74 探してほしい人
予想外のことに変な間ができてしまった。
一瞬何を言っているのか理解できなかったよ。
「好きな人ってどういうこと? つまりは恋愛をしたいってことなのかな? それともそのままの意味の好きな人?」
まだ見ぬ運命の人に出会いたい、とか蕾さんってそういうロマンチストだったかな?
たぶん違うよね。
「そのままの意味の好きな人っす。 ただ、今何をしているかとかは全くわかんないっす。 何せ、昔会ったっきり一度も見たことない人っすから」
一度見て、一目惚れしたとかそういうことなのかな?
しかし、まだあまり話が見えてこないんだけど。
そもそも言わせてほしい。
「その話を何故私に?」
「こういう恋愛相談なら奈留ちゃんがいいって噂で聞いたっす!」
それ何処の噂ですか!?
私じゃなくて、たぶん同姓同名がいるだけですよ、きっと!
あとはオバケとかその類いの可能性も!
それと先程から蕾さんがお願いしているのは、恋愛相談ではなく、人探しですが、それでも私にお願いするのだろうか‥‥。
「たぶんそれ私じゃないですよ」
「えーでも聞いたっすよ? すごいモテるって」
「あはは、ないない」
中身が男なのに、そんな私を好きになるなんてそんな‥‥あったな普通に。
いやいや、でもすごくって訳じゃないもんね! もっとモテる人いるよね!
それに結局のところ、前世でも付き合ったことなどないわけで、知識なんて更々ない。
あまり参考にはならないんじゃないかな。
「でも、私はそんな噂がなくても奈留ちゃんに頼もうと思ってたっすけどね」
「え?」
何それ‥‥いつからそんな友情みたいなものが生まれていたのだろう。
私自身を必要としてくれる、何だか少し嬉しいな。
「だって奈留ちゃん、ちょろ‥‥優しいっすから」
こいつ今何言いかけやがった!?
ちょろいって言おうとしましたよこの人!
そこは、一番間違えちゃいけないところでしょ。
「お疲れさまでした」
もう、付き合いきれません、本も返さないといけないので、華麗にフェードアウトです。
徐々に距離を空けていく。
「あぁ! 待ってほしいっす! こんなこと友達である奈留ちゃんにしか頼めないっすよ!」
え? 友達‥‥。
えぇ、いつから私達友達になったんですか!?
いやまぁ小学校でほんの少し話したりはありましたけど‥‥。
‥‥でも友達というのなら、友達のお願いを無下にしたくないし。
「‥‥わかりました。 友達であるところの私が話を聞いてあげましょう!」
えぇ、実際聞くまで解放してくれそうにないですしね。
「ちょろい!」
もう帰っていいですか!?
◇◆◇◆◇◆
「じゃあ結局のところ、その好きな人? を探せばいいんですね?」
「そうなるっす。 私一人では中々見つからないっすから」
ということは相手は転校しちゃって、離れて住んでいるとかそういうことなのかな?
「結局のところ、その好きな人ってどんな人なんですか?」
「知らないっすけど?」
知らないのかよ!
じゃあ探せないよ!?
「じゃあどうやって探すのさ!」
「今から言う人っぽい人を見つけてきてくれたらいいっすよ。 あとは自分で判断するっす」
「いや、それ、そんな簡単に出来ることじゃないから‥‥」
「まぁまずは、昔会ったときの思い出を言うっすよ」
思い出を語ってくれるらしい。
しかし、昔のことならその人この辺にいない可能性もあるし、変わっている可能性だってある。
話を聞いてみて、出来れば、少し協力して、見つからなかったらすぐさま諦めようかな。
「私が小学生の時っす、公園で水風船につまずいて、転けたときがあったんすよ」
何故そこに水風船があったのとか突っ込んだらダメですかね?
気にしたら、ダメなんだろうなぁ。
「そしたら、その時水風船を投げ合って遊んでいた男の子の一人が怪我していた私を心配してくれたんっすよ」
あ、それで水風船があったんですね。 突っ込まなくてよかった。
でも、そうかその心配してくれた男の子が好きになったということですかね。
「じゃあその男の子のことが好きになったの?」
「違うっすけど?」
「違うのかよ!」
じゃあその男の子誰なんだよ! 出さなくてよかっただろ。
「それで、その男の子はもう一人の友達と二人で水風船を投げ合っていたんっすけど、そのもう一人の友達は私に気づかず、その男の子に水風船を投げたんっす。 するとその水風船はすぐそばにいた私に激突したわけっすよ~」
怪我したうえに、水浸しになるなんて災難だねぇ‥‥ってこれのどこが好きな人の思い出話なんですか!
「それ好きな人と関係ある?」
「その水風船をぶつけてきた人が、私が好きになった人っすよ?」
それ、何処に好きになる要素あります?




