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Crap Ur Handz  作者: 石丸優一
22/34

Street Dreams

『きれいごと…内実のない事柄』

「ありがとうございます」

 

「…」

 

「では、こちらへどうぞ…」

 

女性従業員が、変わり者の客をどこかへと案内する。

客は終始無言のままそれに従った。

 

 

ロビーから、通常なら従業員側にしか入れないスタッフルームへと入る。

 

「『お疲れ様です。おや?どうしたんです?』」

 

「『ここはお客さんの立ち入りは出来ませんよ?』」

 

普段通り、彼女は数人の仕事仲間達から話しかけられるが、後ろをついてくる見知らぬ人物に好奇とも迷惑ともとれる視線を送った。

 

「『すいません。ちょっと…通すだけなので見逃して下さい』」

 

客を誘導している女性は申し訳なさそうに目をふせた。

 

「『はぁ』」

 

「『分かりました』」

 

とはいえ、彼等は彼女を咎めるわけでも止めるわけでもない。

 

頭を下げて会釈を連続で繰り返しながら、彼女はそこを通過する。

 

 

「どうぞ。こちらから外へ出る事が出来ます」

 

「ありがとう」

 

やっと口を開いた客『アイス・キャンディ』は一万円札を一枚だけ女性に投げ、裏口のドアノブを握った。


 

キィ、と扉が開く音がわずかに出る。

 

扉は鉄製で、淡いクリーム色。

外に出ると、道ではなく殺風景な駐車場だった。

 

なるほど、リゾートホテルとは違い、裏手は従業員の為だけの物。

わざわざこだわった庭をこしらえる必要もない。

 

「ん…!」

 

アイス・キャンディは、何やらぴりぴりとした空気を感じた。

考える前に、何台も駐車されている車の内、ドアから最も近い車の陰へと素早く腰をかがめて隠れる。

 

「『今、何か動かなかったか?』」

 

「『何が?』」

 

「『分からないけど、そんな気がした』」

 

誰かの会話。

 

「あのコソドロの仲間か…引き返して来やがったな」

 

灰狼だ。

 

キャンディから姿は確認出来ないが間違いない。

 

「『お前、ちょっと見て来いよ。あのドアなんか怪しいぜ』」

 

「『あれはスタッフの出入り口だろ!誰か出てきたら怒られるぞ』」

 

「『間違えましたで済ませれるさ!』」

 

どうやら付近にいるのは二人。

キャンディは瞬時にそう判断した。


「『何で自分じゃなくて俺なんだよー』」

 

「『いいじゃねーか!行けよ!』」

 

「『じゃあ一緒に行こうぜ!行かないなら、メシでも奢れよ!』」

 

まるで子供だ。

 

キャンディの耳には理由が分からずとも口論している様子だけは伝わってくる。

 

「『はぁ!?奢りなんか勘弁だ。行こう』」

 

「『かー!やっぱりそうなるのかよ!』」

 

近づく足音。

 

一瞬、ぎくりとしたキャンディだが、このくらいの境地など手慣れたものだ。

 

お約束通りに車体の下へと身体を滑り込ませて身を隠す。

 

「『そら、誰もいねぇし』」

 

「『おかしいなぁ…』」

 

二人はドアの近くにいる。

キャンディの目に映る4つのスニーカーがそれを示している。

 

「『そういえばよ。フミヤ君って人を殺した事があるらしいぜ』」

 

「『えっ!?マジで!誰を!?…ってか、捕まってないわけ?』」

 

「『女らしい。俺も詳しくは知らないけどな』」

 

二人が会話をしている間に、キャンディはほふく前進のような動きでその場から離れていく。


「『女ぁ?そりゃ変だな』」

 

「『俺もそう思う。しかし、男だろうが女だろうがあの人とモメるなんてバカな奴だぜ。命がいくつあっても足りないさ』」

 

「『まさに文字通りだな。ソイツは死んじまってるわけだからよ』」

 

何気ない世間話が神妙な方向へと進む。

 

フミヤの殺人は、灰狼のメンバー内では有名な話だ。

 

この男が言うように真相は定かでは無いが、フミヤには案外逮捕歴が無い為半ば伝説化している。

 

「『おっと、今日はフミヤ君も出てきてるからな。こんなところ聞かれたら…』」

 

「『くわばらくわばら』」

 

 

徐々にキャンディは二人から離れ、その場を後にした。

 

だが、さすがにぐるりとホテルを囲んでいるだけあって、すぐに別の灰狼メンバーに遭遇してしまった。

 

「…!」

 

「『ん?コイツは?』」

 

「チッ!」

 

「『い…いたぞぉ!!みんな、こっちだ!』」

 

でっぷりと太った男が声を張り上げる。

そして、どすどすと重たい足音を響かせながら、追いかけてきた。


「…」

 

キャンディは決して鈍足ではない。

小柄なわりに程よく身体についた筋肉は、太った男の追跡などいとも簡単に振り切れる。

 

しかし。

 

「『コイツか!おい!誰かタケシさんを呼んでこい!』」

 

「『本当だ!いたぞ!』」

 

新たな数人の男達がキャンディの身に襲いかかる。

 

「…クッ!やはり数だけは多いな!」

 

キャンディは叫んだ。

彼等に追われるのはこれで二度目だ。

 

「『待てこら!外人!』」

 

「『今度こそとっ捕まえやるぜ!』」

 

「あまり目立ちたくないが…仕方ない!」

 

ベルトに挟んでいた銃を抜き、後ろから迫る若者へと銃身を向けた。

 

一瞬、彼等の動きが鈍る。

 

「『おい!なんかヤバそうだ!』」

 

「『銃!?』」

 

…パァン!

 

怒号や喧騒の中でも一際目立つ乾いた発砲音。

 

一瞬の牽制はできても、多くの敵を呼び寄せてしまう可能性が非常に高い。

 

それを承知でキャンディはモデルガンの引き金をひいたわけだ。


「『えぇ!?なんだ、コイツ!』」

 

「『マジで撃ってきた!マフィアか!?』」

 

「『誰にも当たってないのか!?』」

 

彼等はその場に立ち止まり、キャンディの追跡を一時的に中断させた。

地面に突っ伏して怯えている者もいる。

 

「『大丈夫か、みんな?』」

 

「『あ、あぁ…ケガは無いみてぇだ』」

 

お互いがお互いの身の安全を確認しあう。

もちろん、誰にも弾が当たっているはずなどなかったが、それは彼等の知るところではない。

 

「『タケシ君達はまだか!?』」

 

「『ピストル撃ってくるなんて聞いてねぇよ…死ぬのはごめんだぜ』」

 

「『とにかく仲間を…!あっ!もうあんなところまで』」

 

誰かがキャンディを指差した。

 

 

「よし、逃げ切れる」

 

走りながらもその様子を見ていたキャンディは、小さな勝利を確信した。

 

だがその時。

 

「みぃーつけたっ…あはは!」

 

「なんだっ…!」

 

どこからともなく不気味な声が聞こえてきたのだ。


言語は英語。

 

声色は、女。

 

 

ガシッ!

