278 思い返す
「え、アイちゃんなにいってるのさ! 確かに聞いた限り不味い状況だけど、お姉ちゃんが別れる理由になんて」
‥‥いや、充分別れる理由だ。
私が付き合ったことで、一年も早まってしまった。
早まった原因が他に思い当たらない以上、きっとこれは私と付き合ったことで起きたことだろう。
それなのにこのまま付き合うことの方が問題だ。
『私が夕闇さんにお付き合いを勧めたのはそれで陸さんの死がなくなるのではないかと思ったからです。 そうならなかった以上付き合っていても仕方ないでしょう?』
「そんな言い方───!」
「待って小乃羽ちゃん! ‥‥これはアイちゃんの言うとおりだよ。 だからもう‥‥」
私は小乃羽ちゃんとアイちゃんが喧嘩しないように間に入ったが、小乃羽ちゃんはさらにヒートアップした。
「お姉ちゃんまで! せっかくお兄さんとお付き合いできたのにどうしてですか! だってまだこれからって時なのに‥‥!」
「だからだよ。 今ならまだ何事もなかったのように出来るよ、きっと‥‥」
でも、前の状態に戻ったとして、そこから私はお兄様を救うことなど出来るのだろうか‥‥いや、そもそも近くにいることすらもうできなくなるかもしれない。
謎のことが多い‥‥だけど、こうなった以上は別れるしかない。
『では、お願いします。 別れるタイミングは夕闇さんにお任せしますが、夏を越すことはないようにお願いします』
私はそれに言葉を発することなく、頷いた。
一人になった私は、改めてこの世界に来てからのことを思い返した。
短かったけど、お兄様とお付き合いをするなんて、妹の時には考えられないようなことができて本当に嬉しかった。
ただ、それだけで満足するべきなんだ‥‥私はお兄様を助けるためにここに来たんだから。
お兄様には何て言おう‥‥何か言おうにも嘘になってしまう気がする。
好きじゃなくなった‥‥いや、お兄様のことが嫌いになんてなるわけない。
むしろ、付き合ってからは色んなところが見えて、余計に好きになっていってるほどだ。
でも、それ以外に別れたい理由なんて思い付かない。
私から告白しておいておかしいことはわかるし‥‥きっとお兄様だって納得なんてしないだろう。
もしかしたら、嘘だってバレちゃうかな‥‥。
いや、でもやらなきゃいけないんだ。
お兄様の側にいたら、来年の春に‥‥私が好きだとかそんなの関係ない‥‥お兄様には生きてほしいんだから。
付き合うのとは、また違う方法を考えないとな‥‥。
‥‥本当にあるのかな‥‥そんな方法‥‥。