232 兄に対して私は‥‥
前に乗った時もこんな感じだったなと、ジェットコースターを乗りつつそんなことを思っていた。
ジェットコースターから降りた私は隣の御姉様が手を離してはくれないので横並びで歩いていた。
「楽しかったですね♪」
「そ、そうだね‥‥」
やっぱり怖かったのか、ひきつった笑いだった。
後ろの兄や森田先輩もキツそうな表情をしていて、出来れば今日もう一回乗ってみませんかと提案するつもりだったのだが、流石に皆を見ると二回目は乗れそうにないな‥‥。
御姉様にももう一度乗りたいかと聞かれたが、ここは満足したと言っておくことにした。
◆◇◆◇◆◇
そして、ジェットコースターの後の休憩中に何故か呼び方を変えてみようという話になった。
「同じ呼び方だと何だか面白味がないと思って!」
別に呼び方に面白味はいらないと思いますけどね‥‥。
「小乃羽ちゃんは、誰か変えてみたいとかある?」
御姉様に急に聞かれて少し驚くが、ちゃんと考えてみる。
でも、御姉様はもう御姉様で私はそれ以外考え付かないし、もう御姉様自身に言われたとしても変えるつもりはない。
森田先輩は森田先輩で‥‥ずっとそう呼んでいたからね、今更違う呼び方とか違和感がすごそう‥‥。
「じゃあ兄さんを変えてみようよ!」
「え? でも‥‥」
確かに御姉様と森田先輩を変えるつもりがないなら、もう兄しかいないわけだけど‥‥。
でも、何で呼べばいいのかわからない。
陸さんと呼べばいいのだろうか。
それとも名字で?
しかし、どうしてもそう呼ぶことに抵抗がある。
嫌というわけではない、嫌ではないんだけど‥‥。
「別に俺はどんな呼ばれ方でも、構わないよ?」
兄のその言葉で、私は一つの呼び方が頭に浮かんだ。
‥‥いや、こんな呼び方していいはずがない。
でも、もし本当にどんなのでも構わないのなら、私は‥‥。
「‥‥じゃあ私、お兄様って呼びます!」
私は色々あってもう呼ぶことはないだろうと思っていたことを口に出してしまった。
そもそもどんどんと世界が変わるにつれて、お兄様と呼ぶと冷ややかな目で見てきて、もう呼ばないと決めていたことだったのに‥‥。
この世界の兄が優しく見えるとはいえ、こんな呼び方していいわけないよね‥‥。
‥‥でも、やっぱり兄にはこの呼び方がしっくりとくる。
「まぁ、福林さんが呼びたいように呼べばいいよ」
初めは驚いていたが、兄‥‥いや、お兄様は笑顔で受け入れてくれた。
私は嬉しさで、目が少しだけ潤む。
もう、好きなだけ呼んでいいんだよね‥‥。
「じゃあ、そろそろいこうか」
「そうですね、お兄様」




