335 さまざまな可能性
「やっぱりただ私の勘違いだったんだよ、きっと‥‥。 だ、だってありえないもんね‥‥うん、絶対に違うよね‥‥」
確かに勘違いの可能性も高いとは思う。
でも、本当にあの女の人が着けていたのが発明品の腕時計だとしたら‥‥。
私は一つの可能性が考えに浮かんでいた。
ありえないとは思う。 だけど、もし本当だとしたらこれしか思い浮かばなかった。
小乃羽ももしかしたら気付いているのかもしれない。
『あいつは‥‥いや、あの女の人は‥‥夕闇さん?』
腕時計を使えて、尚且つ桜を伐ろうとするくらい嫌いな理由がある人物は、夕闇さんしかいない。
桜を見に行く途中で陸さんが亡くなって、それが何度も続いて‥‥いい思い出があるわけないし、嫌うのも当然だ。
ここで夕闇さんが桜を守ろうとしたのだって、お兄様の事があったからで、本来なら見たくもなかったんじゃないだろうか‥‥。
いや、違う可能性だってもちろんある‥‥だけど、何だか一番しっくりとくるのだ。
「違うよ、絶対に‥‥。 お姉ちゃんがあんな人なわけない」
『知ってるわよ、私達が知っている夕闇さんはあんな人じゃない。 だけど、もしどこかの世界で夕闇さんが腕時計によって心が壊れたまま正常に戻らない世界があったとしたら? 私達が夕闇さんを助けに行かない世界があったとしたら?』
「そんなのあるわけないよ‥‥。 そもそも全部推測で、ちゃんとした証拠なんてないでしょ‥‥」
『そうね‥‥あったかもしれない世界なんて考えるだけ無駄なのかもしれない。 その女の人が着けていた腕時計が本当に発明品の腕時計であるとは限らないしね。 まぁ、ただ今までの起きていた出来事がなんとなくそれだと説明できるから、そう思い込んでいるだけなのかもね』
あったかもしれない、そんな不確定な世界を信じる方がおかしいのかもね。
そんな無限大の可能性を考えるだけ無駄なのだから。
「ごめんね、自分から言い出しておいて否定ばっかり‥‥」
『ううん、わからないことだらけだもの、仕方がないわ。 それよりも早くタイムマシンのところに行きましょうか』
「うん‥‥」
少しだけモヤモヤとした気持ちを抑えつつ、私達はタイムマシンに夕闇さんを連れていった。
そこから私達の桜の監視が始まった。
主にあの女の人が来たらすぐにでも追い返せるようにいつでも近くで見張りながら、一日を過ごす。
私がタイムマシンで過去や少し未来も行ったりもしたが、特に異常はなかった。
あの女の人は一度邪魔をされたからといって、そのまま放置するとは考えられないが‥‥。
まぁ、来ない方がいいんだけど‥‥。




