337 暗闇の世界
真っ暗で何も見えない。
何も聞こえない。
体に感覚がないし、動かない。
何故か体が無重力の中にいるかのように浮いている。
『ここは何処だろう‥‥』
私、夕闇奈留は意識を取り戻した‥‥といえるのかはわからないが、自我はある。
自分はどうしてこうなっているのか‥‥頭が混乱して何がどう生っているのかわからない。
私は自分の覚えている範囲で記憶を遡っていくことにした。
確か私はお兄様を助けようと腕時計を使って、それで何故か自分の体に戻っていて、それで‥‥‥‥。
‥‥‥‥私は何も出来ずに死んだ。
そうだ、私は死んだんだった‥‥。
そんなのすんなり思い出せそうなものだが、本当に嫌なことは心の奥底に封じ込めてしまうのかもしれない。
それだけ自分がなにも出来なかったことを私は後悔しているのだろう。
自分が何があったのか思い出した私は今度は何故このような場所にいるのか、そもそもここはどこなのかを考えることにした。
でも死人が来る場所なんて一つしかないよね‥‥。
ここは死後の世界なのだろうか‥‥。
確かに真っ暗だし何も聞こえないし、こんな場所現実にあるわけがないもんね。
でも、死後の世界にしては何だか夢を見ているときのようにボンヤリとしている。
うん、何だかこういう夢を見ているような感じだ。
まぁ今の私にとっては、夢なのか死後の世界なのかなんて些細なことなのだろう。
私はたぶんもう現実に戻れないのだろうしね‥‥。
‥‥でも、もしここが死後の世界なら少しだけ残念なことがある。
やっぱり死んでも大切な人になんて会えないんだってことだ。
天国とかなんてあまり信じてはいなかったけれど、それでも何処かであるんじゃないか、なんて期待していた。
蕾ちゃんにもお兄様にも、たくさんたくさん話したいことがあって‥‥でも、やっぱりもう会うことも、もちろん話すことも出来ないんだね‥‥。
‥‥‥‥会いたい。
◇◆◇◆◇◆
どのくらいの時間が経ったのだろうか‥‥いや、時間なんてわかるわけもないし、そもそも時間という概念が存在しているのかどうかも疑問だ。
私は時間が経てば私の意識は消えていくものだと思っていた。
だけど、まだ自我を保ったまま、真っ暗な空間をただ浮いている。
この時点で私はずっとこの場所で一人、なにもなく過ごすのだろうと覚悟していた。
『────』
突然、何処から声が聞こえてきた。
この声は‥‥‥‥お兄‥‥様‥‥?
どうしてここに‥‥もしかして、本当に天国があって、お兄様が私を迎えに来てくれたのだろうか‥‥。
『───行こう』
何処に行こうとしているのだろうと一瞬思ったがそんなことは些細なことだ。
私はお兄様とずっと一緒にいられるならどんなところにだって行くつもりなんだから‥‥それがどんな地獄でも‥‥。
お兄様の手が見えて、私は自然とお兄様の手をとっていた。
『お兄様!』
そして私達は暗闇に呑まれるかのように何処かに消えていった。
次回、最終話です!




