330 原因
「お姉ちゃん! 起きて! 起きてよ!」
私達が桜の場所に着いたとき、何故か夕闇さんは小乃羽の体ではなかった。
設定が違っていた? いや、渡したときは小乃羽の設定になっていたはず‥‥。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
『小乃羽! やめなさい! そんなことしたって夕闇さんは目覚めたりしないわ!』
夕闇さんは桜の木の根本で横たわっていた。
ただ眠っている訳じゃないことは見た瞬間に何となくだけどわかった。
こんなことになるなら小乃羽の言うとおり、もっと早く行動して夕闇さんにすぐに会いに行けばよかった。
今更後悔しても遅いが、考えずにはいられなかった。
小乃羽は泣きじゃくっていて‥‥でもそうなるのも無理はないし、私も気持ちはわかった。
私も内心、小乃羽のように言いたいことを言えたらよかったのだが、自分がしっかりしないといけないと思い、私は出来るだけ冷静に振る舞った。
「でも! でも!!」
『パニックになる前にやることがある。 まずは夕闇さんと私達がここにきた理由を思い出して。 いや、まずは‥‥そこのあなた、見てたんでしょ? 何があったの』
ここの場所にきた瞬間に小乃羽や夕闇さんとは別の誰かの気配がわかっていた私は隠れているであろう方向に向かって話しかけた。
もしかしたら逃げるかもしれないと思って一応分身の準備はしておいたのだが、その人はすんなりと出て来た。
もう少し渋ると思ったのだけど‥‥。
出てきた人物はフードを深くかぶっていて顔がわからなかったが、女の人だということはわかった。
そしてその女性はなんのためらいも躊躇もなく喋り始めた。
「何もなかったよ。 いつの間にか倒れたんだもの」
この人の言っていることを信じるとしたなら、やっぱり夕闇さんが倒れた原因は腕時計ということになるのか‥‥。
元々の夕闇の体とでは既に限界を超えていたのだから、その可能性は高い。
誰かが夕闇さんをという可能性を捨てたわけではないけど‥‥。
それよりも一つ疑問なのは、先ほど出てきた女の人だ。
ここにいたのもそうだし、顔を隠しているのも普通ではない。
そもそも人が倒れたら、知らない人でも心配するのもじゃないのか?
目の前にいる人は人として何かがおかしい。 そんな気がした。
『あなたは何故ここに?』
「それって答える必要あるのかな?」
『もちろんないわ』
夕闇さんのことならともかく、こんな奇妙な人のことなんて聞けるわけがない。
「‥‥まぁ、いいや。 私はね、この目障りな桜を伐りにきたの」
『っ‥‥!』
じゃあ、こいつが桜を切った原因‥‥。




