331 おかしな人
まさかこんなにすぐにわかるなんて思わなかった。
女の人の言葉を鵜呑みにすればだけど、嘘をついている感じはしないし、改めて見るとその女の人の後ろには全く似つかわしくない、チェーンソーが置いてあった。
まぁ、木を伐るって言ってるんだから持ってきていても不思議ではないけれど、伐られてしまっては困るのだ。
「あいつが‥‥」
『小乃羽、落ち着きない』
小乃羽が全く冷静じゃないわね‥‥当然だけど‥‥。
夕闇さんをこんなことにしたのはあいつだ! みたいな感じで睨んでいるし‥‥まぁ、確かに桜が伐られなければここに来る必要もなかったから間違ってはいないのかもしれないが‥‥。
でも、今は小乃羽のことを構っている時間はない。
『なんで桜を伐らなきゃいけないの?』
「なんでって、別に理由はないけど? ただ桜が気に入らないだけ‥‥」
気に入らないからって伐ろうとするって発想がまずおかしい。
正直、説得して伐らないでもらうっていうのは無理かもしれない。
『そもそもこれはあなたの桜ではないんじゃないの? 自分が所有していないものを無断でって‥‥』
「この木は誰のものでもないよ。 ま、というか法律とかルールとか私にはどうでもいいんだけどね」
こいつやっぱり普通じゃない‥‥。
『誰のものでもないのなら尚更、あなたが伐るのはおかしいでしょ』
「はぁ、うるさいなぁ‥‥というか、あなたたちはそこで倒れている人を回収しにしただけなんじゃないの? さっさと連れて帰ってよ。 普通に邪魔」
「‥‥誰が邪魔だって?」
あ、不味い、小乃羽が完全に頭に来てる‥‥。
『小乃羽! まだ、まだキレちゃダメ!』
「でも、あいつお姉ちゃんのこと!」
『気持ちはわかるけど、落ち着いて』
私もかなりカチンとはきたけれど‥‥。
『私たちはこの桜が伐られないようにするためにここに来たの。 だから帰るつもりはないわ』
「えー面倒だなぁ‥‥どうしても退かないの?」
『えぇ、どうしてもよ』
どんなことがあっても、ここまで夕闇さんのためにも私は絶対にここは守ってみせると心に誓った。
「そもそもどっから伐るなんて情報が‥‥。 はぁ、じゃあ、ここはもういいや。 別の場所行こおっと」
『え‥‥』
女の人は突然決めたかと思うと、チェーンソーを持って桜から離れていった。
そんなすぐに諦めるなんて、どういう‥‥。
『一体なんだったのあの人‥‥でも、おかしなやつだってことは確かよね』
一応、分身を使って尾行をさせようと思ったのだが、歩いていった方向に人の気配が全くなかった。
本当になんだったんだろうか‥‥。




