71 人との距離
「ふぅ、これでよしっと、あとは私が見てますから」
私の部屋のベッドに祈実さんを寝かせた。
「あぁ、じゃあ俺らは戻るから、起きたら言ってくれ。 じゃあ行くぞ磨北弟」
「え、僕もですか?」
祈実さんが心配かもしれないし、私はいていいと思うんだけど。
「当たり前だろうが、何、妹の部屋に居座ろうとしてんだお前。 早く来い。 少し話もあるしな」
「は、はい」
そう言うと、兄さんと信くんは部屋から出ていった。
いや、でも二人にされても私も緊張するし、いてもいいんだよ‥‥と言う暇がないほどすぐ出ていきましたね。
「な、奈留ちゃん」
あ、祈実さん先程から何も言わなかったから、てっきり眠ったのかと。
「どうしました祈実さん? 水とかいります?」
「少しクラっとするけど大丈夫。 それより奈留ちゃん、ちょっとこっちきて‥‥」
祈実さんに言われるがまま私はベッドの近くによると、祈実さんがいきなり私の手を引っ張ってきた。
「きゃっ! き、祈実さん!?」
引っ張られた私は、ベッドの上にいる祈実さんの横に倒れこんでしまった。
ど、どうしたというんですか祈実さん!
「こっち向いて」
正直、この状況は非常にマズイ。
えぇ、抱きつかれるより、キツいんですけど!
そもそもなんでこんなことになってんの?
「これはどういう‥‥」
上を向いていた私は祈実さんの方に顔を向ける。
祈実さんの顔が近い‥‥‥‥あ、一瞬意識が。
「ありがとね、奈留ちゃん」
「え?」
緊張で混乱しているせいか、うまく頭が回らない。
いったい何のことだろう。
「信くんと友人になってくれて」
あれ? あの時、祈実さんいなかったのに。
「聞いてたんですか」
「あはは、気になっちゃってね。 でも聞いてなくても信くんの表情でわかったけどね。 すごくスッキリとした顔してたもん」
やっぱり姉としては、信くんのことが気になるだなぁ。
そういえば、祈実さんなら信くんがなんで、あまり友人になりたがらなかったか知ってるかも。
「祈実さんは私が避けられてた理由、知ってます?」
「ううん、わからない。 でも避けられてたって訳じゃないと思う。 奈留ちゃんと急に仲良くなったから驚いちゃったんじゃないかなぁ」
そこまで急なことはないと思うけど‥‥。
転校初日もすぐ友達作ってたイメージがあるし。
「でも信くん、すぐ皆と仲良くなっていったように見えたんですが。 私も皆とそこまで変わらないと思いますし」
「奈留ちゃんには仲良くなったように見えるかもしれないけど、昔から信くん、人と関わるとき、少し壁を作ってるんだ。 まるで仲良くなるのが怖いみたいにね」
「壁‥‥ですか」
全然気づかなかった。
「だから、奈留ちゃんが感じた距離っていうのはそういうことなんじゃないかなぁ‥‥まぁ今回は何か別のことも関係してそうだけどね」
後半は独り言だったのか小声で、私にはよく聞こえなかった。
じゃあその距離って私にだけじゃなかったのか。
でもそうなると‥‥。
「‥‥あ、もしかして私、無理矢理過ぎたんじゃ!」
「それがよかったんだよ。 信くんが本当に仲良くできる奈留ちゃんみたいな純粋な友人が出来るのは、お姉さんとしても嬉しいからね」
「だから、ありがとう‥‥ですか?」
「そ。 いつまでもあのままではいけないから。 まぁいつも迷惑をかけている私が言うのもどうかと思うんだけどね」
祈実さんは笑いながらそう言った。
こんなに弟のことを考えることができる、優しい姉。
私もいつかこんな優しい人になりたいなと、そう思った。
「そういえば、祈実さん。 もう酔いは大丈夫なんですか?」
「え? あ、思い出したら気持ち悪く‥‥」
「祈実さん!?」