 

「…んぐっ!」

 

「あははは!」

 

突如として背後から首を絞められ、悶絶しそうになるキャンディ。

白くて細い腕が首に回され、脚がキャンディの胴体にしっかりと絡んでいる。

つまり、襲撃者は彼の背中に担がれている形だ。

 

高々と聞こえてくる笑い声は、まるでホラー映画の幽霊のようだ。

だが、それにはもちろん聞き覚えがあった。

 

「放せ…っ!」

 

「あはは!やなこったー!

もう逃がさないぜ!?アイス・キャンディ!!」

 

この声は、間違いない。アンジーだ。

 

首に力が込められる。

 

「あがっ…」

 

首を捻ろうとしているわけではないので殺すつもりは無いのだろう。

しかし、このままでは卒倒してしまう。

 

「アンジー!やりすぎ!ここじゃ危ないぞ!まずはあのよくわからない奴らから逃げなきゃ!」

 

この声にも聞き覚えがある。ドープマンだ。

 

「それもそうだな…キャンディ!意識あるかー?

まずは離れるぜ!話はそれからだ!」

 

フッ、とアンジーの腕の力が抜けた。


 

 

「『あ、そうだ。フミヤ、ちょっとだけ時間をくれ』」

 

「『何すんだ?』」

 

「『念のため、さっきの黒人にも話しておくよ。手がかりがあればラッキーだからな』」

 

くるりと振り返るタケシ。

彼等の背後には、廃人となったレモンがいる。

 

「『ふん、そりゃそうだな』」

 

フミヤはタバコに火をつけた。

 

「おい、俺の名前はタケシ。お前は?」

 

タケシがレモンに尋ねる。

 

「俺は…」

 

「お前は…?」

 

「酸っぱいのか…?」

 

「…わけが分からない奴だな…。クスリでもやってんのか?」

 

通じない会話に、彼はポリポリと頭をかいた。

レモンの精神状態が回復するまでにはしばらく時間がかかりそうだ。

 

「質問をかえよう。デカイ金を持ってウロウロしてる黒人を知らねーか?」

 

「…」

 

「だんまりか…」

 

「…酸っぱいのか」

 

「何も酸っぱくねぇよ!」

 

タケシが笑いながら冷静につっこむ。

だが、これがイイ結果をもたらす。


「俺は…酸っぱくない?」

 

「おっ。そうだ、酸っぱくないぜ」

 

レモンが僅かな反応を見せる。

だが、まだ意識はうつろで下を向いている。もう一押しか。

 

「『おーい、タケちゃん。ソイツから何か聞き出せそうか?』」

 

「『あぁ、もう少し待ってくれ』」

 

「『チッ』」

 

何を話しているのか 分からないフミヤは退屈そうだ。

 

「俺は…酸っぱくないのか?」

 

「その通りだ。お前は酸っぱくなんかない」

 

「俺は…俺はっ!!!」

 

レモンが目を見開いた。

水を得た魚のようにみるみる元気がみなぎっていく。

 

「俺の名はスティーブ!カリフォルニアいちの天才ドライバーだっ!」

 

「はは…は」

 

まともになってもレモンが変人であることには変わりない。

初めて関わる種類の人間を前にして、タケシは苦笑いしかできなかった。

 

フミヤもレモンの復活に気づいて、近寄ってきた。

 

「ややっ、貴様らは何者だ?サムライか?」

 

「サムライではないな。俺はタケシ、コイツはフミヤだ。よろしく、スティーブ」


パッと、レモンに笑顔の華が咲く。

 

「おぉ!俺はスティーブだぜ!酸っぱくもないし、黄色くもないぜ!」

 

「『何を言ってるんだ…コイツは』」

 

思わず日本語で本音が出るタケシ。

レモンは単に本当の名前で呼ばれた事を喜んでいるだけに過ぎないのだが、酸っぱいだの黄色いだのという話は初対面のタケシ達に理解できるはずもない。

 

「たった今、俺達はブラザーになったぜ。なぁ、ホーミー。

海の向こう側に心の友がいた…それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。

愛してるぜ、ブラザー」

 

「お前、危ない」

 

立ち上がったレモンは勝手にタケシとフミヤの手を握って握手をしている。

冷めた目でそれを見つめる二人。

 

「『何て言ってる?』」

 

「『好意を抱いてるみたいだ』」

 

「『嘘だろ!気持ち悪いな!』」

 

やはり変な捉え方をされてしまった。

 

「スティーブ、実は俺達はある男を捕まえたいんだが」

 

「イイぜ!手伝ってやる!」

 

「いや…!結構だ!

ソイツの事を知っていたら教えて欲しいだけだ!」


全力で首を横に振るタケシと、目を輝かせるレモン。

 

「バカやろう!遠慮すんな!

俺達の間にそういう気遣いは無用のはずだぜ?」

 

「そんなの知らないぜ…そしていつから俺達はそんな深い仲になったんだよ!」

 

やんわりと、だがはっきりと断る。

レモンは人につっこまれ、いじられる天才なのかもしれない。

彼と接してきたほとんどの人間が彼に対して攻撃的になってしまうからだ。

 

「で、どんな男なんだ?」

 

「あぁ、このホテルに宿泊している客だ」

 

「へぇ」

 

しかし、僅かでも情報があれば欲しい。

レモンがキャンディと仲間であれば面倒な事になってしまうので、まずは少しずつ彼の素性を暴いていく。

 

「スティーブはどうしてここにいるんだ?」

 

「どうして?シャロンとドープマンと一緒に来たからだぜ!」

 

「…?仲間か?どんな奴らだ」

 

「仲間…多分、仲間?はぐれちまったけどな!

シャロン…えーと、アンジー?そいつは怪力女で、ドープマンは車椅子男」

 

ムスッとして応えるレモン。

二人の仲間とキャンディは別だと考えてよさそうだ、とタケシは思った。


「しかしアイツらひどいんだぜ!事あるごとに俺を酸っぱい酸っぱいってバカにして!」

 

「それは災難だな、スティーブ」

 

棒読みのセリフ。今はレモンの戯れ言に付き合っている場合ではない。

 

「だろう!?しまいには俺を黄色く呼びやがって!もう少しでシールを貼ってカリフォルニアから世界に出荷されるところだったんだからな」

 

もう、何がなんだか分からない話だ。

 

「そうならなくてよかったよ。おかげでこうして出会えた。

ところでスティーブ?」

 

「果汁をしぼ…はい?何だ?」

 

「話を遮ってすまないが、俺達が追っている男の話だ」

 

タケシがにこやかな笑顔を崩さずにレモンを見つめる。

 

「あぁ、そういえばそんな事言ってたな」

 

「何か知ってるのなら是非教えてくれ」

 

「任せとけ。俺はロサンゼルスでは神と呼ばれた男だ。

だが何かヒントがないと、このゴッド・スティーブも何を教えればイイのか」

 

レモンは冗談を言いながら親指を立て、タケシが棒付きキャンディを取り出して口に入れる。


手持ち無沙汰になったフミヤも、タバコを取り出して火をつけた。

 

「そ…それは…!」

 

突如、タケシの口元を指差してわなわなと震え始めるレモン。

自ら何かのヒントを得た様子だ。

 

「どうした?」

 

「お前がくわえてるのはキャ…キャ…」

 

もう少し。

 

「キャンディだな。欲しいのか?」

 

「マジで!?くれ!」

 

ダメだった。

 

「…ほらよ。で、その男ってのが黒人なんだ。

お前達、えーと三人組か。もし、この辺をウロついてる事が多いのなら…ソイツを知らないか?追ってはいるが、どんな奴なのか全く分からなくてな」

 

「ありがとう!

