない。相手が何をするかわからないのに、お金だけ流すようなことはできない。


「……悪いな。そっちについていく代表者を紹介しよう。アンティ」


 クレースの一言で、一先ず下町に残る人について考えるのは先延ばしになった。

 奥から出てきたのは、クレースよりも少し若く見える男だった。栗毛色の少し癖のある髪を項で一つに縛っており、目鼻立ちもくっきりしている。髪色と同じ色の瞳はクレースと同じく影が差しているが、クレースほどの厳しさは見えない。裏で生きる人間にしては、優し気な顔立ちと言ってもいいかもしれない。


「……アンティだ。よろしく頼む」

「領主の娘、アリアナと申します。こちらこそ、よろしくお願いしますね。孤児を除いて三十二人ということですけれど、内訳をお伺いしてもよろしいかしら」


 先ほどまでクレースが座っていた位置にアンティが座り、クレースがその後ろに立つ。


「……男が九人、女が十二人、子どもが十一人だ」

「子どもの年齢をお伺いしても?」

「……十三歳ぐらいが一人、十歳ぐらいが一人、七歳ぐらいが三人、五歳ぐらいが二人、三歳ぐらいが二人、一歳ぐらいが二人だ」


 少し追加で準備が必要そうだ。下に行くほど人数が多いのは、やはり生存率が関係しているのだろうか。


「夫婦や家族が何組かいると考えてもよろしいかしら」

「……そのような枠組みは、今のところない。子どもはみんなで育ててきた」

「……小さい子どももいるようですけれど、母親は一緒に?」

「……ああ」

「部屋割りや用意するものなど、いろいろ相談しなくてはいけませんね。いつ頃移動できますの?」

「……すぐにでも」


 いろいろと突っ込みたいことはあるが、あまり深くは追及しない方が良いだろう。質問されて気持ちの良いことばかりではないのだろうから。

 毎回ワンテンポ遅れて返事をするアンティを見つめ、しばし思案する。ここの生活環境がそこまでいいとは思えない。小さい子どもがいるのだし、早いに越したことはないだろうと結論付ける。


「それでしたら、伝令が戻り次第、出発しましょうか」


 にこやかに宣言してみたが、リリーに止められた。要は、ただでさえ昼間から領兵がこれだけ下町に集まって注目を集めているのに、三十何人も連れ帰ったら何を噂されるかわかったものじゃない、ということだ。


「……後ろ暗いことがないわけじゃない。別に、犯罪者と思われても問題ない」

「あなた方に問題がなくとも、孤児も含めて十四人もの子どもを領主の娘が連れ去って見なさい。何事かと思われてしまいます」


 アンティのとんでもない発言に、リリーから反対の言葉が出る。

 確かに、下町から子どもを十四人も連れ去ったら外聞が悪い。……聖女伝説利用するか。


「リリー、一芝居打つのはどうでしょう」

「……一芝居?」

「ええ。外で一声かければいいのです。あなた方の苦労はわかりました、わたくしでお力になれますでしょうか、と」

「それは面白いですね!私がお嬢様をより神々しく、光り輝かせて見せましょう」


 いまだ渋るリリーに対し、ゼノヴィオスが悪ノリをする。


「それなら神様のお名前もお借りした方がよろしいでしょうか。水の神アニクセルキズモスのお導きで参りました、と」

「全くの嘘ではないのですからよろしいかと存じます。水の神なら青い光ですね」


 お任せください、とゼノヴィオスはにこにこと頷いている。


「ちょっと待ってくださいませ、それで本当に……」


 なんとかなる、のかしら……?リリーは徐々に自信がなくなってしまったかのように考え込む。

 とりあえず旦那様の許可がないことには、と唸るリリーに対し、旦那様の許可があればリリーも賛成ということですね、とゼノヴィオスが滅茶苦茶な理論を押し付ける。

 そこにちょうど良いのか悪いのか、伝令に走らせた駿足の男が戻ってきた。息を切らしながら、呼吸を落ち着ける間もなく口を開く。


「……っ、旦那様が、っいらっしゃいます……」


 ……はあ!?

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