250 よろしく
「奈留お姉ちゃん‥‥‥‥そうですか‥‥残念ですね」
家に帰ったあと、小乃羽ちゃんがそう呟いた。
アイちゃんの方は、何だか悩んでいる表情をしていた。
『ねぇ、小乃羽。 なんで残念がってるの?』
少し間が空いて、アイちゃんが小乃羽ちゃんに向かって呟いた。
『なんか夕闇さんが振られたみたいな雰囲気出してるけど、そんなことないからね? ちゃんと話聞いてたのよね?』
「頭の残念な子を見るような顔しないで! ただ私はそんな重要な場面に立ち会えなかったことが残念に思っただけだよ」
『いや、普通は立ち会えないから。 それとその反応は間違ってるからね。 今喜ぶ場面だからね』
「そうだったね。 おめでとうございます、お姉ちゃん!」
小乃羽ちゃんが私にそう言うが、私は二人にすべてを話した後、改めて今日の出来事を思い出してボーッとしていた。
◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、付き合おうか」
「‥‥え?」
お兄様のその言葉が理解することができず、私は驚く以外出来ずに固まってしまう。
今、付き合おうって‥‥。
絶対にあり得ないと思っていた言葉が今聞こえたような気がした。
聞き間違い‥‥じゃない?
いやいやだってお兄様が私とお付き合いするメリットなんて‥‥。
「どうして、告白してきた福林さんが驚いてるの?」
「いや、あの‥‥無理だと思っていましたから‥‥お兄様とお付き合い出来るなんて‥‥。 お兄様はおモテになるし‥‥」
「そんなことないよ」
そんなことないことはないはずなんだけど‥‥。
「でも、どうして私と‥‥」
「何だか放っておけないっていうか‥‥何だろうな、直感的にそう思ったんだよね。 それに何だか福林さんとならうまくいきそうな気がしたし」
それを聞いた私は、嬉しさで涙を流しそうになった。
まさかお兄様からそんなことを言ってもらえるとは思っていなかったからだ。
妹だったなら一生叶わなかったであろうことが今叶った。
辛いことが多く、どれも初めにいた世界に比べれば悲しくなることばかりだったが‥‥今この瞬間のために私は戻り続けたんじゃないかと思えた。
少しの後悔が消えることはないが、それでも私は今最高に幸せなんだと思う。
「これから‥‥よろしく‥‥お願いします」
堪えきれなくなり、急に泣き出してしまった私をお兄様は驚くことなく、涙を拭き取ってくれた。
「うん、よろしく」
お兄様を見ると、笑顔で手を差し伸べてくれており、私はお兄様の手を掴んだ。
何だかお兄様の手を繋いだことで、心が暖かくなったようなそんな気がした。