でも、黒人だからみんな知り合いってわけじゃ無いぜ。俺達も日本へ来たばかりでな。

あ!そういえば俺達も一人の男を探してるんだ!」

 

「そうなのか。国をまたいで追跡とは、FBIみたいだな」

 

「だろー?で、ソイツは大金を持ってるはずなんだ。名前はアイス・キャンディ。

俺達の仲間なんだが、訳ありで離ればなれになってしまって」

 

レモンの言葉にタケシの顔色が変わる。


「仲間…三人組って話しとは別みたいだな」

 

慎重な言葉での彼の誘導尋問が始まる。

 

「あぁ!それがよぉ、そのキャンディって奴とはアメリカで一緒にどでかい仕事をやったんだが」

 

レモンが興奮して声を張り上げる。

 

「でかい金が絡んだ仕事…って事かい?」

 

「その通り!もちろん俺の指揮のもとで執り行われた仕事だぜ!」

 

なにげに自慢してきたレモンだが、真っ赤な嘘にすぎない。

 

「『おい、まだ時間がかかるのか!?先に行くぞ』」

 

「『待て、フミヤ。どうやらビンゴだ』」

 

タバコを吐き捨てて文句を言い始めたフミヤに、タケシがそう告げた。

 

「『ビンゴ?』」

 

「『そのターゲットにこのバカそうな男がつながったって事だ。

おそらく情報を持ってる』」

 

「『仲間って事か?』」

 

「『そのようだ。だが危険性は無い。利用出来ると思うぞ』」

 

堂々と本人の前で繰り広げられるすさまじい会話。

だがレモンが内容を知る手だてはない。


「なんだよ?ちゃんと聞いてるのか?」

 

「もちろんだ。今、フミヤにもスティーブの輝かしい武勇伝を通訳していたところさ。すごいな、と感嘆してるぞ」

 

「そうかそうか!」

 

誉めておけばそれだけで場は持つ。

しかも相手はレモンだ。性格上、容易にマインドコントロールが出来る事など、誰の目から見ても明らか。

タケシがその程度の事を掴めないはずなど無かった。

 

「で、仕事ってのは一体何をしたんだい?

スティーブの事だ。きっとアメリカでは、とんでもない事をしでかしたんだろう?」

 

「ははは!聞いて驚け!なんと、バンク・オブ・アメリカを襲撃したんだ!

サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴの三カ所でな!」

 

実際は襲撃ではなく、作業員の買収による金の横領だが。

 

「そんなバカな!」

 

タケシが自慢気なレモンの声に負けないくらいの大声を出した。

演技などではなく、本当に驚いたのだ。

 

「ビビったろ?それで、その金の一部を握ってるのがアイス・キャンディなのさ」


「そうか…そういう事か。どうりで…」

 

「どうりで?何だ?」

 

「いや、何でもない。こっちの話さ」

 

これも、思わずこぼれたタケシの本音だ。

 

追っている男は同じ。

そして、なぜソイツが大金を握っているのかまでは道がつながった。

 

「ふーん」

 

「それで、そのアイス・キャンディって奴を捕まえてどうするつもりなんだ?」

 

「知らねー」

 

「知らない?」

 

レモンの返答は不明確なものだ。

 

「アンジーはキャンディが裏切ったから許さねーって怒ってる。でも、ドープマンは理由があってキャンディが飛んだって言ってる。どうするかは話を聞いてからでも遅くないって思ってるんだろうな」

 

「意見が割れてるわけか。お前はどう思ってるんだ、スティーブ?

それにアイス・キャンディの目的は?」

 

「俺?俺はサムライタウンに行きたい!

キャンディもそうに違いないさ」

 

焦点がずれすぎて、まったく話にならない。

 

「…とにかく、事情があってみんなが離れたのはよく分かった」


「お前達が捕まえようとしてる男の話もきかせてくれよ。

どうせ置いていかれちまった身だ。やることも無いし、力になるぜ!」

 

「でもアンジーとドープマンって仲間と合流しなきゃならないだろう?」

 

レモンから取れる、出来る限りの情報は得た。

 

人手は十分すぎる程にあるタケシやフミヤに、もはやこの男は必要ない。

その上、アイス・キャンディを互いに狙っているという事実。それが必ず障害となる。

たとえ、後にすべてを知ったレモンが『それでも協力する』と申し出たとしても、だ。

 

「大丈夫!なんとかなるって!

さぁ、ソイツを捕まえてやろうぜ」

 

「…」

 

「『あー!いたいた!

タケシ君!フミヤ君!』」

 

やけに元気でお節介なレモンに対し、言葉を失っていたタケシに救いの手が入る。

 

「『なんだ?ジュンイチロウじゃねぇか?どうした?』」

 

息を切らしながら走ってきたのは坊主頭のジュンイチロウ。

それにフミヤが声をかける。

 

ジュンイチロウは二人を探していた様子だ。


「『ジュンイチロウー!いたかー!?』」

 

ジュンイチロウの返答の前に、もう一つの声。

そして現れた金髪の男。

 

ケンゾウだ。

先ほどの緊急幹部召集の面々が集まった。

 

「『あ!タケシ君!探しましたよ!

何やってんすか!?油売ってる場合じゃないっすよ!』」

 

「『どうした、二人とも?』」

 

ケンゾウの無礼な態度にも、叱ることなくにこやかに対応するタケシ。

 

状況がよく理解出来ないレモンは、ただ目を細めた。

 

「『見つかったんすよ!ホテルから出てきて、その…黒人をみんなが追いかけてます!』」

 

ケンゾウに代わってジュンイチロウが答える。

 

「『マジか!おい、タケシ!行くぞ!

