80 探し求めたもの
後半、蕾さんの視点があります。
ひろば、だから頭をとって、ひーくん。
うん、つじつまはあっているはずだ。
よし明日、蕾さんに確認しよう‥‥いや、ちょっと待って。
まだ何か忘れてないか?
あ! そういえば広葉が何か言われてたんじゃなかったっけ!?
確か蕾さんと関わるなって。
いやいや、でも、わからない。
どうして蕾さんと関わるなって言ったのかが。
今、その謎の人の情報は、私の前世の私を知っているということだけだ。
その人は一体何を知っているんだろう。
そもそも、もし、広葉がひーくんだった場合、その人は蕾さんが広葉を探しているのを知ってるってことになるんじゃないだろうか。
いや、確証はないけど。
でもこの先も関わることがない人を関わるなとは言わないはず。
私だったらそのまま何も言わないし。
私だけじゃなくて、蕾さんのことまで、知ってるなんて。
私はまだ確定では無いにしろ、その時、少し怖くなった。
◇◆◇◆◇◆
次の日、私は蕾さんに連絡をとろうと思ったのだが、少し考えてみると、まだちゃんと広葉と決まったわけではない。
もし、それでぬか喜びさせてしまっては申し訳ない。
私は蕾さんに連絡したい衝動をグッとこらえ、先に広葉に連絡をとることにした。
『もしもし、奈留ちゃん?』
「おはようございます、森田さん。 朝早くすみません。 今大丈夫ですか?」
『うん、大丈夫だよ。 それで何か用かな? 出来ればキャッキャウフフな展開を希望します』
うわー! こいつに蕾さんの話、したくねー!
ていうか、電話を切りてー!
いやいや、可能性がゼロ‥‥ほとんどゼロだとしても私は蕾さんに協力するって誓ったんだから。
「少し聞きたいことがあったので、電話しました」
『えっと、今日の予定はね‥‥』
それはもういいんだよ!
兄さんと仲良し過ぎるだろ!
「聞いてないです。 ていうか興味ないです」
『ひどい! まぁいいや、それで聞きたいことって?』
蕾さんの名前を出そうとして、私は思いとどまった。
聞きたいことは、たくさんあるが、慎重に質問しないといけないと気づいたからだ。
もし蕾さんの名前を出した場合、関わるなって言われているから真実を話さない可能性がある。
私としてはそれが一番困る。
つまりは蕾さんの名前を出さず、蕾さんの好きな人だってわかる方法‥‥。
‥‥ダメだ。 ひとつしか浮かばない。
もうこれでいっか!
「森田さんって昔、ひろばって呼ばれてましたよね?」
『うぐっ、それを今言われると少し恥ずかしいな。 でも呼ばれてたね。 当時は気に入ってたんだよ』
よし、これはあってたな。
まぁこれは私も確信を持っていたので一応聞いただけだ。
「それで、それの頭をとって、ひーくんって呼ばれたときってありませんでした?」
これが本題だ。
蕾さんの名前を出さず、なおかつ広葉であることも確かめられる。
正直、これしか聞けないし。
さぁ、どうだ!
『あぁ~呼ばれてたことあったよ。 まぁひろばの方が呼ばれてたけどね』
き、きたー!
じゃあもうほとんど確定なんじゃないですか、これ!
「誰に呼ばれてたとか覚えてないですか?」
『え、誰? 誰だったかなぁ。 あ、いやでも可愛い女の子だったと思うよ。 うん、そうに違いない! はぁ~、きっと素晴らしく可憐な女の子になっているだろうなぁ』
うん、可憐は違うかもだけど、あってるんじゃないか、これ?
「もう聞きたいことは聞けました。 ありがとうごさいます」
ようやく、蕾さんに連絡できる。
『え!? そんな急に? まだなんのことか俺よくわかってないんだけど!? 結局、なんだったのさ! そうだ! 俺の今日の予定言ってなかったね。 今日の予定は』──ブチッ
私は迷いなく通話停止ボタンを押した。
ふぅ、ミッション完了だぜ!!
◇◇◇◇◇◇
私は昨日、奈留ちゃんと磨北くんと一緒にひーくんを探していたが、それがいつも以上に疲れたのか、なんだか今日は体が重い。
「最近は特に体を動かしているはずなんだけど、昨日は歩きすぎたかな‥‥」
やはり体を動かすことは人並み以下のようで、からだのあちこちが悲鳴をあげていた。
でも、こんなんじゃいつまで経っても見つれられない!
自分の身体に鞭を打ち、私は起き上がった。
「今日も探しに行かないと。 あ、服‥‥」
私は服を着て、自分の部屋を出ようとした。
ドアに手をかけたとき、私の携帯から着信音が鳴り響いた。
こんな時間にかけてくる人なんていたかな‥‥。
画面を見ると、そこには昨日一緒に探してくれた、奈留ちゃんの名前が。
どうしたんだろう‥‥。
私は電話に出るため、無理矢理気分を上げた。
人と接するときは笑顔じゃないと。
「ちわっす、奈留ちゃん! こんな朝からどうしたっすか?」
やっぱり朝からはしんどい‥‥。
『こんな朝にごめんね、蕾さん。 でも急いで話しておかなきゃって思って』
なんだろう?
「慌ててるようっすが、落ち着くっすよ。 それでなんっすか?」
もう一緒に探せないとかならいやだな。
そんなふうに私は後ろ向きの考えしか思い付かなかった。
だから、奈留ちゃんが言ったことは全く思いもしないことだった。
『あのね‥‥ひーくん多分だけど、わかったよ!』
「え‥‥嘘‥」
私は戸惑い、携帯が手からすり抜けていった。




