69 心からの思い
何を話していいのか全くわからない。
う~ん、もう直球で話しちゃおう!
「この前はありがとう」
「尾行のこと? それなら何度も言ってるけど、僕も楽しかったからそんなにお礼なんていらないよ?」
「それとごめんなさい!」
この前のことで何かはわからないけど、悪いことしちゃったかもしれないし、ここは謝るべきだよね。
「え? なんで謝るの?」
磨北くんはきょとんとしていた。
あれ、間違ってる?
「だって、この前から何だか避けられているような気がするし、もしかしたら私悪いことしたのかなぁと思って」
「いや、別に夕闇さんが悪い訳じゃ‥‥ただ自分の気持ちの整理がまだ出来てないだけなんだ」
気持ちの整理?
‥‥え、私と仲良くするのって、そんなに大変なの!?
ちょっと今、私も気持ちの整理ができないんだけど。
「そうなんだ‥‥」
「だから、これは僕自身の問題だから、少しだけ時間がほしいんだ。 なにかきっかけがあれば、きっとわかると思うから」
「うん、わかった。 でも私は磨北くんのこともう友達だと思ってるからね」
整理がついたら互いに仲良くなれるってことだよね。
それならいつでも待ちますよ!
すると磨北くんは何かを決意したようにこちらを向いた。
「ねぇ、夕闇さん。 お兄さんのこと好き?」
いきなりどうしたんですか!
兄さんのことが好きとか今関係あるのかな?
「家族としてだよね? うん、好きだよ! ちょっとダメな部分もあるけど、そんなところも含めて理想の兄だと思うよ」
もしかしたら、こんな陸になってたかもっていう理想を見せてくれる兄さん。
私に兄弟の温かさを教えてくれた兄さん。
そんな人を嫌いなわけがない。
「じゃあ、あとひとつだけ‥‥。 今後もその気持ちは変わらない?」
「う~ん、変わらないんじゃないかなぁ。 兄さんも私も」
私がそう言うと、なんだか磨北くんが、少し先程よりも少し変わったように見えた。
「そっか。 うん‥‥大丈夫。 まだ慣れないかもしれないけど、少しずつでいいなら、僕も夕闇さんと友達になりたいかな」
「本当に!?」
今の話で何が変わったかはわからないが、これが小さなきっかけだったのかもしれない。
「うん、改めてよろしく”奈留”さん」
「よろしくね”信”くん!」
◇◆◇◆◇◆
「はぁ、仲良くなっちまった。 だから嫌だったんだよ二人にするのは」
「妹が友達作って、嫌がる兄って私、初めて見たよ。 さすがシスコンだね」
二階に上がったはずの陸と祈実はいつの間にか、リビングと一枚の壁をはさんだ廊下で、二人の会話を聞いていた。
「こんなことなら広葉も呼んでおくべきだった。 いや、呼んでも邪魔するのは失敗しそうだな。 というか祈実、お前さっきから泣いてないか?」
「泣いてないよ! でも少し嬉しくて感動しちゃったかな。 信くん、人と一定の距離を開けること多いから、今日で少し変わればいいかなぁ」
「やっぱり泣いてるじゃ‥‥」
「泣いてないって‥‥じゃあそろそろリビングに入ろっか」
「おう」
そして、二人はリビングに入っていった。