269 危なかった‥‥
「奈留、そういえば今日はお兄さんと一緒じゃないのね」
「今日は何だかいつもより早く目覚めてね、森田さんのところに行っちゃった。 驚かせにいくんだってさ」
なんかそういう話を聞くと余計にお兄様を誘いづらいな‥‥。
「それで、今日はお兄さんと一緒にいないのね」
「そうなんだよ。 急に出ていっちゃうし、ホント、たまに子供っぽいんだから」
森田先輩に対してはどこの世界もそんな感じだよね。
驚かせるとかも、森田先輩の方も喜んでいらっしゃるし、本当に二人の関係はいい関係だと思う。
「でも、その無邪気なところも、お兄様のいいところですよ♪」
「小乃羽ちゃんは本当に兄さんのことが好きなんだね。 あれ? そういえば、小乃羽ちゃんが兄さんを好きになったきっかけって、聞いたことないな‥‥」
御姉様の言葉に私はまずいと思った。
私がお兄様のことを好きになったのは、私が妹の時の話だ。
通り魔に襲われそうになったところを助けてくれたお兄様。
そこから私の全てが始まったと言ってもいい。
でも、そんなこと御姉様に話せるはずもない。 言った瞬間、今まで全てが崩れ去ることがわかっているのだから。
‥‥まぁ、そもそも言ったとしても信じてもらえないだろうけど。
でも、何だか御姉様に嘘はつきたくないと思ってしまった。
いや、それもあるけど‥‥お兄様を好きになった理由に対して、偽りの話なんてしたくなったという気持ちの方が強いかもしれない。
それにそういう嘘ってバレそうだし。
だからって、話せばアイちゃん達にも迷惑がかかる。
とっさに私は先延ばしにする発言をしてしまった。
「言ったことありませんでしたか‥‥すみません、恥ずかしいので、ゆっくりお話しできるときにしますね」
「うん」
問題が解決したわけではないけど、現状切り抜けるにはこの方法しかないと思った。
まぁ、時間が経てば特に気にしなくなるかもしれませんからね。
『夕闇さん』
急にアイちゃんに声をかけられ、私はギリギリ表情を変えずに耳を傾けた。
御姉様たちを見ると反応していないことから、私だけに話しかけているのかな。
でも、何だろう‥‥さっきの先延ばしのことだろうか‥‥もしかしたらアイちゃん怒ってるのかも‥‥。
あとでちゃんと謝らないと‥‥。
『聞こえてますね。 夕闇さん、蕾さんが近づいて来ています。 今すぐそこから離れてください』
え、蕾ちゃんが近くに?
もしかしたら、御姉様に話しかけてくるかもしれないし、そうなれば一緒にいる私は蕾ちゃんとかかわってしまうわけで‥‥。
‥‥今すぐ離れなきゃ!
「あ! 御姉様、灘実先輩。 私今日早く学校に行かないと行けないんでした!」
「え? そうなの? 呼び止めたりしてごめんね」
「いえ、さっきまで忘れてましたから。 では先輩方、また放課後部活で」
「えぇ、また部活で」
「じゃね、小乃羽ちゃん」
私は急いで御姉様達から離れるために小走りで学校に向かった。
蕾ちゃんはその後すぐに御姉様達と話し始めたようでかなりギリギリだったようだ。
危なかった‥‥。




