77 初恋の人
蕾さんとは帰る家の方角が違うようで、その場で別れ、今は信くんと二人で帰っていた。
しかし、最近楽しく話すことが多かったが、今日はなんだかそんな気分にはなれず、少し沈んだ気分で話していた。
「見つからなかったね、なんだか少し悔しいな」
「でも蔭道さんの様子から見ると、今までも一人でずっと探していたみたいだし、三人に増えてもやっぱり、すぐ見つけるなんて出来ないよ」
「でも‥‥うん、そうだね」
すぐ見つからないなんてわかってたことだ。
だけど、蕾さんを見ていたらなんだが、早く見つけたいって思えてきた、ただそれだけだった。
「でも僕、蔭道さんがあんな風な子だって意外だったかな。 過去に戻りたいって思うほど好きなんて言う子には見えなかったし」
それは私も思ったかな。
でも蕾さんなら、なんだかタイムマシンとか作れちゃいそうだけどね。
いや無理かな。
「そうだね。 なんだかもっと応援したくなっちゃったよ」
「僕もだよ。 初恋らしいしね」
へぇ、いつの間に聞いたんだろう。
さすが、私よりコミュ力が高い! いや当たり前か。
「それじゃあ、もっと頑張って探さないとね。 見つかったら蕾さん告白とかするのかなぁ」
「するんじゃないかな? まぁ結果はどうなるかわからないけど、今は見つけないことには始まらないからね」
出来れば、成功してほしいが、相手にも好きな人がいるかもしれない。
うまくいってくれたらいいんだけどね。
「でも初恋かぁ~。 信くんは初恋って覚えてる?」
「うん、まぁ忘れることはないんじゃないかなぁ。 やっぱり、それぐらい大事な思い出なんじゃないかな」
隣を向くと、信くんは遠い目をしながら呟いていた。
信くんの初恋の人ってどんな子だったんだろう。
可愛い子だったのかな♪
「初恋って、どんな女の子だったの?」
「え!? いや、それは‥‥」
いきなりだったからか、信くんは戸惑っていた。
やっぱり、こういうこと話すのって恥ずかしいのかな?
しかし、信くんは落ち着いたのか、また遠い目をしながら話し始めた。
「‥‥放っておけないような人だったよ」
おっちょこちょいだったのかな?
へぇ、そういう人が好きなんだ。
「告白とかしたの?」
「ううん、その前に突然遠くに行っちゃったんだ。 だから出来ず終いだね」
小学校の時に転校しちゃったのかな。
信くんはその子に聞いたりとか、探したりとかしなかったのかな?
でも、何だか私と似てるなぁ。
まぁ私は前世だし、いなくなったのは私の方だけど。
しかし、そうなると信くんも応援したくなるなぁ。
「また会えるといいね、その子と」
「‥‥そうだね、きっと‥‥」
その後、家に近づいていたので私達はそこで別々になった。
◇◆◇◆◇◆
家に帰るとリビングの電気がついていた。
しかし、声がしないってことは広葉は来てないのかな?
リビングから兄さんが出てきた。
「お帰り、奈留」
「ニャー」
にゃー?
「えーと、ただいま兄さん‥‥と猫?」
何故か兄さんは腕に猫を抱えながら出迎えてきた。