連れていけ、ケンゾウ!』」

 

「『は、はい!こちらです!』」

 

ケンゾウとフミヤが走り出す。

 

「『さ、フミヤ君も早く行きましょう!』」

 

残ったジュンイチロウがタケシに促す。

 

「『そうだな!』

スティーブ!悪いが行かなくちゃならなくなった!」

 

「ん!?え!待てよ!」

 

寂しそうなレモンを置いて、タケシもフミヤ達を追って駆け出した。


 

 

「『こっちです!こっちです!』」

 

ケンゾウが大きく両手を上げて先導する。

その姿は最後尾のタケシからもはっきり見えていた。

 

「『だいぶホテルの近くにいるみたいだな』」

 

「『はい、異変に気づいた俺らはすぐにタケシ君達のところに飛んできましたからね』」

 

タケシの横にいるジュンイチロウは鼻が高い。

 

「『あそこです!』」

 

ちらほらと灰狼のメンバー達が見えてきた。

 

「『フミヤさん!』」

「『お!タケシ君だ!』」

 

彼等に気づいたメンバー達からの声。

そこには全員が集合していた。

 

「『どこだっ!捕まえたんだろう!?』」

 

タケシが叫びながら人だかりに入る。

 

だが、キャンディの姿はそこに無かった。

 

 

よく見ると人だかりの中心に、二人の男がいる。

 

「『あ、タケシさん。すいません…』」

 

「『いきなり撃たれて…ビビって取り逃しちまいました…』」

 

涙声になりながら彼等が謝罪する。


「『なにやってんだよ!』」

 

「『撃たれた!?嘘つけ!』」

 

周りからは心無い野次が飛んでいる。

 

「『どんな仕打ちでも受けますんで、勘弁してください』」

 

頭を地面にこすりつけて、土下座している二人。

余程の失敗をしでかした、と責任を感じているのだろう。

 

だが、タケシは怒らない。そもそも、灰狼はそんなガチガチした縦つながりの集団ではない。

 

「『大丈夫だ。どっちに行ったか分かるか?』」

 

「『え…?おそらくあっちですが、でも…!

俺らを許してしまったら、タケシ君がアクタガワさんに!』」

 

片膝をつき、二人の肩を優しく叩いたタケシ。

やはり表情はにこやかだ。

 

「『気にしないでくれ。その場にいなかった俺とフミヤが悪いんだからよ。

な?フミヤ?』」

 

「『あ?何で俺までアクタガワにどやされるハメになんだよ』」

 

フミヤも一芝居うってくれている。

 

こうやって『アクタガワ』を利用し、下の人間のタケシへの忠誠心を固めていくのだ。


「『なんだ、こいつ!?』」

 

「『いたぞ!黒人!捕まえろ!』」

 

タケシやフミヤを囲んでいるメンバー達の輪の外側が騒がしい。

 

「『のこのこと出てきやがった!』」

 

「『何か違うような…ま、いいか!連れていけ!』」

 

「なんだよ!やめろ!俺様は味方だぞ!」

 

騒ぎを起こした本人が、数人の灰狼メンバーに身体を掴まれて運び込まれてくる。

 

「『ついてきてやがったな?』」

 

「『あぁ、だろうと思った』」

 

もちろんこれはフミヤとタケシの会話だ。

 

「おぉ!ブラザー!」

 

「『コイツ、どうします!?』」

 

「『この黒人がターゲットですか?』」

 

「『あー…』」

 

レモンの言葉とメンバーの質問に、タケシは頭を掻いた。

 

「タケシ!わからないのか!?

俺だよ!合衆国の星、スティーブだ!」

 

「『めんどくさ』」

 

「『とにかく、この黒人は金持ちヤロウじゃないぜ。

逃がした男は、まだ遠くには行ってねぇんだろ?さっさと手分けして探してこい!』」

 

フミヤが一喝した。


 

 

「どこまで連れて行く気だ?」

 

「地獄まで」

 

「チッ…!相変わらず可愛げが無いな」

 

「可愛げが必要か?こんなにイイ女と腕組んで歩いてるんだ。それだけでも幸せ者だぜー?」

 

アンジーが不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふん」

 

不覚にも自分でふっておきながら、『確かにイイ女だ』と思うキャンディ。

キツイ口調や性格、驚く程高い戦闘能力が無ければ確かに彼女は美人なのだ。

 

「アンジー、レモンは?」

 

ふいに、アンジーとキャンディの後ろから声が聞こえた。

ドープマンだ。

 

彼等が歩いている周りには多くの通行人。雑踏。

しかしそれでもはっきりと彼の声は二人の耳に入ってきた。

 

「レモン?死んだんじゃないかー?」

 

「ん?レモンは死んだのか?どうして?」

 

この返答はドープマンではなくキャンディだ。

 

「いなくなっちまったからな。死んだようなもんだぜー」

 

「ただの迷子ならそう言え。紛らわしいぞ」

 

「お?冷酷で知られるアイス・キャンディさんも心配か?」

 

アンジーがおどける。


「相変わらず口の減らない女だ」

 

「あはははは!強がってられるのも今の内だぜ」

 

「…っ」

 

腕を組んで真横から甲高い笑い声を上げられ、キャンディの耳はキンキンと耳なりを起こした。

 

周りから見れば仲むつまじいカップルが談笑しながら歩いている、といったところだろうか。

 

「ねぇー、アンジー。レモンはぁ?本当に置いていくの?」

 

ドープマンはまだレモンを気にしている。

 

その膝の上には真っ赤なコカコーラの缶。おそらくまた盗んだ物だがこれにアンジーはまだ気づいてはいない。

 

「ついたぜ」

 

「…」

 

ドープマンには応えず、アンジーが指差す。

 

「結構イイとこだろ?」

 

「確かにな」

 

「ここに泊まるの?」

 

三人が各々、口を開いた。

 

 

ホテルが目の前に建っている。

メキシコとは違って車に乗ってきているわけでは無いため、彼女はホテルをおさえていたようだ。

 

そこは偶然にもキャンディがアジトにしていた場所の目と鼻の先だった。


外観は茶色のビルのようだが、玄関前に備え付けられた屋根付きの車用スロープ。

さらに入り口は回転扉で、当たり前のようにドアマンが待機していた。

 

「そうだぜー。そういえば、お前やレモンは知らないんだったな?」

 

「わーお!映画の世界みたいだ!

マイ・フェア・レディだっけ?

見てみて!あの回転扉!日本だと忍者が出てくるのかなぁ!」

 

ドープマンが目を輝かせた。本当に子供だ。

 

「なんだ、まさかわざわざ部屋まで招いてくれるのか?

手厚い対応だな。スイートルームみたいな生ぬるい地獄だと助かるんだが」

 

「あはは!面白くない冗談だ。もちろんお前には死んでもらうつもりだぜー?」

 

「ふん。そうかよ」

 

「…でも、安心してくれ。ご希望どおり、アタシらの部屋はスイートだからな。

『全従業員に言葉が通じるホテル』って事で探してたらこのザマだ。

東京ってのが、ここまで閉鎖的な街だとは思わなかったぜー。大都会はパァっと開放的で派手じゃないとな」


アンジーが両手を広げている。

 

ドアにほど近い場所まで歩いてきている為、ドアマンが訝しげに彼女を見つめた。

 

「ホテルはここでもイイとして、わざわざ部屋を良くする意味はあったのか?」

 

「空きがなかったんだよ!そこは喜ぶとこだろう!」

 

「いちいち大声を出すな。耳がつぶれちまう」

 

キャンディはアンジーから封じられていない右手で彼女の腹を軽く押した。

 

「あらやだ。触られちゃったわ」

 

「…」

 

他人から触れられる事を嫌うキャンディがおとなしくしているのも、半分は彼女の魅力のせいなのかもしれない。

 

