338 あったかもしれないそんな世界
ラストです!
「こんなところで何してるんだ?」
私は桜の根本で物思いに耽っていると、いつの間にかお兄様が近くに立っていた。
「お兄様‥‥いえ、ただ考え事をしていただけですよ」
「そうか‥‥でも、別に考え事をするなら、ここじゃなくてもよかったんじゃないか? まぁ、高台だから景色はいいが‥‥」
「何となく落ち着くんですよ、この場所は‥‥静かですしね」
こんなにいい場所なのに人がいないというのは奇跡のような場所だし、それにここは私も思い入れのある場所だしね。
「でも、ほら‥‥桜嫌いだっただろ?」
「そうですね、嫌いですね」
一度嫌いになったものは中々変わるものではないらしく、今もずっと嫌いなままだ。
「なのにこの場所がいいのか?」
「一度、綺麗だって思っちゃったんですよね、この桜‥‥だから何だかこの桜だけは特別というか‥‥。 ホッとするんです」
「よくわからんな」
まぁ、見た目は何処の桜も同じようなものだし、私もたぶんこの場所に桜が咲いていなければ、どれだけ同じ桜でも嫌いになってたと思うけれど‥‥。
「わかりづらくてごめんなさい、お兄様。 でも、本当にそうなんですよ。 ‥‥それよりもお兄様、こんなところまで来たのは、何か私に用事ですか?」
こんなところまで探しにくるんだから理由もなく来ないよね‥‥。
「いや、ただ本当に何をしているのか気になって来ただけだよ。 ま、用事はないが探していたって感じだな。 でも、考え事の邪魔をしてしまって悪かったな」
「いえ、全然大丈夫ですよ。 ストーリーも考え始めたところですから」
「ストーリー?」
「‥‥あ、いえ! 何でもないです、忘れてください!」
何もないのに探してくれたのが嬉しかったからなのか、思わず口を滑らせてしまった。
「ごめん、そういう反応されると凄い気になるから、隠さないで言ってみてよ」
「あぅ‥‥えっとですね‥‥‥‥少し物語を書いてみようかなぁって思ったり思わなかったりして‥‥」
「執筆ってことか?」
「はい‥‥自己満足で書けたらいいかなぁっていう‥‥」
まだ何となくの段階でお兄様に話すというのは何だかとても恥ずかしい‥‥。
「ま、完成したらどんな感じなのか聞きたいな」
「はい‥‥」
これは真剣に書かないといけないやつだ‥‥。
そこから私はどんなのにしようか改めて考える。
やっぱり自分が経験したことと似たような話の方が書きやすいかな‥‥?
そんなことを考えて、時間を気にしないでいると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「そうですね」
帰ろうとして、不意に私は立ち止まって、桜を見上げた。
桜は初めて見たときと変わらず、とても綺麗だった。
この桜は何だか懐かしい人に会ったような気分になる。
「ありがとう‥‥」
「どうかしたか?」
「あ、いえ。 行きましょう!」
私達は今度こそ、帰るべき場所に向かって歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
人の運命は変えられないものだ。
それがどんなに嫌なこと‥‥例えば死ぬようなことでも、未来の運命はわからず、それ故に絶対に変えたりなどできない。
そして、変えられないことがわかっているからこそ、その運命を引いてしまわないように、極力危険なことはしないだろう。
しかし、そんなことに注意していたところで、他者からの悪事は防ぐことなど出来ない。
そこにいたから死んだ、なんてものは何をしたって無駄なのだから。
‥‥でも、そんな運命でも‥‥もし、助けられたとしたら、どんな人生を送りますか?
二年間、本当にありがとうございました!




