280 別の理由を‥‥
次の日、私はお兄様に会う約束をとった。
アイちゃんは夏を越すまでとは言っていたけど、でも早めに行動した方が良いだろう。
早く行動すればそれだけ、今後どうするのかを決める時間が増えるわけだから。
それに夏まででも、私のわがままにお兄様を巻き込む訳には行かないもんね。
朝から、アイちゃん達には会っていない。
やっぱり元々忙しいのだろう‥‥それなのに私のために色々と手助けをしてもらって‥‥。
私も出来るだけ二人の手助けがなく、一人で出来るようにならないとね‥‥。
‥‥っと、そろそろ行かないとね。
私は支度を終わらせる。
「‥‥いってきます」
私は玄関の扉を開け、外に出た。
◆◇◆◇◆◇
待ち合わせ場所にはお兄様はまだ来ていないようだった。
これからお兄様に別れ話をする‥‥そう思うだけで心が張り裂けそうになる。
納得はしていても、何処かでそんなの望んでいないと思っているのかもしれない。
ずっと好きだったんだ。 そんな簡単に割り切れてたら、もうとっくの昔に諦めているよね‥‥。
でも、やらなきゃいけない。
‥‥まだどういう理由で別れるのかは全く決まっていないけど‥‥。
嫌いになったというのが、やっぱり別れるには必要なのかな‥‥。
「嫌いなんて‥‥あり得ないのにね‥‥」
「何があり得ないの?」
声のする方に急いで振り返ると、いつの間にかお兄様が立っていた。
「お、お兄様!? な、なんでもないですよ、あはは‥‥」
びっくりした‥‥そもそも、声出ちゃってたんだ‥‥。
でも、聞かれなくてよかった‥‥これで全部聞かれちゃってたら別れるのが難しくなってたかもしれないからね‥‥。
でも、心の準備が整う前にお兄様が来てしまった。
「急に福林さんから誘われるなんて珍しいから、どうしたのかと思ったけど‥‥なにかあった?」
「え、えっと‥‥あの‥‥」
まさか、そんなに何かあるって感じの顔をしていただろうか‥‥。
「ま、ここでじっと立ってるのも変だし、歩きながら話そっか」
「は、はい、そうしましょう」
そして、私はお兄様の隣を歩き始めたが、これでお兄様の隣を歩くのは最後かもしれないと思うと、何だか寂しい気持ちになった。
◆◇◆◇◆◇
「それで、どうしたのかな? 悩むでいることがあるなら聞くよ」
こんなに心配してくれているお兄様にこれから嫌いになったから別れるなんて言わないといけない‥‥。
本当にいいの‥‥そんなことを言ってしまって‥‥。
「福林さん?」
もっと別の理由、嫌いじゃないけど別れないといけない、そんな理由────
「私、夏に転校することになってしまって‥‥」
「え、転校? 福林さんが?」
‥‥‥‥ん、転校!?