300 諦める
『バスですか‥‥これはまたピンポイントできましたね』
絶叫とかお化けとか全くだし、車も大丈夫なのにバスだけだからね。
確かにピンポイントだね‥‥。
「お姉ちゃんが唯一苦手なものといっても過言じゃないですからね‥‥ですが、旅館に行く手段が今のところバスしかないみたいなんで、別にお兄さんがしたくてしてるんわけではないんですが‥‥」
「そ、それはそうだろうね」
お兄様が進んで嫌だと思うことをするわけないんだから。
『流石に以前バスに乗ろうとした時で夕闇さんがバスに対して恐怖を感じているっていうのは僅かかもしれませんが気付いていると思いますしね』
あのときのことはあまり思い出したくはないが、確かにあんな反応をすれば気付かれていない方が無理があるかも‥‥?
「でも、あんな辛い出来事があったっていうのはお兄さんは知らないわけですから、そこまで深刻には考えてはいないんでしょうね」
『そっちの可能性が高いかもしれないわね』
普通、バスだけに乗れない人なんていないだろうって思う方が当たり前だよね。
私だって、自分じゃなかったら意味がわからないもん。
『そういえば、夕闇さん。 バスっていうのはあの例のバス以外でも駄目なんですか?』
「一度、違うバスに乗ろうとしたことがあったんだけど‥‥やっぱりかなり怖かったね‥‥」
あのバスよりかはマシかもだけど、それでも辛くて乗るのは諦めた。
もうバスだって頭がそう思うだけで、あの時の光景が脳裏に焼き付いて離れない。
『そうですか‥‥なら、行かない方がいいのかもしれませんね』
「‥‥そうだね」
無理していって、お兄様を困らせる訳にはいかないし‥‥。
「せっかく買い物したのに‥‥」
「ごめんね、小乃羽ちゃん。 せっかく小乃羽ちゃんも色々と一緒に選んでくれたのに‥‥」
「いや、それは私が無理矢理‥‥。 というか、バスに乗れないのならタクシーででもなんでも行けるじゃないですか!」
『‥‥確かにそれはそうかもだけど』
「いや、いいよ。 バスに乗れないのは私の弱さが原因なんだから‥‥旅行は諦めるよ」
「お姉ちゃん‥‥」
小乃羽ちゃんはいつも私に色々としてくれているが、私は頼ってばかりじゃ駄目なんだ。
‥‥そう言っていつも頼ってしまうんだけどね。
でも、今回はそもそも私のわがままみたいなものだし、ただ断ればいいだけの話だ。
お兄様には何て言おうかな‥‥。
正直に、バスに乗れないから一緒にいけないなんて言えないから、少しやることがあるってことでいいかな‥‥。