200 目が覚めると───
誰かの声が聞こえたことで、私は自分自身に向けて刺そうとした包丁をすんでのところで止めることになった。
そして、心がほとんど元に戻りかけているのか、私はこれ以上自分が思った通りに動かせなくなったし、視界も何だか歪んでいて更に気持ち悪くなった。
黒いモヤモヤが私の心を埋め尽くす。
止めてしまったことで、もう手遅れになってしまい自分で自殺することが難しくなってしまった。
でも、さっきの声は一体誰の声だったんだろう‥‥。
いや今はそんなことを考えても仕方がないかもしれないな‥‥。
私はもう、今の私ではなくなるのだから‥‥。
◆◆◆◆◇◆
目覚めたとき、私の部屋のカーテンの隙間から太陽の光が射し込んでいた。
そして、すぐに夜の出来事を思い出した。
夜、私の手で殺してしまった兄の姿をみて‥‥そして自殺しようと‥‥‥‥あれ?
私は心の中にあった黒いドロドロとした感情がなくなっていることに気付く。
そんなことってあるのだろうか‥‥。
何か奇跡のようなことが起きて、元に戻ったとか‥‥いや、そんな都合のいいのこと起こるのかな‥‥?
そもそも、私は兄の部屋にいたはずなのに今は兄の部屋ではなく、私の部屋のベッドで横になっている。
一体何が起きているのだろうか‥‥。
ベッドから体を起こすと、私は予想外のことがあってかなり驚いた。
椅子に座りながらうとうととしている一人の女の子がいたのだ。
「小乃羽‥‥ちゃん?」
何故、小乃羽ちゃんが私の部屋にいるのだろうか‥‥。
そもそもこの世界で小乃羽ちゃんに会ったことなど一度としてなかったはず‥‥。
いや、この世界で会っていなくても戻る前は‥‥‥‥もしかして、私を追って‥‥。
その時、私の頭には小乃羽ちゃんやアイちゃんを裏切って戻ったことが頭に浮かんだ。
私はあれだけ優しくしてくれた二人を裏切ってしまったんだ。
しかも、蕾ちゃんが大切にしていた腕時計を私は自分のために使ってしまった。
それなのにどんな顔をして会うというのか‥‥私はとてつもなく怖かった。
‥‥でも、私は逃げるということはしなかった。
これ以上、逃げても仕方がないと思ったし、償うというのは小乃羽ちゃん達に対してもそうだ。
もし怒られるならきちんと怒られようと思ったし、許されなくても私は二人に謝ろうと思った。
‥‥もしかして、今こうして普通にしていられるのは小乃羽ちゃんのお陰なのだろうか‥‥。
そう思うと、本当にアイちゃんや小乃羽ちゃんに返せないくらいの恩ができちゃったな‥‥。




