321 その言葉がとても‥‥
外に出ると太陽の光が眩しく、私は目を細める。
今日は良い天気だなぁ‥‥まぁ、夏だし少し曇ってる方が嬉しくはあるんだけど、晴れていると気持ちも明るくなるような気がするし、今の私にはこの方がいいかもしれない。
「さて、早くコンビニで買い物をして、朝食を作らないと、すぐに昼食になっちゃうからね」
疲れてぐっすりとはいえ、小乃羽ちゃんもお昼前には起きるだろうし、早く帰って料理を始めないと‥‥。
『今日は何を作るんですか?』
「えっと、今日は‥‥って! アイちゃん!? いつから近くに!?」
『ずっといましたよ。 どこに行くのか気になりましたから。 買い物に行くだけですか?』
「うん、すぐに帰るつもりだったんだけど‥‥」
別にそれ以外何もないから、監視も必要ない気がするけど‥‥まぁ、アイちゃんがいてくれた方が安心できるっていうのはあるけど‥‥。
その後、アイちゃんと世間話をしつつ、コンビニで買い物をしてその帰り道。
『そういえば、夕闇さん。 ずっと腕時計持ってるんですね』
「何だかどこかに置いておくのが怖くて‥‥でも、腕時計に着けるのは何だか間違えて起動させそうで怖いから着けてないんだけど‥‥」
『ま、大切にしていただいていることはわかりますが、別にこういうときは置いておいてもいいと思いますよ』
「確かに家の方が安心かも」
でも、以前も肌身離さず持っていたから、持っていることで安心感のようなものがあるんだよね。
『まぁ、渡したのは私ですし、ずっと持っていてもらっても‥‥‥‥あれ、夕闇さん‥‥』
「どうかした、アイちゃん?」
急に話が途切れた私は疑問に思い、アイちゃんの方を見る。
アイちゃんは遠くの方を見ていた。
私も同じ方向を見てみると、遠くの方に一人、こちらに向かって歩いてきていた。
その人物は見覚えのある‥‥というよりも、よく知っている人物がいた。
「お兄‥‥様?」
何で、お兄様がここに‥‥。
だって、まだ旅行のはずじゃ‥‥。
「探したよ。 家にいなかったしどうしようかと思っていたけど‥‥」
「どうして‥‥」
「俺は小乃羽ちゃんのことが好きです。 だから離れていても関係ないし、俺は別れたくない」
お兄様の言葉が突然で、私はどうしていいのかわからずに戸惑う。
でも、何とか心を落ち着けて、私は口を開く。
「私も‥‥好き‥‥です。 でも、ごめんなさい。 あの場で話した通り、私はお兄様を縛りたくはないんです」
「それは‥‥わかってる。 わかった上で自分の気持ちを改めて小乃羽ちゃんに言いたかったんだ。 困らせちゃってごめんね」
「い、いえ、私の方が謝らないといけないのに‥‥」
「でも‥‥俺は何年先でもいいからまた会ってほしい。 それだけ今日伝えたかったんだ」
何年先‥‥腕時計を使えばきっともう会うことはできないだろう。
だけど、何だかお兄様のその言葉がとても嬉しく感じた。




