93 家で食べよう
晩ごはんを誘われた私達は、独り暮らしで鍛えたであろう、蕾さんの圧倒的な女子力に‥‥。
「お湯をかけて三分っすね」
意気消沈していた。
まさかここまでとは‥‥いやまぁ普通はこうなのかもね。
美味しいんだけどね、カップ麺も。
だけど、少し女の子の手料理を食べてみたかったとそんなことを思わなくもない。
「いや、五分って書いてあるわよ?」
「え、マジっすか!?」
別に固い麺がいいならそれでいいと思うけどね。
今回の場合、素で間違えたみたいだけど。
でも飲み物は揃ってるのに、食べ物全然無さそうだね‥‥。
「これは、全く料理とかしてなさそうね。 奈留、冷蔵庫の確認を!」
「ボス、了解です!」
私はキッチンの冷蔵庫に手をかける。
まぁ冷蔵庫を見れば大体何を食べてるかが、わかるからね。
頼むから食べられるものが入ってますように‥‥。
「あ、その冷蔵庫は───」
「何これ」
そのなかに入っていたのは‥‥。
「───クリオネ飼ってるっす!」
「まさかのクリオネ専用!?」
食べ物ですらなかったのか。
◇◆◇◆◇◆
これはどうしたことでしょうか。
いつの間にか目の前には料理がいっぱい!
‥‥いえ、いつの間に、というより私が作っているんですが。
あのあと私が作る、という流れになり、しかし材料も器具も何もない。
そんなこんなで、何故か蕾さんと由南ちゃんが私の家に来るということになった。
蕾さんが食べてみたいと言って、私が了解した形だ。
私としても、楽しいのでいいけど。
まぁ兄さんにも作らないといけなかったし、これでよかったかな。
「奈留~遅いわよ~」
「奈留ちゃんファイトっす!」
「奈留がんばれ~」
見てないで手伝えよ!
あと、さらっと兄さん最後に入ってるし。
蕾さんは兄さんと昔会ったことがあるようだが、兄さんは覚えてないらしい。
知らない人なので不機嫌な顔をするかと思い、私の友人と言ったら、兄さんは笑顔で蕾さんを迎い入れてくれた。
「あれ? そういえばこういう時って、いつも森田さんいると思うんですけど、どうしたんですか?」
珍しいことなので、兄さんに聞く。
「奈留が帰ってくるちょっと前まではいたんだが、腹が痛くなったらしくてな、全然治らないから今日のところは家に帰った」
へぇー‥‥あ、蕾さんがいるからか!
またしても意味わからない力が働いちゃいましたか!?
「奈留ちゃん、どうしたっすか?」
「ううん、何でもないよ」
まぁ別に言う必要はないよね。
それにしたって、偶然が重なりますね。
「でも、本当に奈留ちゃんは何でもできるっすね~。 まるで───」
え? 何?
まさかこんなことで、転生がバレちゃうとかないよね!
いやでも、蕾さんって鋭いところがあるし‥‥。
お願い、バレていませんように!
「───お嫁さんとか奥さんみたいっすね! 結婚とかしないんっすか?」
えー!? そっち!?
自分の理想の妹目指しているだけなんですけど!?
何だか複雑な気分ですよ。
一応、元男性だったこともあるわけなので‥‥。
あと蕾さん、結婚って相手がいないとできないんだよ?
全くする予定とかありませんし、あり得ませんし。
それに法律でもまだ無理だから!
「もう、冗談だよね?」
「まぁ冗談っすけど」
でもこういう話をすると決まって兄さんが‥‥。
「あはは‥‥」
特に何も言うことはなく、その後の晩ごはんを食べているときも、兄さんはずっと笑っていた。
いや言うの我慢してるのかわからないが、何か言うよりも怖いからね!
「怖い印象があったんっすけど、なんかお兄さん面白いっすね♪」
どこが!?
その後、二人が帰り、私が寝る直前まで兄さんはずっと、ボーっとしていた。