210 不具合?
‥‥と、意気込んで腕時計を使った、はずだったんだけど‥‥。
「‥‥あ、あれ?」
景色が変わっていないような‥‥視界にはまだ小乃羽ちゃんが目の前にいるままだし。
腕時計独特の頭痛なども起きていないことをみると、私は戻っていないのかもしれない。
小乃羽ちゃんもコテンと首をかしげている。
「腕時計ついたままですね‥‥お姉ちゃん、ちゃんと起動させました?」
「うん、したつもりなんだけど‥‥もう一回やってみるね」
私は腕時計を設定し直して、もう一度腕時計を使った。
「‥‥‥‥やっぱりなにも変わりませんね。 もしかして壊れちゃったんでしょうか」
「え、それってかなりまずいのでは‥‥」
前みたいに蕾ちゃんの家で確認も出来ないわけだし、直すとかも出来ないんじゃ‥‥。
「いや、でも壊れることなんてしていないはずなんですよね‥‥。 一応調べてみますね」
「うん‥‥」
調べることは出来るのか、それは少しホッとしたが、原因がわからない以上、私はかなり不安になった。
◆◆◆◆◇◆
「腕時計に特に不具合などはなさそうでした。 起動も問題なく出来そうです」
「そうなんだ‥‥なら、なんで戻れないんだろう‥‥」
「まだどうなのかわかりませんが、可能性としてはお姉ちゃんの方に何かあるのかもしれません」
「私に?」
特別に何かしたとかはないんだけど‥‥。
使いすぎてもう戻れないみたいなことでなければ、以前も使っていたわけだし‥‥。
「腕時計‥‥腕時計‥‥あれ? そういえば、お姉ちゃんが腕時計が今手元にない理由ってなんでしたっけ?」
「あ、言ってなかったかも‥‥兄に使ったんだよね。 記憶だけでも過去に飛ばしたら、体は死んでしまうかもしれないけど、記憶は生き続けられるんじゃないかって‥‥。 自分で殺しておいておかしいかもしれないけど‥‥」
もしかしたら無意味なことかもしれないし、勝手に自分のものでもない腕時計を兄に使ってしまったことも今になって後悔が残る。
「いえ、お兄さんを助けようととっさにそんなことを思い付くところがお姉ちゃんの優しいところですよ」
「そんなことないよ‥‥」
自分の力で何かしたのならともかく、別に私の力で何か出来た訳じゃない。
「‥‥って、今は腕時計が使えない理由を考えないといけないんでしたね。 ‥‥あ! お姉ちゃん、一つ聞いてもいいですか!」
「どうしたの、小乃羽ちゃん」
「お姉ちゃん、さっき腕時計の初期設定のこと忘れてましたけど、お兄さんを戻したときも忘れていたのではないですか‥‥?」
「‥‥あ」
先程の違和感はきっとこれだ。
私は兄に腕時計を使う際、そんな設定をせずに腕時計を兄に着けた。
でも、普通に腕時計が起動したのはどうしてなんだろう‥‥。