「いらっしゃいませ」

 

ドアマンがお辞儀をした。

 

「回転扉は逆時計回りにお一人ずつお進みください」

 

言われるがまま、三人は扉に入る。

 

ガツッ。

 

鈍い音がして、扉が回らなくなった。

 

「うわぁぁん。引っかかった!」

 

ドープマンの車椅子が扉と壁に挟まれてしまったようだ。

ドアマンやロビーにいるベルボーイ達が慌てている。


「何やってんだよ!もう!」

 

先頭を歩いていたアンジーが声を荒げた。

 

「…く」

 

「うわぁぁ!助けてぇ!コーラが落ちた!」

 

キャンディは真ん中、そして取り乱しているドープマンは一番後ろだ。

彼のせいで全員身動きが取れないでいる。

 

逃げるには最大のチャンスなのだが、どうする事も出来ないキャンディ。

回転扉のガラスを割るのも手だが、何枚も割っている間に従業員やアンジーに取り押さえられるのが関の山だ。

 

「お、落ち着いて下さい!お客様!

すぐに助け出しますので!」

 

建物の外にいるドアマンがドープマンの車椅子を引っ張りながら声を上げる。

だが、なかなか抜けない。しっかりと扉に挟まってしまっているようだ。

 

中のベルボーイ達は、回転扉のすぐ横に備え付けられている大ぶりな鉄扉を開け放って外へと飛び出した。

 

「お客様!」

 

「『あぁ、なんてこったい』」

 

「『みなさん、引っ張るのを手伝って下さい!』」


英語に混じって母国語での会話が飛び交っている。

当然といえば当然だが、キャンディ達にはよく分からない。

 

「あぁぁ!」

 

再びドープマンの絶叫。

 

「うるさいな!子供じゃねぇんだからおとなしくしろよ!」

 

「コーラが…」

 

いつの間にか封を開けていたコカコーラは、無惨にも床一面にこぼれて広がってしまった。

 

それが、キャンディやアンジーの足元にまで到達する。

 

「ん?これは…ドープ!お前、また!」

 

盗品に気づいたアンジーが、ドープマンの叫びに負けないほどの叱咤を飛ばす。

間に挟まれたキャンディには災難だ。

 

「『せぇの!』」

 

「『うぅん!』」

 

「『…くぅ!取れない!』」

 

ベルボーイ達は必死だ。

この光景を目撃した通行人も、何事かと立ち止まって集まり始めた。

 

 

 

数分後。

 

「バリアフリーって言葉、知らないのー!?」

 

プリプリと癇癪を起こしているのはドープマンだ。


「バリアフリー…でございますか?」

 

ドープマン達に応対しているのは支配人のような男で、彼の左胸にある小さなネームプレートには『ゼネラルマネージャー・タダヒロ=イトウ』と表記してあった。

 

「身体が不自由なお客様向けのー!的なやつだよ!」

 

ドープマンがさらに声を張り上げる。

当時、世界的に見ても公共で未だ障害者むけの考えを徹底している場所は数えるほどしか無かった。

 

「なるほど。当ホテルの設備が不十分で誠に申し訳ございません。

さらには、このような事故が起きてしまったのは完全に私どもの不注意でございました」

 

さすがに従業員の対応は素晴らしい。

さらには流暢なブリティッシュ・イングリッシュ。

 

ここが日本でなければ『自ら挟まりに行った客が悪い』と一蹴されてしまいそうなクレームだが、マネージャーは眉間に皺一つ寄せない。

 

「お怪我はございませんでしたか」

 

「ないよ。でも、俺のコーラが」

 

「…?お飲み物でございますか。すぐに準備いたします」


当然の処置。

ホテル側からすれば他愛もない、簡単な事なのだろうが、ドープマンはひどく驚いた。

 

「マジで!?」

 

「はい。もちろんでございます。

お部屋までお持ちします」

 

「なんだよ!早く言えばイイのに、イトウちゃぁん!

やっぱ、お偉いさんは話が分かるね!」

 

立腹していたのがまるで嘘のように、ドープマンはにこにこと笑いながらマネージャーの胸を小突いている。

 

「だが後でおしおきだな」

 

横からぼそりとアンジーがつぶやく。

 

「はっ!!

キャ…キャンディ、お前よりも先に俺が死んじゃうかも」

 

「…」

 

話をふられたキャンディはというと、目だけで辺りを見回しながら逃げるチャンスを伺っていた。

 

 

「さて、それではお部屋へご案内します。

失礼ですが、ご予約のお名前をお聞かせ願えますでしょうか?」

 

「そうだな。そろそろ案内してもらおうか。

名前はシャロン・ストーンだぜー」

 

お得意の偽名だ。

しかも、彼女はこの名前が気に入っている。


 

 

横浜。

 

洒落たカフェの店内。

 

「少しは情報が掴めたかね」

 

「はい。その本人かは分かりませんが、多額の米ドルをキャッシュで引き下ろした人物がいます。

そして、同一人物が近辺のビジネスホテルにチェックインした形跡あり。その線が一番濃厚だと思われます」

 

なかなか目にする事がない、ラップトップ型のコンピューターのキーを打ちながらバーバラが答える。

 

「君は本当に優秀だな。

連れてきて正解だったよ」

 

「私にはもったいないお言葉です、ウィルウッド様。

私ではなく、世界を股にかけるFBI全体の実力です」

 

彼女は恥ずかしそうに顔を伏せた。

 

「ふふん。それで、ソイツの居場所は?」

 

「東京都内です。狭い街ですから、ここからでも目と鼻の先ですね」

 

「そうか」

 

それだけ返し、カプチーノに口をつけるウィルウッド。

 

「あの…」

 

「どうした?」

 

「その、捕まえたりはしないおつもりですか?」


恐る恐る質問したバーバラ。その目は右に左にと泳いでいる。

 

そこまで怖がるのであれば訊かなければ良かったのだろうが、恐怖はFBI捜査官としての使命感には勝てなかった。

そしてこの質問の真意は別にある。

 

「ん?よく意味が分からないが」

 

ウィルウッドの言葉と表情は怒りではなく、疑問を表した。

 

「えっ?そうですか。では、お気になさらず」

 

バーバラがやわらかい微笑を返した。

 

「はは、おかしな奴だな」

 

「…」

 

充分に真意は見えた。これ以上ない脱力感。

尊敬するウィルウッド捜査官は、堕落していた。それが答えだ。

 

彼には重犯罪者、それを消す為に足取りを追うマフィア、その両者を咎めるつもりは毛頭ない。

 

 

ウィルウッドが日本へ向かうパートナーとして自分が抜擢された時。

彼女は心の底から喜んだ。

 

憧れ…いや、恋心すらも通り越す程の熱烈的な想いをバーバラは彼に抱いていた。

凶悪犯や難事件に、信頼を寄せる多くの部下たちを従えて颯爽と向かっていく彼の姿に惚れ込んでいたのだ。


だが、光の裏には影がある。

彼女が目にしていたウィルウッドは表だけだったのだろうか。

 

