207 戻るか戻らないか
「あ、もちろん強制するつもりはないんですよ? それに戻るということは改めてまた腕時計を使うということになるわけで、今まで以上に体の状態が酷くなるかもしれませんし‥‥。 でも、私の気持ちとしては中途半端なところで終わってほしくはないんです」
私としても兄を救いたいという気持ちは確かに私の心にはある。
何も救えていない現状を思えば、余計にそういう気持ちが湧いてくる。
でも、これまでの失敗がどうしても私を後ろ向きにさせた。
「小乃羽ちゃん、私そもそも腕時計をもう持ってないんだよね‥‥」
改めて思うと、腕時計が自分の手元にないわけで、戻る手段ももう私にはないのだ。
だから、戻る戻らないの選択肢自体が私にはないのだ。
「私が使っていた腕時計をお姉ちゃんに貸しますよ。 まぁ、アイちゃんに言ったら怒られちゃうので、こっそりですけどね?」
「え、小乃羽ちゃんはもう使わないの?」
「う~ん、使うかもしれませんけど、今のところはタイムマシンもありますしね‥‥‥‥本来ならお姉ちゃんもタイムマシンに一緒に乗せて過去に戻れば負担も少なくて済むんでしょうけど、作ったタイムマシンは一人用なので、二人一緒に乗ることができないんですよね‥‥」
いや、私がタイムマシンに乗るなんてアイちゃんが許さないだろうから、二人乗りだったとしても私が乗ることはあり得ないだろう。
「そもそも私はもう一度、腕時計を使うことは出来るのかな?」
「それは‥‥‥‥精神が安定した今ですからもう一度使うことは可能だと思います。 ですが、寿命は‥‥」
そうか、精神の方は発明品で少し安定させることができたわけだけど、それで寿命が元に戻るわけではないもんね。
元に戻すことが出来るなら蕾ちゃんが、意識不明になることなんてなかっただろうけど。
「そっか‥‥」
この世界で罪を償うために命を使うか、最後まで兄を助けるためにこの命を使うのか‥‥。
「お姉ちゃんは戻りたいとは思っていらっしゃらないかもしれませんが、もう一度考えてみてくれませんか?」
「‥‥うん」
「でも、ひとつだけ言っておきたいのが、私達はお姉ちゃんに精神安定装置を使うために来ましたから、それが達成された今、アイちゃんがタイムマシンを使って違う世界に行くみたいなことを言い出すかもしれませんから、あまり時間はないかもしれません。 それだけは頭の隅にでも置いておいてほしいです」
そうか、小乃羽ちゃん達がこの世界にいる理由なんてないもんね。




