72 程々に
「ふぅ、ごめんね。 もう本当に大丈夫だから」
祈実さんが、そう言うので、私達は二階の私の部屋からリビングに戻った。
リビングに戻ると信くんと兄さんが向かい合って座っていた。
何処の面接ですかあなた達は‥‥。
「お、もういいのか? あまり時間も経ってないぞ」
時計を見ると、まだ二階に上がってからそこまで時間は経っていなかった。
でも、本人もうあまり酔ってなさそうだし‥‥。
「奈留ちゃんが、私だけ、のために介抱してくれたからすっかり元気だよ」
なんで、私だけ、を強調して言ったんですか!?
それに私全然なにもしてないよ?
添い寝したぐらい? いや添い寝したっていうか引っ張られてなったっていうか。
「なんだと!? き、きさま‥‥。 奈留~俺も気分悪い~」
なんで悔しそうなんですか。
そもそも兄さん、あなた、生き生きしてらっしゃるじゃないですか!
「大丈夫ですか? 廊下になら布団敷きますよ?」
「優しさと意地悪が混在してる!?」
本当だったら、心配して看病もしますけど、今日はさすがに騙されたりはしませんよ。
目がキラキラしていらしたし。
「そういえば、信くんと兄さん何か話してるみたいだったけど、なに話してたの?」
「え? あぁ、学校での奈留の様子を聞いてただけだよ。 な、磨北弟?」
「は、はい」
ふ~んそうなんだぁ。
いやいや、なんで信くんにそんなこと聞いてるんですか!
一瞬流しそうになりましたよ。
あとなんか信くんがおかしいような。
兄さんが祈実さんと話している内に、小声で信くんに、聞いてみた。
「信くんどうしたの?」
「いや、奈留さんのお兄さんって色んな一面があるんだね‥‥」
何の一面ですか!?
とても気になるんだが‥‥いやただ妹のことを熱く語る兄かもしれない。
由南ちゃんが家に来たときも、言ってたから。
兄さんとは同じ人間だとこれまでもこれからもずっと思うけど、出来れば、その一面は私にはないことを祈るばかりです。
◇◆◇◆◇◆
「奈留ちゃん、暗くなってきたね」
「そうですね」
先程から特に何かするわけでもなく会話を楽しんでいたのだが、いつの間にかすっかり夜になろうとしていた。
「なってきたね、じゃねーよ! そもそもいつ帰るんだよお前ら」
まぁ実際結構な時間いますからね。
兄さんが怒るのも無理ないとは思いますが、私は楽しいので、いていただいていいんですけどね。
「今日は泊まっちゃおっかな~」
「きさねぇ、それはさすがに」
まぁいつかはしてみたいですけどね。
着替えとか、その他の準備は今日ないだろうし、さすがに難しいかな。
「また今度できたらしたいですね」
「やったー! 今度ね」
あれ、楽しそうだったから言ったけど、考えてみたらヤバくないですか、私の心臓の方が。
えぇ、緊張で死んじゃうかもしれません。
「でもきさねぇ、もうそろそろ帰った方がいいんじゃないかな」
「も~信くんまでそう言うなら仕方ないなぁ。 じゃあもう帰るよ」
うわ、兄さんすごく嬉しそうな顔してる‥‥。
◇◆◇◆◇◆
帰り道はわかるというので玄関で見送ることになった。
「じゃあね、信くん。 また学校でね。 今度は避けないでよ」
「あはは、了解。 また学校で、奈留さん」
信くんは笑顔で答えてくれた。
「祈実さん、今日はありがとうございました。 また遊びましょうね」
「うん。 次は絶対にお泊まりセット持ってくるから」
「絶対持ってくるんじゃねーぞ! 本当にもう来ないでくれ」
「またね」
そう言って祈実さんと信くんは帰っていった。
祈実さんのことだから次呼んだとき、多分お泊まりセット持ってくるんだろうなぁ。
いつでも来れるように準備しとかないとね。
「そういえば奈留」
「どうしたの兄さん?」
「祈実が、言ってたよな。 なんでもしてくれるようにお願いするって」
そういえば、ありましたね。
そういうことばかり覚えてるんですから。
「言ってましたね」
「じゃあそれで今度から、あいつら来たら追っ払うっていう‥‥」
そこまで来るのイヤなのか!
でも祈実さん達に悪いですし‥‥あ。
「言ってましたけど、そのあと祈実さんからお願いされてないので無効です♪」
その後、外に出た兄さんは大きな声で叫んでいた。
「祈実───!! 戻ってこ────い!! お前に頼みがあるんだ───!!」
近所迷惑ですからやめてください!
あと、私がなんでもしてくれるように祈実さんに頼むんじゃなくて、祈実さんに直接言った方がいいと思いますよ。
兄の声はその後も祈実さんに届くことなく、むなしく響いていた。