「では、私達はこれから…」

 

「もちろんそこへ向かうつもりだが?」

 

「えっ??」

 

バーバラの頭の中が乱れた。

 

「まだ、カプチーノが残ってる。それに君のココアも」

 

「あ、はい。いただきます」

 

ウィルウッドに促され、彼女はカップを手にとった。

 

たった一言で自らの予測を覆された。掴んだ真意が不確かなものになる。

聡明な彼女にも、ウィルウッドの言動と行動がまるで理解出来なくなってしまった。

 

「君は…私を疑っているのだろう」

 

ギクリとした。

 

「いえ…」

 

「ただ、私を信じなさい。

正義は常に我々FBIにある。きっと、納得してくれるだろう」

 

「正義、ですか?」

 

「そうだ。たとえ汚く見えようとも、世の秩序を保つ為には必要な事なんだ。

いずれ分かる」

 

言い訳にしか聞こえない、とバーバラは感じたが、不思議と逆らう事は出来なかった。

確実に、この男は自分より一手も二手も先を読んでいる。


「いずれ…」

 

分かりたい気もするが、分かりたくない気持ちもある。

 

「そう、いずれだ。私達は常に正しくなくてはならない」

 

「おっしゃる通りです」

 

「FBIは警察とは違うのだ。君はそこを理解すべきかもしれないな」

 

意味深な言葉を吐いたウィルウッドは、空になったカップを皿の上に乗せた。

まだココアを飲み終えていないバーバラが少し慌てる。

 

だが、彼のペースに合わせてそれを飲み干すよりも、質問をぶつける事を優先した。

 

「もちろんそれは心得ています。

警察と違い、格段に機転を利かせた捜査ができますし、その範囲に州や国境は通用しません。そうですね?」

 

「そうだな。それは誰もが知る事だ。

では一つクイズをだそうか」

 

ウィルウッドは彼女に優しく笑いかけた。

 

「有り得ない話かもしれないが、聞いてくれ。

例えば、人質を持って空き家に立てこもっている数人の凶悪犯がいるとしよう。

彼等は完全に警察から包囲されていて、身動きが取れない」

 

「はい」


「さらに彼等は空き家を吹き飛ばすには充分な程の威力を持った爆薬を持っているとしよう。人質はおろか、周りにいる警官隊も全員死傷するぐらいのな。

起爆装置は、そうだな…分かりやすく時限式だ。

だが、彼等の要求は不明。

人質の手前、警察も下手には手を出せない。

タイムリミットは一時間と25分。さぁ、どうする?」

 

ウィルウッドは最後に真剣な顔つきで設問を終えた。

 

「うーん…難しいですね。要求が不明だと言うのが気になります」

 

「あぁ。外からの呼びかけには一切応じず、時折顔を出しては人質に銃をつきつける様を見せてくるだけだ」

 

「まずは、周辺住民の避難です」

 

バーバラはウィルウッドの顔を伺いながら言葉を発する。

満足そうに彼は頷いた。

 

「正解だ。地域住民の安全は確保しなければならない」

 

「ありがとうございます。

次に交渉人、爆弾処理班、狙撃班、強襲突撃の為にSWATを緊急召集します」

 

「ふむ。これまた正解だ。

いいぞ、バーバラ」


ウィルウッドに試されている。

そう思うといつも以上に緊張してしまう。

 

「ありがとうございます。次は…」

 

ココアを一口飲んで、喉を湿らせる。

 

「次は?どう動く?さぁ、特殊部隊の到着には35分かかったぞ」

 

「そんな…!ま、まずは交渉人に犯人達の要求を聞き出させます…!」

 

バーバラの回答に対して、ウィルウッドは架空の事件現場の時間を進めた。

 

「爆弾は時限式だと伝えたはずだ。丁寧に爆破の予告時間も添えてな。

…では、幸運にも犯人達は交渉人の呼びかけにだけは応じたとしよう。

犯人は8人。人質は子供を含めて5人だ。要求は現金十億ドルと逃走用のヘリを一機、さらには全米の刑務所内に散らばっている彼等の『同志』を全員解放する事。その数は17名。

引き換えに人質は解放されて、爆弾のタイマーも停止される」

 

「その内容はいくらなんでも厳しすぎます!」

 

「過激派の犯罪者が必ずまともな要求をすると思っているのかね?

ほら、交渉はスムーズだったが時間が経ったぞ。爆発まで、残り23分」

 

「…!!」


ウィルウッドの容赦ない言葉にバーバラの顔は硬直した。

女性である彼女は想像力が豊かである事は間違いなさそうだ。実際に起こっている事では無いにも関わらず、感情移入出来ているのが何よりの証拠。

 

一般的に、頭で考えて行動するのが男性。

豊かな感性で行動するのが女性だと言われている。

 

「ほら、どうするんだ?

部下たちは君の指示を待っているぞ。

狙撃班は少し離れた向かいにあるビルの屋上に、爆弾処理班とSWATの強襲チームは空き家の真裏に待機。

いつでも行動は可能だ。残り21分!」

 

「…はい。今、考えています。

人質が…人質さえ解放できれば」

 

「まるで人質が邪魔だとでも言うかのようだな。作戦に支障が出たところで、彼等に罪は無い。

…カプチーノを」

 

話が長くなると踏んだのか、ウィルウッドは通りかかった店員にコーヒーを注文した。

 

「もちろんそうです。

交渉人にもう一度取り引きさせます。

要求を飲むには時間がかかる。せめて爆破の時間を延ばすようにと」

 

「うむ。では全ての要求に尽力するのだね?」

 

「他に手はありません」


すぐに新しいカップが運ばれてきた。

香ばしい湯気が漂っている。

 

「要求は変わらない。

現金十億ドル。逃走用のヘリ。そして、彼等の同志の解放」

 

「はい。悔しいですが、一度要求を飲んで逃がした後に捕まえるしか無いと思います。

こちらの提案は四十八時間の延長。

早急に準備できるのはヘリくらいなものです。

そこまでの額の現金と、服役中の人間の釈放は容易ではありません。

特に後者は大統領の判断が必要となり、四十八時間でもかなり短い。それを犯人に理解してもらう必要があります」

 

「残り4分」

 

残酷にも、ウィルウッドは制限時間だけをつぶやいた。

 

「え?」

 

「残り4分だと言ったんだ。時間を延ばす事は叶わなかったという事だよ。

さすがに、こちらの都合など考えてはくれまい」

 

「うぅっ」

 

バーバラが弱気になる。

 

「君は気づかないのかね?彼等の要求の意味が。

残り3分だ。あきらめるか?」

 

「…強襲チームを突入させ、空き家内を制圧します!もはや多少の犠牲は問いません!」


「催涙弾で、突入に気付いた犯人達も応戦するぞ。同時に人質の内二名が射殺されてしまった。残り1分!」

 

「制圧を急ぎます!テロリスト達に…」

 

「アウトだ。ドカン!」

 

ウィルウッドがテーブルを激しく叩いた。

バーバラがびくりと身体を震わせる。

 

