86 新たに
前半は引き続き、森田広葉さん視点です。
後半からは奈留ちゃんに戻ります。
あの人が俺に言った、二つのこと。
一つは、奈留ちゃんが元は陸だったこと。
そして、もう一つ、蔭道蕾には関わるな、ということ。
何故こんなことを言われたのかはわからない、けどさ‥‥。
こうなるなら先に言っといてくれよ。
絶対昔に会ってるって知ってただろ。
それも教えてくれればよかったのに‥‥もうがっつり関わってるよ。
‥‥まぁでも、別にこれでいいか。
もう関わっちゃったし‥‥仕方ないよね。
すみません、忠告守れませんでした‥‥。
「どうかしました?」
「いや、なんでもないよ」
それに昔の友達を無下には出来ないしね。
「そうですか‥‥。 あ、あの一つだけお願いがあるんですが」
お願い?
「何? お願いって」
何かあるのかもしれないと、俺は少し意気込んだ。
「えと、あの‥‥別に友人になってくださいなんて言いません。 だけど、もしまた偶然会ったら、これからも変わらず、ひーくんって呼ばせてもらえませんか?」
あぁ、こんないい子を関わらないようにするなんて、俺には出来ないな。
「あはは、うん、いいよ」
正直、恥ずかしさはあるが、しっくりくるし。
あぁ、後でちゃんとあの人に謝っておかないとな。
◇◆◇◆◇◆
二人が出会ったところを、ずっと見ていた私達。
よかったという気持ちと安心した気持ちが入り交じって、よく分からない感情になった。
「よかった、本当によかったよ」
「うん、作戦大成功だったね」
この作戦がよかったのはわかった。
でも、私は正直、何故この作戦にしたのか、よくわからなかったのだが。
「でもどうしてこんな回りくどいことを?」
「蕾さんから詳しく聞いて初めて会ったときと状況を似せるようにしようと思ってさ。 偶然出会うところとか公園という場所とかね。 まぁあまり自信はなかったんだけど」
つまりは違うところでは会えないとふんだわけだね。
私なら考え付かないっていうか、できないけど。
でも会えたということはこれが正解だったのかな?
いや、正解なんてあったのかすらわからないけど。
広葉が、ちゃんと会ってくれてよかったよ。
正直、途中でも帰るかもって思ったから。
でも、本当によかった。
「じゃあ、私達はそろそろ帰ろうか」
「そうだね、あまり野暮なことはしたくないからね」
あ、ちゃんと蕾さんと広葉に連絡もしとかないとね。
◇◆◇◆◇◆
「奈留ちゃん、磨北くん、ひーくんと会わせてくれてありがとっす」
次の日、私と信くんは蕾さんに呼び出されて、感謝されていた。
信くんはわかるけど、私は今回役に立たなかったし‥‥。
「私はなにもしてないよ」
私は蕾さんに、はっきり言ったのだが。
「そんなことないっす! 一緒に探してくれたり、話聞いてくれたり、嬉しかったっすよ」
「う、うん‥‥」
なんだか照れ臭くなってしまった。
「今後、奈留ちゃんが困ったときは言ってほしいっす! 私でよければ力になって見せるっすよ!」
こうして私に新たに頼もしい? 友人が出来た。