329 大きな桜の木の下で
無意識に歩いていると、いつの間にか、私は開けた高台にいた。
ここは‥‥小乃羽ちゃんと何度もきたことがある場所で‥‥そして、今回戻ってきた理由があるかもしれない場所だ。
無意識だったけど、ちゃんと目的の場所に歩いてたんだ‥‥。
それだけ今回は失敗できないって気持ちがあったのかもしれないな‥‥。
しかし、ここに来るまでに、痛みが引くことはなく息も段々と苦しくなってきたような気がする‥‥。
もう限界が来ているのかもしれない‥‥。
私は最後の力を振り絞り、辺りを見渡す。
そこには大地にそびえる大きな桜の木があった。
◆◆◆◆◆◆
「はぁ、はぁ‥‥本当に‥‥あったんだ‥‥」
もしかしたら桜なんてないかもしれないという気持ちもあったから、目の前にある大きな桜の木に私はほっとする。
それにまだ伐られてない‥‥。
いつ伐られるか、そういえば詳しいことはアイちゃんから聞いていないや‥‥でも、そんなの関係ない。
私は、この場所をずっと守ればいいだけのことなのだから。
でも、本当にこの桜のことを教えてくれた蓮佳さんには感謝してもしきれないね‥‥。
改めて、桜を見ると満開に咲いていて、大きさもそこらにあるような小さな桜の木とは比べるまでもなく大きかった。
ずっとこの桜を守りさえすればお兄様を‥‥‥‥。
私はもう一歩桜に近付こうと足を動かそうとした。
しかし、私の体は自分の考えとは裏腹に、自由に動かすことが困難になっていて、無理矢理動こうとしたその時、桜の木の根本辺りに倒れてしまった。
起き上がろうとしたが、そんな力は残っておらず、でも桜を見ていないとと思い、私は気力だけで仰向けになった。
そして、それ以上私の体はもう力が入らなかった。
体力も気力も既に残っていない。
ただ、体の痛みだけはまだずっと続いていた。
そして、倒れてしまった私は目の前の桜をただ眺めることしか出来なくなった。
‥‥‥‥なんでかな、桜なんてあんな出来事があったから嫌いになってたと思ってたし、自分から見たいとは思わなかったけど‥‥でも、やっぱり間近で見ると綺麗だ‥‥‥‥な‥‥‥‥。
あ‥‥れ‥‥‥‥視界が‥‥‥‥。
今までよりも更にぼやけて、桜もただの桜の色がわかる程度になった。
意識が朦朧となっていく中、なんとなくだけど、自分がこれから死ぬんだということがわかったような気がした。
以前は死んで償いたいなんて思っていたけれど、でもやることがある今では死にたくないという気持ちの方が強くなっていた。
お兄様を助けたい。 アイちゃんと小乃羽ちゃんにきちんと恩返しをしたい。 今度こそ御姉様にきちんと謝りたい‥‥。
考えればいくらでも出てくる。
そうだ‥‥私はまだ、何にも出来てないのに‥‥‥‥‥‥まだ‥‥まだ‥‥‥‥まだ‥‥‥‥
‥‥‥‥まだ、生きていたかった‥‥。
ごめん‥‥なさ─────