一瞬だけ他の客や店員が一斉にシンとして注目したが、店内は再びすぐに話し声でいっぱいになった。

 

「犯人、人質、強襲チームは爆弾により全員死亡。

空き家を包囲していた警官隊にも重傷者が出ているぞ」

 

「申し訳ありません…」

 

「いや、悪くはない判断だった。誰も君を責めはしないだろう」

 

ウィルウッドがそう言うが、バーバラは納得のいかない様子だ。

 

「教えてください、ウィルウッド様。犯人達の要求の意味とは何ですか?」

 

「君の指示は正しかった。だが、それは『警察』としてのものだ。

それを拭い去れない限りは、意味を知っても決して認める事など出来ない」

 

「では『FBI』として、ウィルウッド捜査官が全指揮権を握っていたとしたら?」


バーバラが息をのんで、ウィルウッドにたずねた。

 

「…」

 

「…すいません。出過ぎたマネをしました」

 

だが彼から回答はなく、気まずい空気になる。

 

「いいんだ。よく最後まで頑張ったな、バーバラ」

 

「…」

 

頑張った?

ただ、ウィルウッドのクイズに応えただけに過ぎない。

この問題に彼は答えを持ち合わせているのだろうか、それどころか完璧な回答が存在するのだろうか。

 

バーバラがそんな事を考えている矢先。

 

「そう。このクイズに正解は無いよ」

 

「えっ」

 

心を見透かされたような言葉だ。

 

「だが、FBIとしての私が持ち合わせている答えならある。

しかしそれは、君には理解出来ない」

 

「なぜですか?」

 

可愛げのあるそばかす顔で、ウィルウッドを見つめるバーバラ。

 

「それはたった今、君自身が証明してみせたからだ」

 

「私の回答が、FBIらしからぬとおっしゃるのですね?」

 

「そうは言っていない。君の判断は立派だ。

しかし、少なくとも私とは答えが違うようだ」


彼は一度きかれた事にすぐには応えず、少し後になって応えるのが癖のようだ。

 

相手の出方をうかがう姿勢が身に染みついている。

 

「お聞かせ願えますでしょうか?

もし、その場にあなたがいらっしゃったとしたら…犯人達にどういった対処を?

それに、先ほども申し上げましたが『彼等の要求の意味』とは?何かメッセージが隠されていたのでしょうか?」

 

おとなしいはずのバーバラが、少しだけ声を張り上げてまくしたてている。

 

ウィルウッドはそれに気づいてはいるが、わざわざ指摘はしない。

 

「実直で真面目だな。いいだろう。

ただし、理解出来ないだろうとはさっき言ったな?

それどころか、君は私にますます不信感を持つ事になるだろう。そして、嫌いになる」

 

「…それは、聞いてみなければ分かりません」

 

「あいわかった」

 

うん、と喉を鳴らしてウィルウッドが椅子に腰掛け直す。

 

「地域住民を避難させ、爆弾処理班などの特殊部隊を集めるところまでは同じだ」

 

「はい」


「そして君と同じく、交渉人を立てて犯人達の要求を聞き出そうとするだろう」

 

ここでバーバラがレディスのスーツの懐から、手帳とペンを取り出した。

 

「おや…書き留めるほどの事かな?」

 

「はい。貴重なご意見ですので、今後の参考にさせていただきたく存じます」

 

「そのメモをみる度、嫌な気持ちにならなければよいが」

 

ウィルウッドが軽い冗談を言うと、バーバラが穏やかに微笑む。

 

「うふふ。お気になさらず」

 

「犯人達の要求は同じだ。多額の現金、ヘリ、同志の解放。

だが当然、私の返事はNO。要求は、どれも飲めない。すぐにそれを伝え、投降を促す」

 

バーバラの答えと似ているようで全く違う。

 

「投降…」

 

「そうだ。さらに言うならば、ただちに人質を解放しなければ射殺すると伝えるな」

 

「しかし、それでは人質が…」

 

「そして、爆破を待たずして、最後にこう言おう。

『残り五分で、攻撃を開始する』」

 

「え…!?それでは元も子もありません!」


彼女が驚くのも無理は無い。

早々と攻撃を開始したところで、人質の無事など保証されないからだ。

 

「次に、包囲網を広げる。つまり、周りの警官隊を空き家から遠ざけるということだ。

これは何の為なのか、分かるね?」

 

「彼等が爆発に巻き込まれるのをさける為…ですね?

しかし、やはりそれでは…」

 

ウィルウッドの予想通り、バーバラは不服な様子だ。

 

「では、犯人達が投降に応じなかったとしよう。

予告通り、攻撃を開始。攻撃は主として、狙撃班が行う。

窓や扉から外を覗き込む者から順に狙撃だ。

空き家から決して出さない」

 

「犯人達が人質を殺してしまいます!」

 

「殺そうが殺すまいが、彼等は後々爆発で死ぬ。

人質に罪はない。だが、無駄な犠牲も必要ない。

人質に気をとられて、尊い警察官や特殊部隊員の命を失ってはいけないのだ」

 

「それは間違いではありませんが…」

 

「極端な話だ。一人を見殺しにすれば二人が助かる、という状況に似ている。

普通は迷わずその一人を見捨てる。違うかな?」


「違いません。ですが、これは冒涜です!

善良な市民の命を守る為に最善を尽くすのが私達FBI職員と警察官の勤めのはずです」

 

バーバラは小刻みに身体を震わせている。

 

「あぁ、その通りだ」

 

「え?」

 

あっさりと、肯定が返ってくる。

 

「何も、人質の命などどうでもイイと言っているわけではない。

救えないものは救えない。私はただ、そう言っているのだよ。

君の言う通り、最後まで力を尽くすのも悪くは無い。だが、救えない命もある。だったら、最小限のダメージで食い止めるべきだ。

冷酷に聞こえるかもしれないし、無責任に感じるかもしれない。だがそれこそ、数ある地獄を見てきた私の答えだ」

 

「…」

 

「君の答えは正しいように見える。実に美しい答えだ。

だが、考えてみてほしい。君が突入させた特殊部隊の隊員もまた、『一市民』であるという事。家族もいるだろう。

爆発が間近だと知っていながら突入させられた彼等は、殉職という名誉に飾られた単なる『犬死に』だ」

 

「…!」

 

気づけば、彼女の眼からは悔し涙がポロポロと溢れ出していた。


 

 

「『ったく、いつまで待たせやがる!ぐずぐずするのが一番苦手なんだが』」

 

黒塗りのトヨタ・センチュリーの後部座席で、RGは悪態をついた。

 

「『確かに遅いっすね。てこずっているのか何なのか、向かってみますか?』」

 

着慣れないダブルのスーツに身を包んだクサナギがそれに応じた。

 

「『だったら、お前が一人で見てこい』」

 

「『はい。では、行ってきます』」

 

命じられたクサナギが、ハンドルを握るカワノを一瞥してセンチュリーの助手席から出ていく。

 

「…どうした、ゴンドウ?

