336 望んだ光景が‥‥
『こっちは異常なし。 そっちは?』
「大丈夫だよ。 特に問題はなさそう」
この桜を監視し始めてから何年が経っただろうか‥‥。
その間にもしかしたら、またあの女の人が現れるかと思ったが、全く現れることはなく、特になんの異常もなく今日をむかえた。
私達はこの日をずっと待ち望んでいたので、嬉しいようなほっとしたような‥‥何だか少しだけ寂しいような‥‥複雑な気持ちになった。
でもまだ油断は出来ない。
その為に私達は朝から万全の体制で今日、この日に臨んだ。
「でも、ここまで何年も守ったら、この先もずっと伐られずに残っていてほしいね‥‥」
『そうね、でも流石に私達がずっと守っている訳にもいかないからね。 目的が達成されようとしている今、目的以上のことは考えない方がいいわ』
「そうだね、欲を出して失敗なんて元も子もないからね。 ‥‥でも、本当にこんな日が来るとは思ってもみなかったよね‥‥あの繰り返しの日々から考えると‥‥」
『まだ気が早いわよ、でもまぁ、本当にそうね‥‥』
「お姉ちゃんも一緒に見たかっただろうなぁ‥‥」
『えぇ、本当に‥‥』
こうなることを一番望んでいたのが夕闇さんだったからね‥‥。
夕闇さんがいてくれたらってどれだけ思ったことやら。
『だから、夕闇さんの分まで私達が頑張らなくちゃね』
「うん!」
今日、陸さんたちがお花見をする。
本来なら、この時期になるとバスに乗ってあの遠くの桜を見に行くことになっているはずだが、今回はその気配は全くない。
まぁ、元々桜が近くにあればそこに行っていたのだろうから、不思議なことではない。
その他の心配もあるが、それは私たちではなく先生の森田さんに任せましょう。
近くにいれるのだから私たちよりも守りやすいだろうしね。
では、最後まで油断せずに見届けよう‥‥夕闇さんが望んだ光景を‥‥。
◇◆◇◆◇◆
「もしさ、もしもの話だけど、始めの‥‥あの世界で同じようにこの桜があったら、こんな風に皆笑顔でいられたのかな‥‥」
小乃羽は先程までの元気はなく、何だか少し遠くを見ているような‥‥なにかを思い出しているような感じだった。
『どうなんでしょうね‥‥でも、ここまでうまくはならなかったんじゃないかしら』
桜があってもなくても関係なく、マスターは倒れていたし、夕闇さんは恋を成就することはなかったのだから‥‥。
「‥‥‥‥そうだよね。 きっとこの世界が特別なんだろうね‥‥でもさ、どうして私達も同じようにならなかったのかって、どうしてお姉ちゃんがあんな思いしなくちゃならなかったのかって、どうしても考えちゃうんだ‥‥」
『小乃羽‥‥』
「ごめんね、本当なら今は喜ぶところなのに‥‥」
『ううん‥‥そんなの全然、気にしなくていいわ』
確かに今の光景は喜ばしいことではあるけれど、私達は大切なものをいくつも失ったのだから。
そして、特に何事もなくお花見はおわり皆帰っていった後、私達は桜の近くに行き、桜を見納めた。
『お花見、終わったわね』
「‥‥うん、そうだね」
『私達も行きましょうか』
「うん」
そして、私達はこの世界を後にした。