奴に近付くチャンスだというのに」

 

「短気なのは昔っからだ。

それより、フォレスト。ウィルウッドさんから聞いたぜ?」

 

「何をだ?」

 

「てめぇ、デカを辞めれちゃいないそうじゃねぇか」

 

ニヤリとRGが笑う。

フォレストは唸った。

 

「うーむ。そうらしいな。

だが、俺は警官として何かをするつもりは毛頭ない。受理されるのも時間の問題だろう」


「なんだかんだ仲間から好かれてるんだな。うらやましいヤロウだ」

 

「ははは。どうなんだろうな。戻ってもまた馬車馬のように働かされるだけだろうさ」

 

遠くを見るようなうつろな目でフォレストは言った。

 

「『しかし、おせぇな…おい!カワノ!』」

 

「『はい』」

 

「『クサナギかナカムラは見えるか?』」

 

「『いえ…まだです。クサナギの兄貴が変にちょっかい出してるんじゃないですかね?』」

 

珍しくカワノが冗談を吐いたが、RGは笑いはしない。

 

「『ふん。さっさと聞き出せばイイだけだろうに。

昔話に華でも咲かせてるんじゃねぇだろうな』」

 

「『ドンパチなるような相手でもありませんからね』」

 

先ほどから彼等が待っているのはナカムラだ。

 

コンタクトをとっていた行員時代の知り合いと、取り引きを行っている。

金の流れを掴み、アイス・キャンディの情報を手に入れる為。情報屋のアンジーほど手際よいものではないが、彼等も確実にアイス・キャンディへと近づいている。


 

それからおよそ五分程度経つ。

 

「『あ、クサナギの兄貴が戻ってこられましたよ。ナカムラもいます』」

 

「『ふん。やっとか』」

 

タバコをくゆらせていたRGがカワノの声で鼻を鳴らす。

 

「ん…戻ってきたのか?」

 

目を閉じて仮眠していたフォレストも顔を上げた。

 

ガチャ。

 

「『大変お待たせして申し訳ございませんでした』」

 

扉を開けるなり、丁寧に頭を下げて詫びるナカムラ。

 

クサナギはさっさと助手席に飛び込んで座っている。

 

「『おう、早く乗れ』」

 

「『はい、失礼します』」

 

ナカムラがRGの隣に座る。

 

「『で?』」

 

「『穏便に聞き出せました。銀行の場所は特定できました。

約束の金の半分も彼に渡しましたが、すぐに回収なさいますか?』」

 

「『いや。情報が確かだった場合、残り半分を渡す約束は?』」

 

「『とりつけてあります』」

 

「『それじゃ、その時に回収だ。もし持ってこなかったとしても痛めつけて取り立ててやる』」


なるほど。単純だが、大した策だ。

 

金は始めに半分。

銀行に赴き、アイス・キャンディの確かな情報を得ることが出来れば残りの金を払う。

 

「『その、最初の半分だけ持って飛んじまうって事は無いんですかね?』」

 

これはクサナギだ。

 

「『それはどうだろうな、ナカムラ?』」

 

「『いえ、その可能性はほとんど無いと思います。

取引の相手、サエキといいますが…彼は金に対する執着心が異様に強い』」

 

「『ふん。残りも必ず受け取りに来るって事だな』」

 

RGがつまらなそうに言った。

 

「『なぜ私がそんな情報に金を支払うのか、理解し難い様子でした。

それから、なぜお払い箱になった私が、大金をいとも簡単に支払えたのか。

何も言いませんが、気にしています』」

 

「『嗅ぎつけようとしてくるかもしれないな。よし、二回目の取引を急ぐぞ。遅くとも二時間以内だ。

飛ばれるくらいならまだしも、同業の兵隊なんざ用意されたら面倒だ』」

 

言われるでもなく、カワノが車を出した。


 

「変わらねーなぁ…」

 

流れゆく景色を見つめながら、RGが言葉をこぼす。

 

「街か?」

 

フォレストが彼を見た。

 

「そうだ。うんざりするような人や車の量」

 

「はは、NYもさほど変わらないだろうに」

 

「あれとはまた違う」

 

「よほど嫌いなんだな、この街が。

この国が、と言うべきか?」

 

これに対して、RGは眉をひそめた。

 

「何が言いてぇ?」

 

「それで、この国を逃げ出してアメリカで裏家業を始めたんだろう?」

 

フォレストは実質的には警察官だが、今となってはRG達の生業を咎めるつもりはない。

それはRG自身もよく理解し、安心している。

 

「聞き間違いか?まるで俺が負け犬みたいだと言っているように感じるが」

 

「その通りだが?違うのか?」

 

「てめぇに何が分かる!俺は閉鎖的で排他的なお国柄が嫌いで海を渡ったんだよ。自由が欲しけりゃ自由の女神のお膝元、そうだろうが?」

 

「いくら自由でも、俺の国で犯罪を起こされちゃ迷惑な話だ」


何を思ったのか、フォレスト刑事はRGの怒りを買うような言葉を並べる。

 

「おい、俺とケンカでもやろうってのか?」

 

「いや、そんなつもりはないが。

ただ、知りたいんだ。明らかにお前は力を持っている。そのルーツをな」

 

「くだらねぇ。素直にそう言えよ。

回りくどい奴だ。デカはみんなそうなのか?」

 

確かに、RGが日本にいた頃の話は誰も知らない。

クサナギやカワノですら、ニューヨークで彼と出会ったのだから。

 

「ふふ、誰かとこんなに長旅をしたのも初めてだからな。

少しくらい興味を持ってもイイだろう?」

 

「ケチなチンピラだっただけだ。そのくらい察しがつくはずだぜ」

 

RGはサングラスをかけ直し、タバコを胸元から一本取り出した。

ナカムラの手から火がともされる。

 

「違うな」

 

「違わない!」

 

「…やはりどうあっても話さないか、ゴンドウ」

 

「自分の話なんか、つまらねぇんだよ。組の名前でも教えて欲しいのか?てめぇこそ、面白い話の一つや二つ持ってねぇのかよ」


イライラとRGが放った。

同乗している彼の仲間は、理由や内容は分からずとも二人が口論している事くらいは気付いている。

 

カワノとナカムラはぴたりと硬直しているし、クサナギはちらちらと振り返っているからだ。

 

「面白いとは思っていないさ。

辛い過去に違いないはず。だが、駆け出しのチンピラが海を渡って力を手に入れたとは考えにくくてな。

こっちにいた頃にもそこそこイイ立場だったはずだ」

 

「だったらどうだってんだ?

今は今。昔は昔。

今の俺には、日本にいた頃の名残はねぇよ」

 

「それに、身体能力には目を見張るものがある。まるで忍者だ。

お前…単なるヤクザ者というより、殺しでメシを食ってたんじゃないのか?

それでクライアントにしろ、ターゲットにしろ、場が悪くなって」

 

「憶測にしても笑えねぇ」

 

身体に突き刺さるような冷たい声色。

RGの声には紛れもなく殺気が込められている。

 

確かにフォレストが言うような事が有り得ない訳ではないが、それをRGが肯定する事は無かった。


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